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悪役覇道  作者: wistereal
三章 『皇国覇道ー序 独立』
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大術式 ー糧

なんか投稿できてませんでした。申し訳ないので先日の分と合わせて本日は二話投稿です。

「っつ!」


 時間にして数分。俺の意識が暗転していたのはせいぜいそのくらいの時間だったと思う。頭からは毒々しいほどの赤く生々しい暖かさを持つ液体が漏れ出ているのはわかるが、それ以外に体に異変はない。

 とても長時間眠っていたとは思えないほどコンディションには変わりがないのである。だから、眠っていてもせいぜい数分、と判断した訳なのだが、その数分の間に、大きく戦闘局面は変化を迎えていた。


 まず、閉じていたはずの倉庫自体にもう面影がない。青空、ではないのだが、はっきりと空が見えるほどに天井にはぽっかりと穴が空いている。壊れていない部分を見つけるのが難しいほど、建物の四方は傷ついていた。

 さらには、床に転がる人間の体。呼吸音がしたり、うめいていたり、微妙に動いている者がほとんどなので、多分どれも死んではいない。起きた瞬間に骸の山とか怖すぎるのでそこはちょっと安心である。


 だが、安心できる状況でないのは確か。その人間たちが敵であるにしろ仲間であるにしろーまあほとんどこの可能性はないと思うがー怖いシュチュエーションに違いないのだ。


「航様!起きられたのですね」


 混乱する俺の耳に、ジンの声が飛び込んでくる。ご無事でよかったです、と俺に声をかける彼に、俺は今の状況をいち早く把握しようと尋ねた。


「非常に遺憾ですが、裏切りです。いや、裏切りというのは正しくありませんね。どうやら、子供達(チルドレン)の一人が捉えられ、敵方と入れ替わっていたようです」


 何かとバタバタしていたし、本人確認をするような余裕もなかった、と。そういうことなのであろう。


「恐らくですが、その者は記憶や思いを読みます。だから、我々の警戒網を意図も容易く突破できた。航様も気をつけてください。我々にさえ明かしてくださらない秘密を、敵如きが知るなど私は許せませんから」


 彼も流石に、俺には何か秘密があると勘付いていたようである。そもそも俺は出自から不明なのだ。なんとなくまだ「お客様」感が拭えない俺に対して、その秘密を詮索することができないのも無理はないといえよう。

 まだ彼にとっては、俺は「協力してくれているだけの赤の他人の強者」の側面が強い。いや、強者って言ったらちょっと自惚れすぎなのだけれども。俺がジンの下につくこともなく、ジンが俺の配下になっている訳でもない。非常に微妙な関係なのが、俺と情報屋なのである。


「あぁ、大丈夫だ。それよりこの人の山は?」


 転がっている人間たちは、数人一組に固められて山のように乱雑に置かれていた。全員見覚えのない連中なので、敵であることは疑いようのない事実である。


「襲撃者たちです。口上を上げた首謀者らしき男には逃げられましたが、それ以外は殲滅しました」


「今は我々情報屋の面々は各地に散っています。どんな情報が漏れるかわからないので、各人一人で行動させているところです。さあ、航様も逃げましょう」


 流石に崩れた倉庫後に人がいたら目立つ。確かにこの場から出るのは急務だ。


「今回の件、流石に私も怒っております。航様、少々本気で事に当たらせて頂いても?」


 言葉と共に、ジンの体から怒気がくっきりと見えるほどに漏れだしているように感じられた。もちろん錯覚なのであるが、それほど彼からはにえたぎるほどの怒りを感じたのである。

 その怒りは、なんだか今ではなく想起された過去へ向かっているような印象を受けたが、俺はそれについて詮索することもできず、ただ気のせいかと思いながら頷くのであった。


「有り難うございます。では、少し目を」


 目を?俺は心中不思議に思いつつも、彼の指示に従って目を瞑った。余談ではあるが、俺はあの転移騒動から、目をつぶるときにはかなり硬く瞼を閉ざすようにしている。sの時は眩しくて本当に目がやられかけたような覚えがあるからである。


「いいですね?では」


「『一時も途切れない瞳(ヘカトンケイル)』」


 その言葉と共に、暗かった俺の瞼の裏は、昼を讃える太陽の色へと変貌した。赤、それが俺の瞼を覆い尽くす。不思議なのは、その光にムラがないこと。それこそ周りが急に昼にでも変わってしまわない限り起こり得ないような視界である。


「もういいですよ」


 その言葉でやっと許しを得た俺は、悲劇的で喜劇的な赤を生み出す世界へと目を向けた、と同時にフリーズした。

 まず俺の視界に飛び込んできたのは、ターコイズブルーの幹と、不思議な色の赤の葉を持った気。続いて、暗いはずの空は無垢な少年の心よりも白いであろう純白。


目に映る全ての物質の色が、等しく反転していたのである。何かのフィルターをかけたかのように、視界に入った全ての物質の色が、あたかも最初からそうであったかのように変貌しているのが見てとれた。

 さらに、その色が反転していた物質の全て、つまりはこの世の全てな訳であるが、それらが静止していた。立体に落とし込まれた絵のように、覗き込んでも、蹴り飛ばしてみても、うんともすんとも言わない。最初から世界の一部としてそこに固定されているように思えるほどだった。


 その中で、ジンだけが、いや、ジンと俺だけが正常な色をしていて、なおかつ動くのを許されている。風すら変色し、色が変わるこの世界で、ただ二人だけが。


「これは?」


 俺の口から漏れ出るのは、純粋な疑問の声。何もかもがわからない中で絞り出した心の叫び。


「ここは、私の独自結界の中です。私は数個能力を所持していますが、そのうちの一つ、と思って貰えばいいかと思います」


 彼はさらに、言葉を続ける。


「この結界は、集落全体にまで広がっています。そしてその効能は、魔力を「視る」こと。流れ、痕跡、何でも読み取れます」


 術者と、術者に命じられて目を閉じていた者以外は、この結界の能力により、停止、そして色彩反転されてしまうのだという。そして気をつけるべき点は、これは決して時間が止まっているわけではないということ。外の世界では刻一刻と時が流れているため、俺たちは油断することなく素早く動かねばならないそうだ。


「浮き上がれ、人に属する異能の根源。母なる大地より生み出された、天上の第零元素」


 彼は、祝詞を唱えていく。それは、魔力を呼び覚ますための術式。その場に残る人の魔力の痕跡を、全て読み取るための必要儀式。


 彼が、その言葉を言い終わると同時に、世界は再び色を変えた。


ーーーーー


「これは、まずいですね」


 その数分後、俺たちは窮地に陥る羽目となった。

 もう一話投稿します。読んでいただけると幸いです。

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