『八位』
今日から三章です。また頑張りますので、応援していただけたら嬉しいです。
「情報屋は、本日、この瞬間より、箱庭八位となる。今日の呼び出しは、その通達のためだ」
そのマキナの言葉が耳に届いた時、俺達はどんな顔をしていたのだろうか。喜び?驚愕?はたまたもっと別の感情?おそらくは、その全てである。情報屋に居候してからそれほど月日が経っていない俺でさえ感激の感情を覚えているのだ。ジンが、何も感じないなんてはずは、絶対になかった。
それでも、彼は、動揺その他の感情を一切表に見せることなく、マキナの言葉を受け止めていた。もちろん内心では、小躍りするほどに嬉しいだろう。情報屋は彼が一から作り上げてきた組織であり、彼の子供にも等しいものなのだから。
ジンは、一切の感情を排して、マキナに確認すべきことを粛々と聞いていく。
「本当、なのですね?」
ジンの疑問も当然のように思えた。情報屋は、「協会」の暗殺業などと同じように成果が表に出にくい職業である。成果は個人のもとにわたり、秘匿される。それが情報を扱う扱うものとしての責務だからだ。公に「これをした」とは言えない以上、位階の昇級などは極めて特殊なパターンのみに限定されることが非常に多い。
いやまあ、今の状況がその「特殊なパターン」に該当するんだろうが、それにしたって信じにくいものは信じにくい。マキナのことだからん、今から「嘘だよ」とか言い出す可能性もなくはないしな。……いや、冗談で言ったけど不安になってきた。ないよな?……
「僕というより、『春夏秋冬』至っての希望でね。まあ、「ヴァルキリア」と進行のある組織がいいことに話変わりないから僕も承認したわけだけれど」
『春夏秋冬』。マーディッシュ商会がいなくなったことによって現六位となった箱庭の一柱だ。一応、「情報誌」を発行することを主としている組織なのだが、『春夏秋冬』の実態はそこにはない。取継ぎ業務。それが『春夏秋冬』が発展してきた所以である。ありとあらゆる任務、依頼の取り継ぎ。そのため、さまざまな組織が『春夏秋冬』の影響下に存在している。それが、この組織の強みである。
だが、不可解なのは……
「『春夏秋冬』至っての希望、とはどういうことなのでしょうか?私達はあの組織と何らつながりはありませんが?」
そう、そこなんだよな……上位の組織になればなるほど独自のルートを使って依頼の受注をしている組織が増えるし、情報屋も『春夏秋冬』を介することはなかったので、全くと言っていいほど繋がりがないはずなのだ。それはあちらからしてみても同じはずで、両方知らない者同士で何をしようという話なのだが……
「それがね、あちらの組織に任せていた義務、『情報統制」が間に合わないという連絡が来てね。もう一柱、情報系の組織を加えてくれないかと、そう言われたんだよ。そこで君たちがうってつけだったというわけ。腐っても『二位』であるマーディッシュ商会の制圧にも関わっていたわけだし」
なるほど、それでか。腑に落ちる部分は確かにあった。「暴徒の制御」など他組織が共同で負っている義務に対して、一組織で情報統制はあまりにも荷が勝ちすぎる。共同で行ったほうがいい、と言うわけだ。つまり、ありていに言えば、こちらの組織に負担を一部押し付けたい、と。
「で、これで聞きたいことはあらかたわかっただろう?」
マキナが少し決断を急かすように、俺達に声をかけた。焦る、ではないが、いつも余裕綽々なマキナのペースがいつもと微妙に違うことに、今回の出来事は、本当にマキナの本意じゃないんだな、と何となく伝わってくる。
「はい、おおまかには」
ジンの返事は冷静そのものであり、落ち着きのない場の雰囲気を少し冷ましてくれるような、そんな恵みに近いものだった。その言葉で少し気持ちが晴れたのか、マキナは少し顔を綻ばして俺達に応じる。
「じゃあ、次の満月の夜。臨時「定例会議」を開催するから、その会議に来てくれ。と言っても案内は僕がするけれど。とにかく、その会議で、正式に認証が行われる」
「定例会議」。裏町の代表八組織以外の参加が許されていない、正真正銘「王者達の会議」。それに参加する立場になったことに、俺達の背筋は、少しの悪寒と、それ以上の希望を訴えていた。
「御心のままに」
形式的なものなのだが、それでも心から跪いてしまうほどの希望と、明るいビジョンが、その時、俺の中には確かに存在していた。




