箱庭の製造者
あのあと、俺達は『万象を見通す目』を後にした。ジン曰く、あの少女一人で切り盛りしていると言う、情報屋第二のアジトの表の面、会員制商会「トゥルース」で買い物をしてからの帰宅、と言う形にはなったが。
流石に、当初の目的である買い出しを行わない、と言うのはナンセンスである。そこに便利な店があるのだから、存分に利用すればいいではないか。会員制なのだからほとんど人もやってこないのだし。
といった考えで、背いっぱいたくさんのものを買い帰った次第である。それは、服であったりとか、それに合わせる装飾だったりとか、武器だったりとか、はたまた食器まで。どれもこれも舐められないための戦略というか、自分の力を誇示するための必要経費である。食器に関しては疑問が残るが。
「航様!これ、可愛くないですか……?」
そういうアリアの声に釣られて彼女に色々と買ってやったりしたのだが、まあ?それも必要経費だ。うん、同行者の装備も大切だからな。いいものを身につけるというのは、大抵の場合で不利に働くことはないというか、なんというか……
これ以上言い訳を重ねるときっとボロを出しそうだから置いておくとしよう。とにかく、それからは慌ただしくも、存外早く時が流れて……
というわけで今現在、満月の陽の夜である。まだ日が地平線に沈みゆくところなので、紫や橙に染まった雲が、神秘的に見える、そんな時間である。澄んだ空は、俺達の未来をそのまま示唆しているようで、少しだけ気分が上がってくる。そんな日だ。
俺は空を見上げるほど余裕がある、というかやることがないわけだが、ジンや子供達はそうもいかない。戦力にはほとんどならない俺やアリアは参加しないとして、今日することの最後の詰めであったり、着付だったりと大忙しなのだ。
今、ジンの周りには大量の子供達がひしめき合っていて、側から見れば、まるでおしくらまんじゅうをしているようである。そんな中、重要書類が飛び交ったりしているのでもう大変。こんな様子誰にも見せられないし、見てしまったものがいたら全て忘れるまで何かしらの処置を施さないといけないところであった。なんせ機密がたっぷりだからな。
と、そんなくだらないことを考えている間に、ジンがおしくらまんじゅうから弾き出されるように出てきて、俺達に近づいてくる。ちなみに、俺達はもうすでに着替え済みである。俺達は身辺警護兼執事のような立ち居振る舞いをすればいいとのことであったので、ジンほどの着込みは必要なかったのである。
逆にジンはといえば、「トゥルース」で買った糸の艶が伺える最高級の闇色のスーツに、やや青みががった鈍色のネクタイ、銀のネクタイピンと服装にとことんと気を使った出立ち。普段から決めている髪を、さらにスーツに映えるようにオールバックよりのセンター分けという、難易度の高い髪型で固めている。整髪料もなかなかにいいものを使っているようで、全くベタついたように見えないのもポイントが高い。
外見を説明していたらキリがないので、そろそろ控えることにするが、とにかくジンは完全に臨戦体制という訳だ。新参も野が舐められないようにするためには、その場のルールに則って自分の価値を誇示するしかない、と俺は思っているので、実に理にかなっていると思う。
「さて、準備は終わりました。そろそろ行きますか?」
ジンの言葉で、俺とアリアは共に気を引き締める。まだちょっと早いが、出発の時である。というのも、「定例会議」の場所はヴァルキリアの中にあるにもかかわらず、結構複雑な経路を通らないといけない結界を結んであるのだとか。そのせいで、俺たちは会議室にたどり着くことができない。そのため、マキナに案内してもらうことが必須なのだ。そのために早く出発したのである。とはいえやっぱり早すぎる気がせんでもないが。
俺とアリアの他にジンへの供といった形式でついてくるのは、先の「トゥルース」訪問の際も同行していた、幹部級二人であある。ジン曰く、彼の右腕と左腕、とのことだ。なんでもジンに次ぐ腕前を誇るのだとか。
俺の他に、ジン、アリア、幹部級二人でz延滞計五人は、徐々に闇に塗りつぶされつつある空の下を、確かな足取りで歩いて行った。今回は、彼らにとっても初めての会議である。緊張、どころでは済まないはずだが、本業情報屋の三人は、そのような雰囲気を一歳見せず、堂々と歩いている。つくづくよくできた男達である。
……なんてしょうもないことを考えていたら、あっという間に「ヴァルキリア」の前である。そもそも別にそんなにに遠くないので、わりかし建物まではすぐ着くのだ。
重要なのは、むしろこれからという訳なのであって…
「ようこそ、「ヴァルキリア」へ。俺は傭兵組合筆頭付き第二秘書、クレイヴ・ヴァルキリア。筆頭より、『八位』の案内を仰せつかった。本日の情報屋付き秘書だ。よろしく頼む」
……流石はマキナというべきだろうか。彼の私室に着いた時に、最初に紹介されたのは、彼の第二秘書。俺たちの不安を取り除く、というか俺たちが失敗しないようにするための付き人に見えた。彼としても、俺たち情報屋がヴァルキリア」系列で選ばれている以上、何かやらかすなんてことをしでかすのは都合が悪い、という側面も存在しているだろうが。
「ここから先は、箱庭で遊ぶものの空間じゃない。箱庭を作るための空間だ。心してかかってよ」
そんなマキナの声に送り出されるが如く、俺達は「定例会議」場へと向かっていった。




