決断 ー古代種の大博打
時は、情報屋が襲撃を受けるほんの少しだけ前。場所は、傭兵組合本部のマキナの私室。そこには、十人の人間が顔を突き合わせて会議を行う様子があった。
一人は、もちろんマキナ。そして、第一秘書であるファイズ、第二秘書であるクレイヴ。その他の七人は、東 航を始めとする情報屋の面々と顔を突き合わせたことのない人間だった。
ただ、もしも神のような第三者がいたとしても圧を感じるのが自明だと万人に思わせるほど、その場は重い空気に覆われていた。
もしもこの場に航がいたとしたら、早くさりたいと所作一杯に表しているであろう。それほど、その十人から発せられる圧は大きかったのである。
それもそのはず、彼らは皆一様に、古代種であったのである。マキナを代表格として、全員が何かしらの面で強大な力を有した「祖」であり、元祖帰りである。そこにいたマキナ以外の九人は、「傭兵組合筆頭付気秘書」。裏町最強の武力を有する小師団である。
そんな彼らが一堂に会するその空間は、「継」や「雑」は耐え切れないと感じてしまうほどの強いオーラで満ちていた。
力の制御など呼吸のようにできる彼らが、珍しくそれを怠り、空間に影響を及ぼすまでに乱しているのである。それは、間違いなく世界の最強格である彼らが、難題に直面していると言うことを表すものだった。
「まずいね、非常にまずいね、これは」
自信満々な態度を滅多に崩すことのないマキナが、そんな弱気な発言をするくらいである。事態の性急さと緊急差が嫌でも伺えるはずである。
そこまで彼らは何を悩んでいるのか?それこそ自明の理、ヘキサンドと裏町代表で戦に出た情報屋との戦闘についてである。
「見誤っていたよ、久しぶりにね」
まだ完全に成熟しきっていないその顔を大きく歪め、マキナは苦々しく言葉を発した。裏町創始者としての顔、傭兵組合筆頭としての顔、マキナは様々な立場を負っている。だからこそ、マキナが間違えることはとても稀であった。
単に様々な情報を好きにできる立場にある、と言うことも要因の一つではあるのだが、それ以上に大きかったのが、マキナ自身の誇りや、プライドが間違えることを許さないからでもあった。
だからこそ、今マキナは相当に苦い顔を晒しているのである。
「情報屋が向かった北集落、おそらくですが、あそこが最も固い。術式発動予想時刻から鑑みるに、自分たちで動いていただくしかないかと」
ファイズが一歩前に出て発言の許可を取った後、喋り出す。ファイズが語っているのは、つい先刻に入手した情報であった。残りの、北東、南東、南西、北西の各集落の結界の甘い部分を突いて調査を行なっていた結果が、ついさっき出たと言うことである。
ファイズはファイズで、情報を得るタイミングが遅れたことへの悔しさの念と、その他複雑な感情から、あまり普段表出することのない絶妙な表情へと変化していた。
「失礼ながら、俺は反対だ。箱庭とはいえ、「春夏秋冬」の要請がなければ筆頭が候補に挙げることもなかったような組織だろう?いくら精鋭と言われても、俺は信じることはできねぇな」
それとは裏腹に、褐色肌の青年が声を上げる。口調が崩れていることをファイズに咎められるも、それ以外の彼の意見は至極真っ当であった。
他の八人の秘書達も、クレイヴの意見に賛成をしている様子である。それを見れば、この先秘書団がどのように動けばいいか、すぐに決まりそうなものである。だが、流石にそんな単純にことは動かない。ただ、その中で二人。マキナとファイズの意見だけは違っていた。
「僕は…いけるんじゃないかと思うけどな」
「私も同意見です。それよりも残る四集落を固めた方がよろしいかと」
絶対的な裏付けがあると伺える自信のある様子で、賛成派は意見を口にする。それに対して、クレイヴは一貫して意を唱えていた。
「いくらなんでも、つい数日前に『八位』に上がったような組織に任せられるような案件ではねぇ。最低でも『五位』、「百獣家」以上の力が必要だ」
その言葉を聞いて、マキナとファイズは目を合わせた。その後、マキナが気味が悪いほど笑いを浮かべて、クレイヴに反論する。
「ならば心配いらない。情報屋には、「彼」、異界の勇者がいる。彼は、おそらく今回の騒動さえ糧にして前に進む。彼は強くなる。日に日に。だから安心して待っていようじゃないか」
クレイヴは、そこまで言うなら、渋々な様子で意見を取り下げた。その光景を見てマキナは満足するように笑うと、配下達に勅命を下すために口を開いた。
「第一秘書、そして第三秘書から第九秘書までで二人一組で部隊を構成。速やかにヘキサンドの残り集落を壊滅させよ」
そう言ってマキナは、詳しい指示を素早く紙に書き留め、ファイズに手渡した。その後すぐに、クレイヴに向き直り、口を開く。
「そして、第二秘書クレイヴ。君は居残りだ。彼、東 航の戦いぶりをせいぜい見学しようじゃないか」
了承の返事の九重奏が、部屋の中に響いた。




