下街
マキナからの通達の後、俺達情報屋組は、色々な準備なんかをするために、アジトへと戻ってきていた。何せ用意しなければいけないものが山積みなのである。裏町の最高位である箱庭に君臨するということは、それ相応の責任を負わなければいけないというわけで。それは、ほとんど全員が孤児出身である情報屋の面々にとって初めての経験であった。
「情報屋」という職種も相まって、業界内での評判などはともかく、絶対に表に出ない宿命を彼らは背負っていた。それなのに、箱庭就任である。今までの全てをぶち壊すような取り決めだし、何より何をすればいいのかがちゃんと分かっていない。
マキナ曰く、「君達が、自分に恥じないようにしてくれば、とりあえず初回はオッケー」とのことだったので、今現在、俺達は、在庫という在庫、押し入れという押し入れをひっくり返して、いい服や装飾品なんかを探しているところであった。
そこはさすが家族で、探せばいい材質のものや、デザイン性が優れているものなんかは色々と出てくる。でも、逆に言うと、しまいこまれていたわけだから、普段使いができるほどちゃんとしたものはなかったりするのだ。素材がいいけど、見た目があまり良くなかったり、とことん美しく作られているけど、脆くて壊れやすかったり。
そこら辺は、結構難しいのだ。結局、数時間かけてアジト中から色々なものを引っ張り出してきたのはいいものの、その中で実際に使えそうなのはほんの数点。やっぱり、組織の格が違ってくると、自分たちに求められる物品の品質もかなり変わってくるので、今あるものをそのまま使う、というのは難しいところがあるのである。
あと、実はそのほかにも問題があるのだ。
「箱庭は、裏町の中でのみ通じる「特権」を持つことが許されている、という話は知っているよね?その「特権」を考えておいて欲しいんだけど」
ということである。これは結構審査が緩いらしいのだが、流石に職種と関係なかったり、あまりにも解釈の仕様があるものや、同位の組織にまで直接影響が及ぶようなものは弾かれるらしい。しかも、希望を緩く出すと舐められるらしく、その見極めが非常に困難なのだそうだ。
いや、まあこれだけなら良かったのだ。結局自分たちに関する事だし、特にそういうことを決めるのに異論はない。俺たちの不利になるようなものじゃあないからな。だけど、ほかにも問題がある訳で……
「これも、やっておいてほしい。よろしく〜」
そう言ってマキナから手渡された書類の束があるのだ。何が入っているのかは正直俺はよくわからない。知らないんじゃなくて、わからないのだ。一度ジンに聞いたのだけれど、帰ってきたのがあまりにも異星の言葉すぎてちょっと理解できなかった、というのが本当のところである。
ただ、書類を入れる封筒の表面に、赤色でマル秘マークがついていたので、多分重要なものなのだろう。まあ、多分多分俺には関係ない。こういうときは、傍観者として、自分は何も知りませんよ?というアピールをするのが一番賢いと、俺は身に染みて理解しているのだ。
というわけで、次の満月までにやらないといけないこと、以上三つであった。満月は、地球と同じように、だいたい三十日に一回程のペースでやってくる。もちろん、地球換算で三十日相当、という意味であるが。ちなみに、ラノベにありがちなパターンで月が二個ある、とかそういうことは無い。実は衛星は二個あるらしいのだけれど、もう一つは不思議物質でできていて光をほとんど反射しないせいで、肉眼では全く見ることができないんだとか。
話がそれてしまったが、端的にいうと、今の俺たちにはやらないといけないことが山のようにあるわけで……何か忘れているような気がしなくも無いのだけれど、そんなことを気にしていられるほど余裕もない、と言った感じなのである。
毎日何かしらの任務も入っているし、準備も含めて本当に大忙しなのだ。普通の会議の準備なら長くとも二、三日で終わるものなのだけれど、いかんせん裏町の最高意思決定会議だからな……色々と考えておかねばならないことが大量にあるのだ。
……ということで、俺達は、『下街』へと来ていた。下街とは、アノルフィア皇国の第二首都、貿易都市「アデュムセアル」とつながる、いわゆる皇都でいう「裏町」のようなスラム街である。だが、裏町と違い、その存在は、「アデュムセアル」の住人に周知されている。そのため、立地も、隠れたような場所にあるのではなく、アデュムセアルの最外部に、堂々と隣にある「下街」との門が見えるのだとか。
何でも、「アデュムセアル」の一般層と富裕層が、貧困層を街から切り離したらしい。そうして追い出された貧困層が作り出したのが、「下街」。第二首都の住民が切り離された汚い部分に侮蔑の念を込めてつけた名前である。
だが、「下街」は「アデュムセアル」の者が予期せぬ発展を遂げた。まず、富裕層の一部が「下街」の貧困層達を労働力と捉え、「下街」に進出。さらには皇国の「裏」の人間の中で「裏町」に行くことを拒んだ者などが「下街」に集まり、必然的に武力や経済力が集結。その結果、「裏町」に引けを取らないほどの繁栄を手にしたのである。ちなみに、「裏町」とはマキナが結んだ転移陣でつながっているそうだ。
繁栄すると言うことは、当然の如く人が集まるというわけで……こと貿易に関しては、「マーディッシュ商会」と「ディクルズ商会」の二大勢力が争っていた「裏町」と比べ、さまざまな商店が乱立している「アデュムセアル」の方が発達しているのが現状である。特に、やっぱり「裏」の人間が欲するような物品が集まるわけで……
と、前置きが長くなってしまったが、結局のところを言うと、俺達、つまり俺、ジン、アリア、あと子供達から幹部級が二人、の計五人で、買い物に来ているのである。遊び?別にそんなんじゃない。これもしっかりとした仕事なのである。
俺とアリアは、おそらくは「定例会議」への出席を求められるはずだ。そのために、絶対に服やら装飾品やら何やらが必要になってくるのである。いや、別に楽しみとかじゃなくてね?陽キャっぽく買い食いとかショッピングとかしてみたいわけじゃなくてね?本当だぞ?
「航様!こっちです。みたことない食べ物があります!」
アリアがはしゃぐ。どうやら屋台を見つけたようである。実際、とてもいい匂いが漂ってきていることから考えても、見掛け倒しで実は美味しくない、なんてことはなさそうである。
「ほんとだ〜」
思わずはしゃぐアリアにほっこりとしてしまい、俺は気づいたら彼女に追従するようにはしゃいでいた。
「これ、とっても美味しいです」
「そうだね〜」
あはは、あははははははは。楽しい〜〜
っっ!………いや、別に、楽しんでたとかではなくてね?あくまでも、アリアに付き合ってあげてたって言うか?……そう!「下街」の雰囲気を観察してたって言うかね。「裏町」には屋台なんて出てないよな〜とか思ったりとかしててね?比較的な?分かってなかったことが他と比べることで見えてくる的な?本当だよ?信じてくれ。
俺が必死に自分への言い訳を重ねている横で、アリアは相変わらずはしゃいでいる。初対面の印象が毅然としすぎてて忘れがちになるんだけれど、彼女だって普通の女の子には違いないなんだよな……
「さて、遊びはこれくらいにして、本命に向かいましょうか」
なんだかんだ言って色々と遊び倒したあと、ジンが言葉を放った。何をしたのか?俺の手元にはくじ引きのハズレの景品と、屋台の串なんかが数本と、その他そこらへんで見つけて思わず買っちゃったアクセサリーがある、とだけ言えば伝わるだろうか?……やっぱり遊びだよな?分かってた、分かってはいた。
俺が一人で地味に落ち込んでいる間に、ジン達は結構前に進んでいた。どうやら彼には明確な目的地があるらしい。迷うことなく歩いていっていることからそのことが伺える。そもそも、元から道を知ってないと小道とか入ろうとはしないもんな。表通りに楽しいことがいっぱいあるっていうのに。
やはり思考が遊び寄りにそれそうな俺の内面も知らず、ジンは黙々と歩き続ける。まあ当然っちゃ当然である。今日の目的はあくまでも足りない物品の購入なのだから。
そうこう考えているうちに、ジンはある建物の前で足を止めた。小さな小さな路地を通ってやっと辿り着いた裏路地の一番奥の建物である。正直、見た目はかなりぼロボろだ。少なくとも俺の目には、店というふうには映っていない。
だが、ジンが足を止めたからには、ここに何かしらの店があるのであろう。案の定ジンは、こちらを振り向いてこう言った。
「皆、着きましたよ。ここは、「下街」の全てが集まる店、「トゥルース」です」
突然ですが、ちょっと名前を変えようと思います。
wisteria→wistereal になります。私のよくわからないこだわりなので、改名理由はあまり気にされなくてよろしいかと……
突然変えると、私の作品の貴重な読者様が、wisteriaの作品が見つからない?混乱してしまわれないように、周知の時間として三日間ほど今の名前のままでいきたいと思います。
おそらく来週月曜日から改名になると思います。




