『八位』と定例会議 弐
「さぁ、皆。新しき仲間に、乾杯」
ホストであるジンを歓待しつつ、会合は進んでいった。まず最初に話し合いが行われるのかと思ったらそんなことはなく、乾杯した後最初に行ったのは結局食事だった。
最初にパン。その次には前菜が出てきて続いてスープ。魚料理が来てその後がメインディッシュ。完全にイタリアだかフランスだかの料理である。しかも下手な店よりも美味なものしか出てこないってんだから文句のつけようもない。
パンは程よい噛みごたえが確かにあるのにふわふわだし、前菜は多分だけど、今の季節のものがふんだんと使われている。知らない野菜がほとんどだったので何とも言えないが、新鮮で旨味がぎゅっと詰まっている感じだったので多分俺の推論は間違っていない。
スープは透き通っているのに旨味がしっかりと伝わってくるし、魚料理は含まれているありとあらゆる旨味がぎゅっと閉じ込められている。メインの肉はソテーされた付け合わせと共に食べることでさらに旨味を増すし、デザートの高価な氷を使った旬の果実シャーベットとピスタチオらしき豆のムースのケーキや、食後の例の紅茶もどきまで、全てが素晴らしかった。
と、まあ褒めろと言われたのならば永遠と述べることはできるのだが、そんなことをしたって大して意味はないので今回はこれ以上詳しく語りはしない。そうそう、何で、一応従者の立場としてここに来てジンの側に控えていなければいけない俺が食レポができているのかというと、単純明快で、俺達側仕え?も同席して食べても良いとなっているらしいのだ。
マキナが自分のもてなしでより高い効果を上げたいと考えて、そういうシステムに変わったんだとか。というわけで、俺は我慢出来ずに同席して食べているのであった。とにかく美味しかったので、本当に役得であったと、切に思ったものである。
実際に夢中で食していたのは俺だけではないっぽく、ほかの組織の棟梁も結構まじめに目の前の皿に向き合っている感じがあった。多分だけど、メインイベントの一つなのだと思う。そりゃよく考えたら、マキナが相手を殴る勢いで本気でおもてなしをするんだ。これぐらいのことは余裕でやりそうである。実際、本人は何ら表情を変えずに食べ進めているし。
「さて、そろそろご馳走様かな?」
大半がナイフとフォークを置いたのを確認した後、マキナはそう発言した。彼自身は、ちゃっかりと食べきっているが、食べきれないと言われても全然おかしくない量である。
「歓談、といきたいところだが、今日は少々急務が多い。議論を優先させたいのだが、どうかな?」
各組織の棟梁たちは、あるものは口元をハンカチで拭きながら、あるものは食後の茶を飲みながら、三者三様にマキナの言葉に頷いた。
正直なところかなりお腹いっぱいなので俺としては何も考えずに寝てしまいたいような気分なのだが、流石にそれが許されはしない。あくまでも従者の立場としてきている俺にとって、今回の会議は絶対に油断できない場でもあるのである。
「我らが新しき盟友、群青に本と氷と蛇。情報を司る者達の集いよ、通達通り、貴殿らを我らが箱庭に迎える。宜しいな?」
マキナの一言一句は、普段よりやけに重く俺達を捉えた。あの、軽薄とさえ表現できてしまうほど飄々としたマキナはそこにはいなく、俺たちが今相対しているのは、別人かと思うほどの貫禄と風格を持つ一人の老獪な策士にして戦士。
「えぇ、構いません。『情報屋』としては、箱庭の一角に加わることを、説に望みます」
そして、それに対して落ち着いた様子で、茶を啜りながら応答するジンも、またどこか尋常ならざるものを感じさせる。
歴戦の猛者と互角に渡り合える者は、天武の才の保持者か、血反吐を吐いてきた者だけ。それだけでジンが、どれだけの力を積み重ねてきたのかを推量することができる。
マキナは、その返事を聞いて満足そうに微笑み、口を開いた。
「決議を取る。『情報屋』の箱庭『八位』就任を認める組織は、祝福を与えよ。我らと共に進む創造者へ」
彼の号令と共に、各組織の首領たちが、裏に飾られているそれぞれの紋章が刻まれた象徴武器を手に取った。そのまま、彼らは俺達情報屋に向けて、その武器を持つ。
一瞬身構えたが、敵意を持った行動でないことは分かりきっているので、すぐに俺は冷静になり、その後の展開を見極めんと観察眼を限界まで稼働させた。
声が響く。厳しく生き抜く者たちを歓迎し、祝うための七重奏。
「我等は橙赤の刀。千変万化たる兵達の墓場」
「我等は淡緑の錫杖。裏に堕ちた者達の憩いの戦地」
「我等は純白の斧。絆など無意味と知る者たちの、交流の証場」
「我等は濃紺の細剣。裏切りの連鎖を生み出し、止める混沌の地」
「我等は、真鍮の槌。あぶれた者を受け入れる城」
「我等は、萌葱の盾。学びと繋ぎの発信源」
「我等は、銀灰の槍。無垢で薄暗い信心の集いし聖域」
一つ一つ、言葉が発されていくたびに、象徴武器が光り、それらの組織の旗色が、俺達の象徴武器たる魔導書と暗器に入り込んでくる。
それが全て終わったのを見届けた後、七人の声が揃った。
「貴等は、群青の書と暗器。現実を知り、めげつつ進む者達の楽園」
「我等、『箱庭』の名において、ここに正式なる定めを下す。歓迎しよう、群青の者共」
それに呼応するように、魔道書と暗器が、強く群青を帯びた。
本日の更新は先日の話への書き足しということになります。投稿できなくてすみません。




