表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役覇道  作者: wistereal
三章 『皇国覇道ー序 独立』
PR
91/97

識って火に入る夏の虫

 俺は今、暗闇の中にいた。ただし、先ほどまでいた自然の暗幕とはまた話が違う。月明かりが全く存在しない夜でもここまで不気味にはなるまいという、下手な子供が絵の具を一面に塗りたくったような、立体感のない黒。

 そこは、疑いようもなく建物の中であった。足音の反響の仕方、歩いた感覚、全てが俺に、ここは油断ならない敵の腑の中であると、そう訴えていた。


 ではなぜここにいるのか?それは、わからないのだ。魔法陣に魔力を注ぎ込んだ後、俺とアリアは、どこかへ飛ばされてしまった。まず視界が真っ黒に塗りつぶされ、その後に各感覚が順になくなっていく。

 聴覚、触覚、嗅覚。味覚は正直よくわからないが、多分なくなっていたのだろう。そして、何も感じられず、発狂しそうなほど精神が剥き出しに情報を訴え始めた頃、五感が徐々に戻ってきたのだ。

 だから、ここはどこなのか、俺には予測することしかできない。と言っても、限りなく真実に近い予想ならば、することはできるのだが。


 そもそも、俺が魔法陣に魔力を注いだ意図は何なのか?それはというと、これまたジンの指示がきっかけだった。


「魔法陣にたどり着いたら、とにかく地面に向かって、全力で魔力を注入してください。航様ならば、おそらくですが魔力切れの心配はありません。ただ、アリアの手を繋いでおくことだけを、どうか忘れないでいただければと」


 正直言うと、この時点では神が何を言っているのか、俺には全くと言っていいほどわかっていなかった。何言っているんだこいつ、今は時間がないんだからふざけるな、そんな感情が湧いてきかけさえした。

 だが、結局打ち勝つのは今まで彼が培い、証明し続けてきた信頼に足る証拠。俺たちは、結局のところ彼の言葉を信じるほか道が残されていないのである。


「訝しげな顔をしていますね?まぁ無理もないでしょう。ご説明いたします」


「そもそも、我々が「魔力視」を使うことになった理由は、敵の捜索でした。あれだけ強い魔力を身に帯びていたら、見つからないわけがない。しかし実際には、私たちの目に映ったのは、魔法陣のみでした。無論見逃していた可能性はあります。しかし、やはり見逃してしまうほど小さな痕跡しか残っていなかったというのもどう考えてもおかしい」


「つまり、襲撃犯はどこかで、「転移」したということに。転移は別に古代の秘技などではないのです。方法などいくらでもあります。痕跡も残らないほど綺麗にやられたのでし

ょう。屋根の上、もしくは茶色の補色系統の色を移動していれば、容易に発見はできません」


「魔力視の力を行使している間、通常物質の色が反転して見えるのは有名な話です。いるかいないかもわからない魔力視を避けるとは、連中は、相当に周到で狡猾で臆病です」


 普通に考えたら、圧倒的にコスパに合わない行動だろう。しかし、何としてでも追跡されたくない、という考えのもとでなら、それは合理的へと化けるのだ。


「そして、魔力吸収の結界の仕組みから鑑みても考えられることは一つ。結界のどこかが、転移陣の役割を果たしている」


「おそらくは、敵の全員がその転移陣から避難を終えた後に、自動的に結界が発動されるシステムでしょう。そのせいで、襲撃犯の転移と結界の発動時期に大きなタイムラグがあった。いや、そうなるように設計されていた。着眼点がそこに向かないように」


「奴らは、自身がまだこの結界内にいると思われていたかったということです。それはなぜか?奴らの拠点への通路は、閉じれる性質の結界ではないから。そう考えるのが妥当ではないでしょうか?」


 つまり、避難経路があることを何が何でも悟られたくなかった、と。その先が拠点だというのだから当たり前ではあるが。


「おそらくですが、転移の鍵は魔力の注入。そして、場所は最も脆弱性のある場所。そう、わざと結界に脆弱性を作ったんじゃない。転移陣を組み込むために、どうしてもできてしまう隙に過ぎなかったんです」


「それを防ぐために罠を作った。だから、脆弱性を攻撃すれば、自動的に拘束されるようになっているはずです。そう、例えば……近隣の家に閉じ込められ、魔力を完全に吸われるまで、絶対に出ることのできないギミックとか」


 弱点を罠にまで改良したと言うことか?こちらに魔力視がいれば、罠に引っかかる。いなければ、どのみち魔力を吸われ尽くして終わり。全くよく考えられた罠だな。やっぱりこれを考えたやつは相当に性格が悪いだろうよ。


「これらのことは全て、敵が転移陣を用いていると言うことを元にした推察にすぎません。間違っていたら、全てが終わります。それでも、私の策を信じてくださいますか?」


 ジンが、こちらを心配そうな顔で覗き込んでくるのが伝わってくる。正直、確証のない戦いを挑むのは怖い。今までは、出陣の時は自分たちの策が確固たるものだと思って戦いに出ていた。だが、今回は完全アウェーの、ほぼ負け戦。

 だが、こう言うときに俺が言わなければいけないことは一つであった。士気を上げるためにも、信じていると、表すためにも。


「もちろんだ。特攻なんざどうってことない。安心して子供達の解放をしてな」


 アリアは、難しそうな顔で俺とジンの話を聞いていたのだが、俺がその言葉を放った時ばかりは、大きく頷いていた。


 ジンは、その言葉を聞いて珍しく快心の笑みを見せた。そして口を開く。


「はい、いってらっしゃいませ」


ーーーー


 こうして、俺とアリアが今、ここにいるわけなのである。状況から鑑みるに、ここはほぼ間違いなく敵の拠点の中。「ヘキサンド」の真の隠れ家である。


「さぁ、いっちょ暴れてやるとしますか」


 俺はそう言って、人の気配がする方向へと、アリアを連れて動き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ