表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役覇道  作者: wistereal
三章 『皇国覇道ー序 独立』
PR
92/94

回帰点

 俺達は、今現在建物の一階にいるようだった。地下のように足音の妙に響く感覚があるわけでもなく、音の反響的にこれまた二階以上でもない。それが判断できる時点で十分に人間を辞めていると思うのだけれど、ジンと情報屋の業務のための訓練をしている間に身についてしまった技能なのだから仕方がない。

 さらに言うならば、俺の五感は、既視感を訴えていた。空気の匂い、温度、感じられる全てが、この場所は裏町であると、そう言っていたのである。


 つまり、「ヘキサンド」の本拠地は、裏町に存在していると言うことになる。裏町や下街から独立して単一組織となったヘキサンドとしては、不本意だったかもしれない。独立の象徴に五集落を建造したと言うのに、結局本拠地は裏町のままなのだから。

 だが、夢のないことを言ってしまうならば、組織として活動する際に一番都合がいいのは、やはり大衆が身近に存在している時なのである。独立京を築けるほど、ヘキサンドの力は強大ではなかったのである。


 それにしても、慣れた裏町にいるだけで、自分の心の余裕度合いが違ってくるから不思議なものである。だが、それにかまけて警戒を怠るわけにもいかない。ここは、あくまでも敵の本拠地。俺たちはアウェーで戦いに臨まなくてはならないのだから。



 そんな心持ちで探索を始めてから早三十分。俺達は、一階分階段を上がり、二階に到達していた。正直、疲れなかったと言えば嘘になる。二階に上がるまでの間、俺とアリアは、既に数十人の敵と戦闘を行っていたのだから。

 最初はまだ楽なのだ。俺の「トレース」とアリアの猟犬の秘奥があれば、造作もなく敵は倒せる。しかし、それが何回も続いたら話は変わってくる。魔力は無尽蔵でも体力は尽きると言うこともあり得るのである。


 ヘキサンドの北集落だけでも三百人余りが収容できるキャパシティがあるのだ。その集落内にいた人物が全員この集落にいると考えると、相当に敵がおり、まだまだ倒しきれていないと考えられるはずである。

 しかも、それは計算を北集落の身にした結果である。残りの四集落の人員も計算に入れるならば、一千人規模でこの建物内に敵がいると言うことにもつながるのだ。まあ、流石に建物にそこまでの人数は入り切らないであろうから、一千人は杞憂だと思うが。


「うぅ、そろそろ疲れてきたのです」


 と、アリアが弱音を吐くぐらいには、俺達の中には疲労が蓄積されていたのである。普段滅多に自分の弱点を見せようとしない、それこそ「猟犬」のあり方を貫く彼女が弱音を吐いたことから、この任務の過酷さが窺えるであろう。

 言ってみれば、百人空手の上位互換。千人空手、とでも言おうか。成し遂げた人間でさえ耐えきれず倒れることもあると言う苦行の進化版を、俺たちは強制的に行わされていることになるのだ。


 だが、そんな苦行も終わりを迎えようとしていた。そろそろ数えるのも諦めようと思い始めるほど多人数を地に伏させてきた頃、終わりがはっきりと見えたのである。

 それは、唐突に目の前に現れた。扉、それも荘厳さの伝わる重厚感のある扉である。年季の入ったものであろうのに、一つの傷も見受けられないことからも、手入れが行き届いている、さらにはそれだけの財力があるのだと言うことを容易に想像することができた。

 この扉を開ければ、恐らくは敵の首領がいるだろう。それは限りなく現実に近い希望的観測。だが、俺は0.1%のそうでない可能性に目を瞑り、アリアと共に扉を大きな音を立てて蹴破るように開いたのであった。



 部屋の中は、意外なほどに質素であった。石造りの室内闘技場を改良したようなイメージを持って貰えばいいだろう。無骨なイメージのその部屋は、侵入者である俺たちを拒んでいるようにも、見定めているようにも感じることができた。

 そして、部屋の中心には、六人の人影。五人が円になって、中心の一人を守っているような構図である。その光景から、棟梁かどうかは不明だが、少なくともこの場所の中で一番位階の高い人物というのを見つけ出すのは実に容易であった。


「素晴らしい。素晴らしいぞ男。よくぞここまで辿り着いた」


 状況の把握に努めていると、こちらに気付いたのか、警護されている男が大声で話し始めた。その声は、文面通りに賛美の念が込められているように感じられ、少し戸惑ってしまう。戦う前に相手を褒める間抜けなど、普通は存在しないのだから。


「その執念と意気込みを見習って、我の糧へと変えてやろう」


 不遜な態度で、男は名乗りをあげる。


「我が名は『貪欲』のマモニルス。貴様らの識っているであろうマモニルスのオリジナルとなった、『死を超越した人間(ヒューマノイド)』だ。武人よ、その力と心に応じて、我が貴様の全てを学び、喰らい尽くそう」


 喉が唸る音が聞こえる。それは知らず知らずのうちに、闘争本能と共に怒りを体現したものとして自らが発露したものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ