金眼
本日はマーガレットの過去です。あと、今日から間章に入りました。
血統魔法というものが、この世には存在する。それは、幾年も地獄のような修練の日々を送ってきた成果を、幾世代もかけてどんどんと血に馴染ませ、血族全員が同じ固有魔法を扱えるようになる、その魔法のことを指す。その力を持つものは、ほとんど例外なく生まれた時からの強者である。
だが、当然ではあるが、それにだって、個人差はあるわけで。とんでもなく強い力を持って生まれてくる赤子もいれば、血統魔法の家系だというのに、一般人と同等かそれ以下程度の魔法しか使えないものもいる。血の濃さなど様々な要因があると言われているが、その原因は未だ特定にいたってはいない。
ただ、一つだけ、確かに才があるか、魔法を受け継いでいるかを見分ける術がある。……それは、『瞳の色』である。
マーガレット・アインツェ・アノルフィアは北大陸で最も権威を振るう国、アノルフィア皇国の第二皇女として生を受けた。そう、第二皇女として。生まれつき体が弱かったマーガレットにとって、「第一皇女」で姉であるアリスフィーネの存在は、敬愛を向けながらも、妬ましいものではあった。
なんでもできる完璧な姉、それがマーガレットのアリスフィーネに対する印象であり、期待であったからである。とはいえ、マーガレットにとっての姉は親愛と尊敬の対象であったので、その嫉妬は幼少期においては、前面に出てくることは決してなかった。
だから、自らについている執事や乳母やメイドが「次の皇帝はアリスフィーネ様だろう」ということを隠れていっていたとしても、「どうせならアリスフィーネ様に仕えたかった」と文句を言っていようとも、周りの反応から姉とはそういうものだと信じ込んでいたため、「そういうものか」としか思わなかった。
実際、マーガレットは皇座になんの興味もなかったし、そこに登ろうと考えたことも微塵もなかった。皇帝に興味を示さない妹と、万才を持つ姉。その二人がいる以上、アノルフィア皇国の未来は、もう決まったも同然かと思えた。
だが実際、世界は意外性を好むものであり、順当をこの上なく嫌悪する性質を持っている。平穏を壊すことこそが、世界の理なのである。それはこの場合でも全く例外などではなく。
アリスフィーネ十歳、「承血の儀」にて、それは起こった。「承血の儀」それは、幼い頃から強大な力に飲まれぬために、先祖が自らの血族に施した封印を破るための儀式である。小さい頃から何度も魔力を暴走させて扱いを覚える、そのようなことは子供にも、周りにも危険すぎたため、この方法が取られるようになったのである。
とにかく、その結果この「承血の儀」こそが、実質的に血族が「血」に目覚める瞬間とされているのである。つまりそれは、「瞳の色」もその儀式が滞りなく進めば変化するわけで。
アノルフィア家の場合、代々「金の瞳」を持つものが家長となり、家、ひいては国を治めてきた。金眼のものこそが、最も色濃く先祖の血を受け継いでいるからである。それはアノルフィア家の始祖とも同じ色であり、アノルフィア皇国の誇りの色そのものでもあった。
次いで「銀の瞳」のものが血統魔法をよく扱えるとされてきたが、あくまでも「よく」止まり。本当に濃く血を受け継いでいるものには原則勝てない。
だからこそ、後継者と目されている者は、「金の瞳」を得なければならないのである。
多才な人間であるアリスフィーネが「金眼」を手に入れることは、多くの者にとっての希望であり、確信であった。それは、アリスフィーネ本人も例外ではなく、自分自身が「金の瞳」を持つものになるのだと、全く疑ってもいなかった。
そんな状態であったから、「承血の儀」の準備は全く滞りなく済んだ。アリスフィーネの母の時などは、対立勢力による妨害工作が行われたりもしたのだが、アリスフィーネの際にはそれも全くなく。
儀式は、アリスフィーネの誕生日に行われた。十の誕生日こそが、血が成熟する年だとされているからである。儀式の行われる場所は、大広間。アノルフィア皇国全員の貴族が入れるほどの大きい空間である。
その場所は、金に、銀に、赫に、飾り付けられていた。皇国の権威と、儀式の重要性を徹底的に誇示するための装飾だ。
「我が血、我が器、我が心、存分に育ちけり。我が祖よ、貴殿の血を、我に、解放したまえ」
そんな場所で、アリスフィーネの祝詞が神々しく響く。一言、一言、言葉が響く度に、アリスフィーネの周りに赫い光が、集まっていく。その光は、まさに「能力開花の儀」の際に降り注ぐ神秘性を秘めた光であり、儀式が確実に成功した、と言うことを示すものであった。
光は、さらに強くなり、アリスフィーネを覆い隠していく。そして、アリスフィーネが祝詞を唱え終わったとき、一際大きい輝きを放った。何百人を収容できる広間が、赫に染まる。
それを見て、その場にいる全員が、儀式は成功したと確信した。
だがしかし、「承血の儀」が行われた後、赫が去っていって明らかになったアリスフィーネの瞳は、眩いほどの『銀色』に輝いていた。
突然お休みをしてしまい、申し訳ありませんでした。今後もお休みをいただくことはございますが、少なくとも事前に宣言をしますので、ご容赦ください。




