『八位』と定例会議 参
群青。群れを成す青。藍銅鉱の成れの果てにして最後の進化形。そして何より、俺達の色。ジンの悲願にして懇願、『情報屋』の箱庭入り。それを象徴する、根源の色。
それは、群青と共にもたらされた。この世界では、不思議な事象には『光』が関係している。そこら辺は大体俺も分かってきた。恐らくはその光こそが、魔力と魔法の根源たるもの。
「さぁ、群青よ。話し合おう。我等の未来のために、我等の欲のなすがままに。悪と混沌を受け入れつつ、前進するのだ」
重く、重くのしかかるその言葉は、示唆であり、暗示。俺達を歓迎する文言であり、沼へ引き摺り込む悪魔の甘言。その言葉の熱に浮かされるが如く、話し合いは本格化していった。
と言っても、珍しく二ヶ月連続での「定例会議」開催。実のところ、議題はそれほど多くはなかった。どっちにしろ俺は近くで見ているだけで話し合いに入るわけではないので気楽なのだが。
「じゃあ、まずは『情報屋』の「義務」と「特権」について話そうか」
マキナは、ジンのいる席に一度小さく視線を向けて、発言を促した。
「提案します。「義務」については、『春夏秋冬』の要請通り、情報統制を」
「そして、「特権」についてですが、『黙認権』を頂けないかと」
これは、情報屋の幹部級とジン、そして俺とアリアの計十名ほどで決めたことである。
実は、『情報屋』が箱庭入りを果たすにあたって、一つだけ不安要素が存在していたのである。それが、ジンの生み出した諜報形態が傭兵組合「ヴァルキリア」の義務に抵触している可能性である。
『治安維持』。これに不安点が存在しているのである。子供達は等しく孤児から取り立てているのだが、それが傭兵組合の義務の範疇だと考えられるのである。でなければ、マーディッシュ商会が消される理由にもならなかったであろう。
今まで情報屋はひっそりと活動してきたし、家族が運用する程度のことであれば、わざわざ騒ぎ立てる必要もなかった。
だが、今はもう話が違う。俺達は最高位である箱庭へと昇った。これで情報屋に咎めが下らなければ、マーディッシュ商会が裁かれた理由の一つに整合性がつかなくなる。マキナがそれに気付いていないはずがない。
都合が悪くなれば、最悪消される。マキナならば間違いなくそれくらいはする。今俺達と協力関係にあるのだって、言ってしまえばただの成り行き。整合性が合わない、それだけの理由で気軽に捨てられたって全然おかしくはないだろう。だからこその……
「『黙認権』?」
マキナは不思議そうな声でこちらを見つめた。まあそれ以外にもっと有用そうな特権はいっぱいあるからな。訝しむのも訳はないだろう。俺も、パッと思いつくだけで数個、手にしたい特権は存在する。
「えぇ、『黙認権』です。貴方が定める「義務」と「特権」に抵触した場合、代償を払えばそれに対する処罰はなし、ということです。具体的な代償については、定例会議で決定すればよろしいかと」
一瞬、円卓がざわめく。もちろん、特権の内容についてのものである。そんな事でいいのか?そんな意思がひしひしと感じられる視線を向けてくる者まで存在している。「代償」の内容にある程度自由が利く以上、『黙認権』などあってないようなものだからである。
「私達にとっては大事なことですので、ご心配なく」
そう、俺達は孤児採用制度を廃止して、組織の力をより強めるよりも、今まで通りの安定を選んだのである。それが一番確実で、確からしい。それに加えて、他の組織の「特権」との折り合いもちょうどいい。そう判断したからであった。
「決議を」
マキナの声が響く。
「許認する組織は、挙手を」
流石に今度の決議は祝福云々はなしで進んでいく。まあ毎回あんなことをしていたらどれだけ時間があっても足りないだろうから、これが普通なのである。
結果は、当然のごとく容認。七人全員から反対は出なかった。「特権」の内容をあえて緩くするという狙いもあったので、当たり前と言える結果であった。
「では、情報屋の義務と特権は、『情報統制と黙認権』で決定する」
俺達は、一仕事終えた後の安心感と共に、ほっと一息大きなため息を吐いた。だが、まだまだ油断はしていられない。会議は、続くのである。
「では次に。ジン君、例の資料を」
そう呼びかけられて、ジンは分厚い封筒をどこからともなく取り出した。例の、馬鹿のように分厚くて難解な書類である。俺は、即座に自分が聞いても仕方ないことを悟り、別のことで脳内を埋め尽くし始めた。と言っても、一応話を聞いてはいるのだが。
「この資料からも分かるように、裏町の交易は年々減少の……」
「周辺の魔物駆除が緻密に行われている状況を鑑みるに、これは商会側の……」
正直なことを言うと、眠たい。とてつもなく眠たい。自分からしたら良くわかんない問題が延々と議論されているのだ。そりゃあ眠くなる。立っているからやっとこさ寝るのを堪えれているような状況であった。
睡魔が脳内で具現化して「眠っちまえよ〜」とやたらと語尾を伸ばしてささやく中、俺は意地だけで瞼を開き続けていた。
「では、近隣集落の裏町統合は、『情報屋』に任せよう」
「ええ、必ずや、遂行いたしましょう」
そんな重要な台詞が脳の片隅に響くものの、睡魔の声との割合は大体、九対一。もちろん睡魔が九だ。脳にその記憶を刻み込もうとするも、寝ぼけている状態ではそんなことは不可能。
いつの間にか更に増してきた夜の気配を全身に感じながら、抵抗を続けることしか、俺にはすることができなかった。




