ラプラスの観測書
今日は短めです。先日同様、また書き足すかもしれません。
「範囲指定、「下街」。映し出せ、『万物の観測書』」
その声が響いた瞬間、狭い部屋の電気が切れ、アジトが暗転したかと思われた。だが、俺は一人、違和感を覚ええていた。夜よりも深い闇。これは、ただ単純に暗いと言うだけではない。そんな気がしてならなかったのである。その闇の色は、何も見えないのではなく、全てが見えるからこその黒、俺には、そう感じられた。
案の定、アイシルの声が響く。
「『万物の観測書』開け」
その声が響き渡ると同時に、漆黒に包まれていた空間に、一つ、一つと幾つもの光が現れ始めた。最初は日の光が漏れているのでは?と考えたが、それにしては光は人工的すぎた。漏れ出た光が偶然長方形になることなど、普通ないではないか。しかもそれが、幾つもあって、ほとんど同時に起こった出来事だったらどうだ?確実に故意に引き起こされたものだと分かるだろう。
「第一の章『観測』」
さらにアイシルの声が響く。いくら狭い部屋だからとはいえども、説明できないほどの反響が巻き起こっていると、俺はそう感じた。
と、同時に、光のパネル達が色づいた。実写的な色彩に富んだ色達。さらには、雑多な音が漏れ出てくる。その光景を見れば、その光のパネル達が、現実の映像を映し出していると考えるのは、至極自然なことであった。さらに、どんどんと光が色づき、音が漏れ出てくる。その映像の中には、俺たちが『万象を見通す目』に来るまでに通った「下街」の道もあった。
その途方もないほどのパネルの数と、先程見た景色達を照らし合わせて考えると、今、この現象によって「下街」の全てを映し出していると、そう信じることができるほどの説得力が生まれていた。「手中」。そんな言葉が、俺の脳内に浮かんだ。その言葉が正しく表現されている光景とは、まさにこのことだと、そう思ったのである。
正真正銘、「下街」はアイシルの手中であった。彼女ならば、この光に照らし出されているすべてを見、聞き、知ることができる。いや、きっと下街だけではない。彼女が望めば、それこそこの世の全ての事象を観測することができる。俺は、そう思った。
「これが、私の能力の一端。『到達点』を広義に解釈し、「今」を観測する」
アイシルは、自信に満ち溢れた声で、言葉を発した。それは、能力に裏付けされた自信。そして、彼女自身の努力に確信づけられた必然であった。畏怖、とまではいかないにしても、確かに感じるアイシルへの恐怖に似た何か。それは、我々の防ぎようのない権能に対する、恐れに近い感情であった。
圧倒的に情報戦を優位に進められるだけでなく、アイシルの言い方からして、まだまだ応用方法があるように俺には感じられた。「情報の帝王」とでも言うべき彼女の能力。それは、彼女が情報屋の『協力者』たりえている理由をはっきりと示すものであった。
「今日の用事、どうせ何か厄介ごとに巻き込まれたのだろう?いつも通り、私がお前の「目」になってやる。何代かかろうとも恩は返す。それこそが、オブザベートの生き様なのだから」




