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悪役覇道  作者: wistereal
三章 『皇国覇道ー序 独立』
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望んで火に入る夏の虫

 走る。俺は、アリアを伴って、塗り潰されたような漆黒の空の下を全力で走っていた。先ほど伝えられたジンのオーダーを果たすためである。彼は彼で対策に追われているため、俺とアリアがやるしかないのだ。

 ジンはジンで、倒れた情報屋メンバーの回収と対処という急務がある。能力の関係で、彼らを救うことができるのはこの三人の中ではジンだけなのである。魔力を吸われすぎて気絶した人間を放置すれば、さらに吸われ続けて命にも関わる。


 だからこそ、ジンに頼ることはできない。情報屋に居候してからまだそこまで日が経っていない二人に重要任務を任せるのは、本当は彼としても不安なはずである。幹部級が一人でも脱落せずに残っていれば、俺たちと共に作戦行動をさせていただろう。

 だが、それは無理な話である。そもそも、情報屋の中で諜報以外の能力を比べた時、この三人が一つ抜けているのだ。そりゃ本業では俺やアリアは勝てはしないが、それ以外のスペックでは、アリアは血筋と血の滲むような訓練、俺は半ばチートの勇者能力で優っていると言える。

 故に、俺とアリアが二人で行動することになるのは自明の理というものなのだ。


 ということで、走る、駆ける。俺はアリアと共闘や一緒に作戦行動することは今までなかったので、正直実戦になった時のアリアの実力というものをあまり知らないのだが、全力の「トレース」で走っていると言うのに息も切らさずついてくることから、やはり相当にスペックが高いのだろうと推測はできる。

 アリアは確かに見た目は線の細い少女であるが、その内には恐ろしいほどの筋肉を内包している。あくまでも獣人化と言うのは、身に宿した獣の特徴を前面に押し出すと言うことなので、非獣人状態にその特徴の全てが失われると言う訳ではない。少なくとも、平時で一般の少女の何倍も強い力を叩き出すことができるのだ。


 と、まあ前置きが長くなってしまったのだが、俺たちがどこへ向かっているかというと、再び「ヘキサンド」北集落の中心、大通りである。例の魔法陣が展開されている場所である。

 もちろん、ジンの結界が途切れている今では、俺が魔法陣を見ることは叶わない。彼のように「魔力視」ができる能力というのは相応に希少らしく、そんなホイホイとそこら辺に所持している者もいない。

 それは、俺やアリアも同じであり、ジンの指令を受けてここにきたものの、魔法陣を見ることができない状態では、どうにもならないというのが現実であった。


 というのも、ジンの作戦は、当然ではあるが「魔法陣の機能停止」というものだったからである。そりゃもちろん、魔法陣を見ることも叶わないような状態でその指令を実行できるわけもなかった。

 だが、そんなことジンが予測していないはずもない。そんな浅慮な人間が一組織を率いるなど到底できることではないのである。ジン曰く、「相手の方から場所を教えてくれる」ということらしいのだ。


「先ほど私は、魔法陣の脆弱性を探しました。その結果、少々脆い部分が存在していたのです。そこならば、地脈からの魔力供給が安定していないので、潰せばあるいは魔法陣全体が機能停止に陥る可能性があります」


「しかも、運の良いことに、そこは各集落の残り四つの魔法陣に地脈の魔力を供給する要の部分と非常に密接に結びついています。そこを潰せば、ここの魔法陣の機能だけでなく、裏町の周囲を覆うヘキサンドの魔法陣を全て停止させることができる可能性が非常に高いのです」


 ジンが俺に懇切丁寧に解説してくれたのは、おおよそこういう内容のことであった。俺たちにとって、朗報と言っても良い内容である。だが……


「あまりにも都合が良すぎますよね?そうです。おそらくは、罠。古代の戦でわざと包囲網に隙をつくり、そこから逃げようとした敵をあらかじめ控えさせていた軍で一網打尽にする、という兵法を用いたという伝承があります。おそらくは、それと全く同じ作戦でしょう」


「ですが、私たちは罠だと分かっていてもその隙に縋るしかない。どちらにせよこのままではジリ貧どころか息絶えてしまう。この隙を突いていくしかないのですよ。この策を考えたのはよほど性格の悪い参謀でしょう。ですが、その者、恐ろしいほどに頭が切れる」


 つまり、俺達が作戦を開始し、結界の張り直しの隙をついてこの集落に侵入した時点で俺たちは敵の策に飲まれていたと、ジンはそう言いたいのである。おそらくは、裏町に少しずつちょっかいをかけてきていたのも、今回の北征を確実に起こさせるため。

 その理論で言えば、かなり前からヘキサンドの思惑は動き始めていたということになる。おそらくは、俺が召喚されるもっと前から。


「では、なぜヘキサンドはこのような面倒臭い行動に出たのか?ここまで高度な魔法陣と結界を展開できる実力があれば、裏町で上位に成り上がることも簡単にできたはずですよね?なのに実際にはそれをせず、こんな北端の中規模組織に甘んじている。そこに勝機があると、私は睨んでいます」


 光は決してまだ、途切れてはいない。


「大通りに行ったら、まず最初に噴水を確認してください。かなり大規模な噴水があったと思います」


 ジンの言葉を思い出し、俺とアリアは歩みを進めていく。俺もアリアも、今回はジンの思惑通りに動くのが最も効率的だと察している。そのため、その歩みは淡々と機械的だ。だが、だからこそできることもある。


「それから、さらに北方向に三軒進んだところにある家、そこの軒先より一メートルほど前。そこに、脆弱性があります」


 俺たちは、ジンの指示通りの場所に足を運んだ。そこにあったのは至って普通の民家であるが、ジンの話を聞いたあとだとまた話が変わってくる。

 まず、横ではなく縦に大きいのが怪しい。この世界の技術では三階建ては非常に困難である。だが、この家はそれをやってのけている。この家にそこまでの価値がある、と考えるのが妥当であろう。

 おおかた何かギミックが仕込んであるに違いない。あげればキリがないが、それ以外にも怪しいと感じる点はいくらでもあった。まぁ所謂カラーバス効果というやつが自分に働いていなかったかと問われれば自信はないので、あえてこれ以上追求することはしないでおく。


 さて、俺はジンの最後の指令を果たすべく、不可視の魔法陣に向き合った。そして、魔法陣の活動を()()()()()()()全力で魔力を注入した。

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