北征 ー火蓋
ほんっとうにお久しぶりです。wisterealです。まずは、長くお休みしてしまったこと、心からお詫び申し上げます。これからも頑張りますので、読んでいただけると幸いです。
裏町から出ると、そこは雪国、ではなく大雪地帯であった。一番最初に漢字大変はなんといっても寒さ。浦町内と比べて二十度以上は差があるのではなかろうか。少なくとも体感はそのくらいの差である。極寒、まさにそういっても差し支えないほどの気温が俺たちを襲う。
次に感じたのは、酸素の薄さ。呼吸をしても、十分に取り込めてい感じが一向にしない。きっと、高山地帯の上だからなのであろう。さらに襲いかかるは、雪。もちろん気温が低かったら雪だって盛んに振ってくることも多いわけで。必然的に俺たちは大雪と酸欠に見舞われる羽目になったのである。
ーーと、ここまでで裏町を出てから約五分程度である。たった五分で、息も絶え絶え、体の芯まで冷えて、挙げ句の果てに恐らく高山病真っ直ぐコースである。いくらタフとは言えないからといって、この変わり様は流石に異常だと思うだろうか?しかしこれには理由があるのである。決して俺たちに体力がないわけではないのだ。本当だぞ?
その最たる原因となるのが、「結界」。結界とは、すなわち万能である。裏町には三種類の結界が貼られており、それぞれ、魔物の類などの外的、人間、自然環境から俺たちを守っている。その結界は万全であり、四季がないとは言わないが、非常に緩やかなのが裏町の特徴なのである。
つまり逆に言うと、裏町で生まれ育ったものは基本的に寒さ暑さに対する耐性がそこまでないのだ。だが、それだけであれば厳しい訓練を耐え抜けばなんとかクリアできる。もっと俺たちの体を傷つけたのは、急激な差なのだ。気温、酸素濃度、その他もろもろである。
いくら厳しい環境で耐えれるサバイブのプロがいたとして、急激な差には耐えられないと聞いたことはないだろうか?段々と気温等々が移動していくならばまだ耐えようはあるが、急に変化するとまさにこの有様にまでなってしまうのである。
と、まあここまで色々と理由を並べ立てて言い訳のようなものを重ねてきたわけであるが、今、どう言う状況なのか理解できないだろう。俺たちの今の状況を説明するとするならば、北征の真っ最中、と言うわけである。
「うぅぅ、寒いです、航様……」
ただでさえ北にある大陸の北端で標高も十分に高いと言うのに、さらに北へと昇るのだ。そりゃ寒いに決まっている。耐えに耐えている様子だったアリアも、ついに弱音を吐き始めた。
俺たちが今回、討伐そして併合対象としている集落は、「ヘキサンド」。五つの小集落からなる大集落である。「下街」から分裂した組織の一つが、裏町の中でどこからか結界術を得て独自に発展した結果できた集落だ。その集落は、幾度となく裏町に喧嘩を売ってきている集落でもあり、なにかと裏町の上位組織の妨害を試みることが多い。
そのせいでいよいよ業務、そして「義務」に支障が出てきていると判断され、討伐対象となったのである。マキナとしては、その独自に発達した結界術を取得したいと言う気持ちもあるようだが。
目標地点までは、道のりにしてたかだか五キロ足らず。だが、大連峰の道のりは寒く、険しい。寒く、厳しい道のりは、着実に俺たちの体を疲弊させていった。一歩一歩歩くたびに、体力が白く淡い地面に吸われていくようであった。
そのせいか、通常であれば一時間もかければ着く道のりであるのに、俺達情報屋の行軍はちっとも進まない。少ない人数であれば通常早く着くのが道理というものであろうに、全く行進が進まないせいで、気づけば平地で歩く時の倍ほどの時間を移動に費やしていた。
しかも、まだ到着というわけではないのだ。のぼり下りを繰り返したせいで、どれだけ進んだかの感覚もほとんどなくなっている。
延々と天空から降りゆく銀白の礫が、容赦なく俺達の体温と、気力を奪い去っていった。
そこからまた、数刻の時が流れ
「やっとだ、やっと着いた……」
俺たちは作戦目標値へと到着した。雪も止み、高かった太陽が山の頂に隠れゆくと同時に純白が橙赤色に染まる頃のことである。昼下がりに出発をして、ついたのは暮れも暮れ。約四時間ほどの時間を行軍に費やした形になるわけだ。
そんな労力を費やした俺達の眼前に広がるのは、町……ではなく、一面鉄鉱石のような色の大岩である。ウルル、とまではいかないが、その半分くらいはある相当にでかい岩である。しかも、その岩には一つ異常性があった。今までしんしんと降り続いてきた雪が、その岩には全く積もっていないのである。その異常性は、どのような視点から見ても明らかであった。
これは、明らかに魔術的要因によるものである。恐らくは、「結界」が施されている。結界には、主に三種類が存在しているとされている。それが、「守護結界」と「秘匿結界」、そして「制限結界」である。
守護結界、秘匿結界は読んで字の如く。結界内のものを守護し、秘匿する。「制限結界」は、選別のための結界である。例えば、魔力の量が一定以上のものを弾く制限結界の場合、一定以下の魔力保持者は決壊など気にせずに好きに通行が可能だが、一定以上の魔力保持者には強固な結界となってしまうのである。
そして、今眼前に広がる大岩の結界はというと、制限結界の応用である。正しい順序で大岩にかかるギミックを解除しなければ、結界の結び目が解けないというわけだ。
通常はこういうのは時間をかけてするのが一番賢明なのであるが、実は今日に限ってはその必要はない。なぜかというと……結界というのは、高度になればなるほど触媒が必要になってくる。しかもその触媒は、ほぼ確実に使い捨てのものなのだ。
つまり、俺たちがすべきことは自ずと見えてくるわけであって……
「良いですね?触媒交換周期からして、明日零時から結び終わるまでの数分間、恐らく結界が解けます。そのうちに内部に侵攻。あとは作戦通りです。では、各々準備に入ってください」
本日が、戦いの日である。




