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悪役覇道  作者: wistereal
三章 『皇国覇道ー序 独立』
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大術式 ー窮地万来

本日二話目です。昨日の件、重ね重ね申し訳ありません。

 ジンの言葉と共に変色した世界。そこは、先刻とはまた違った意味で異常な空間だった。まず、自然の色は変わらない。元の反転色のままである。変化したのは、人間と空間。空気には、ほぼうっすらと色がついており、家々の入り口などは、やや強い色が残っているように感じられた。

 さらには、先ほどまでいた倉庫は、土色のもやのようなもので覆い隠されて見えないようになっている。


「この色は、魔力の色です。人が一度自らの体内に取り込み、再放出された魔力。属性によって大まかに色の指向性は揃いますが、それでも一人一人違います。微弱ではありますがね」


 ということらしい。つまり、倉庫を覆っている霧のような土色の物体は、魔力ということだ。土色だから、単純にそっち系の属性と考えて間違いはないだろう。さっきの瓦礫の崩落、あれは魔力による仕業だったというわけか。


「でも、なんで……」


「何で、こんな面倒なことをしたのか、ですか?」


 読まれている。相変わらずだからもう慣れたが、俺の思考を読むのはやめて欲しいものだ。振りとかじゃなく切実に。


「それはですね、至極単純に魔力痕を追跡するためです。先ほどの瓦礫崩壊、直前まで気づかなかった。つまり、一瞬で爆発的な魔力を起動させ、引き起こしたという事になります。であるならば……」


「追跡ができるはずだ、ということか?」


 ちょっと癪だったので、ジンの台詞を奪ってやった。たまにはやり返さないと、ずっと台詞を取られるままになってしまうからな。

 まあそれは置いておくとして、確かに、倉庫を見れば分かる。こんなにも強い土色が立ち込めているというのに、術者に付着していないなんてはずがない。魔力使用者に対する絶対的優位。それがジンの強さの一端というわけか。


「向こう側に続いていますね。ちょっと見にくいでしょうか?」


「解像度上昇。真眼」


 彼が再び唱えると、魔力のもやは、より鮮明な気体へと姿を変えた。通った後がくっきりと見えるほどに、魔力が可視化されているのがわかる。これで追跡はやりやすくなるだろう。


「では行きましょうか」


 俺には、そう言うジンの顔色が心なしか悪いように思われてならなかった。こんな高度な結界を広範囲にわたって維持しているのだ。ただでさえ特殊な効果が付与されていて負担が大きいと言うのに、さらには、通常結界術で必須な触媒も用意していない。しんどくなるのも至極当然であった。

 だが、ここで彼を心配して、足を止めるわけにはいかない。この状況を少しでも早く終わらせるためにも、タイトに動くのが彼の負担を最も少なくする最善手なのである。


 幸い、ジンが身を挺して負担しているおかげで、あまり苦労はせずに追跡は進んだ。足跡にまでくっきりと魔力の色がついている状態で、身を隠すなど、絶対にできるわけがない。

 そう思っていたのだが、敵の足跡は、大通りの中心で途切れていた。


「困りましたね。さらに解像度を上げましょうか」


「『心眼』」


 ジンの呪文で、またしても魔力の跡が浮かび上がる。ただし、それは土色の足跡ではなかった。魔法陣の形に展開される、緑と、黒。即ち、風と闇の色である。

 突然魔法陣が出てきた事に面食らう俺と違い、ジンはしっかりと魔法陣を観察し、こう言った。


「これは、まずいですね」


 俺には、何がどうまずいのかよくわかっていなかった。だから、彼の説明を期待したのだが……


「説明している時間はありません。とりあえず、今から仮説の検証をしなくては」


 そう言って、彼は走り始めた。村の端、結界の麓に向けてである。


 集落とはいえ、人口の規模はそれなり。流石に疲れるくらい走らないと、端には届かないのだが、ジンはそれをものともせずに、中心の大通りから、結界まで走り抜けてみせた。それなのに汗ひとつかいていない。ジンの超人具合とスパルタ訓練具合がよく分かると言うものである。

 麓に着いたかと思えば、ジンは俺の方向を一瞥し、またもや結界に向き合い、懐から武器を取り出した。


 『収納魔法』、と言うやつなのだろう。よく見ると、懐ではなく空間が湾曲しているように見受けられた。そこから出てきたのは、毒々しいほど青い槍。その槍に釣られるように、ジンの髪の色もどんどん毒々しくなっていく。


「航様、少し危ないのでお下がりください」


制限解除リミットオフ 氷砕槍 付加『氷点下』」


 彼の言葉と共に、先ほどの青い槍が、彼の凍ついた魔力で染まっていく。その魔力の色は、槍の色とそっくりだが、どこか相反した色。不思議な原理が働いているように思われて仕方がなかった。


 氷気を纏った一撃は、重く、しかし鋭く結界を突く。破れる、俺はそう思った。だが、実際には、攻撃が着弾した結界は、少しだけ揺れるに留まった。火力で言えばマキナの「鎌鼬」に相当するように見られたその刺突を、ほぼ完全にその結界は凌いで見せたのである。


「航様、どうやら、事態は本格的に急を要するようです」


 彼は振り返って、そう言った。


「簡潔に、事実だけを言います。このままだと私たちは、全ての魔力を吸い出され、干からびて死にます」


「ですが、逃げることはどうやら叶いません。要するに、詰みました、私達は」

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