箱庭の住人
久しぶりの主人公視点です。
あのあと、「定例会議」はつつがなく終了した。俺としては、何が何だかわからないまま通信が始まり、そのまま何がなんだかわからないまま終わったという印象だったのであるが、どうやら「ヴァルキリア」の面々は状況をしっかりと理解していたっぽい。
ファイズの証拠提示が終わった後、「マーディッシュ商会」の位階降格はすぐに決定された。当然と言えば当然である。俺としては証拠は決め手にかけるものだったのではないか?と思ったのだけれど、自信満々に追及を進めていくマキナを見れば、その程度のことは些事なのだと、疑問はいつの間にか吹っ飛んでいた。
「マーディッシュ商会」の処分は『特権』の剥奪と、有象無象への降格。一度下の位階に落ちた組織が自力で這い上がってくるのは非常に難しいため、事実上の永久降格宣言である。とはいえ、たまに降格されても成り上がって元の位階に戻ったりするケースも見受けられるらしいのだが。だが少なくとも、しばらくは無理であろう。
そして今回の「定例会議」でマモニルスに下った処分は、「抹消」。「協会」の『義務』である抹消が、元とはいえ箱庭の首領に適応されるケースはほぼないらしく、裏街の歴史全体から見ても非常に珍しい結果となったらしい。
マモニルスは、その決議が行われた後すぐに退場させられていき、その場にいた彼の二人の付き人達も帰らされることになった。付き人の二人はともかく、マモニルスが退場する際は、たいして戦闘力もないというのに必死に抵抗を重ね、俺から見れば見苦しい限りであった。
その後、通信は打ち切られたので、七柱体制となった箱庭の面々で何が話し合われていたかは、俺の知るところではない。その後も結構長い間話し合いは行われていたらしいのだが……
それから、「マーディッシュ商会」にいた面々は解散となり、俺は同じく困惑しているジンとアリアと共に、情報屋本部へと帰っていったのである。
………と、ここまでが「粛清戦」終了の顛末。そういうことで、今、具体的には「粛清戦」から三日後なのだが、俺達情報屋の面々は束の間の休息を楽しんでいるところであった。なぜ「束の間」なのかというと、この後には「アノルフィア皇国」との対峙が待ち構えているからである。直接鑑賞する気はなかったにしろ、皇国のプランを潰してしまったのは確かなわけで、俺としても皇国には因縁やらなんやらがあるし、戦うのは必須なのである。
だが、「束の間の休息」とは言え、別に仕事がない、とかそういうわけではない。あくまで、仕事をこなしながら作戦の準備を進めていた日々が尋常じゃないほど忙しかっただけであって。まあ、俺は全く準備とかしてはいなかったんだけれども。
そして今日は、「仕事」とは別にマキナから呼び出しが入っている日であった。実は、「粛清戦」の解散の際、ファイズから一通の手紙を預かっていたのである。伝言ではなく、「手紙」だ。おそらくだけど、マキナは最初からこの結末を見通していたのだろう。そうでないとやたらと時間がかかるし、マオ持って準備しておく必要のある手紙なんて書けるはずもないし。とにかく、肝心のその内容が……
「三日後に傭兵組合に来てね〜 あっ、悪い話じゃないよ?」
と言った感じのものだったのだ。実際はこんな軽い文章じゃないけれども、意訳したら多分こんな感じである。マキナの伝言の手紙って、なんでか知らないけどオフィシャルな文体で書かれてても軽く見えるんだよな……
とにかく、今日はそんなこんなで「ヴァルキリア」の面々に呼び出されて裏町の中心街へとお邪魔しなければならないのである。俺としてはあまり乗り気ではないのであるが、確認したいことやら、どうやって「粛清戦」に勝利したのかなど、あまりにも不可解なことが多すぎて今のままではお話にならないので、訪問するしかないであろうと心に決めている。
というわけで、今日「ヴァルキリア」を尋ねるのは、俺、ジン、アリアの三人である。一応アリアは奴隷なので、付き人って立場にはなるのだけれど、俺からしたら仲間というか、妹的存在という感じなのでそこら辺は周りの認識とは分けて考えるようにしている。
ちなみに、ジンや、もちろんアリアも「ヴァルキリア」の面々の居場所を知らない。当然である。だから俺が案内することになるのだが、一回行っただけの俺では少し記憶が曖昧になっていたりもするわけで……
結果、俺達が傭兵組合にたどり着くのに要した時間は、以前マキナに案内された時の倍程度だった。とにかくいろんな道で迷いまくったのである。街の中心にあるのだから目指すべきところはわかるのだけれど、いかんせん道がわからない。途中で途切れてたり、通れない道があったり、自分の記憶もたいして当てにはならないし、とにかく大変であった。
自分の記憶中枢に期待するのはやめよう、とにかくそう思い知った時間であった。
ということで、「ヴァルキリア」にて。俺は今、マキナとその秘書達と対面していた。「ヴァルキリア」内でも迷ったりとか色々あったのだが、その紆余曲折は多分今後も語ることはないだろう。
こちらが三人なように、あちら側も三人。マキナと、第一秘書であるファイズと、第二秘書である。サリサが第二秘書の肩書を手にしていたので、彼は一応、第三秘書ということになっていたのだが、「粛清戦」後に無事に第二秘書に復帰したそうである。なんともめでたいことだ。
「よく来たね」
軽く歓迎の言葉を述べるマキナであったが、俺にはそんな彼の様子が、いつもと微妙に違うように感じられて仕方がなかった。シリアス、と言えばいいのだろうか。身に纏っている雰囲気が、いつもの飄々とした、軽薄なものではない。親しみやすさの裏に威厳が隠れているような、そんな名君の雰囲気を醸し出していたのだ。
「早速だけど、本題だ。君達は僕達に聞きたいこととかが多数あると思うんだけれど、一旦それを我慢して聞いてくれ。それさえ約束してくれたら、後で疑問にはいくらでも答えてあげるからさ」
その顔は、神妙、というべきか。少なくとも、いつもの軽い雰囲気ではなかった。マキナは重大なことでもさらっと言って退けてしまうような男である。そんな彼がここまで重々しい雰囲気を醸し出している以上、何もない、ということはないはずだ。
僕としてはこんな重荷を背負わせたくはなかったんだけど、と前置きを置いて、彼は苦い表情を浮かべながらも、簡潔に結論を述べた。俺たちの今後を決定づける、そんな言葉を。
「情報屋は、本日、この瞬間より、箱庭八位となる。今日の呼び出しは、その通達のためだ」
多分次の次の話から間章に入ります。
十五日零時と十六日零時の投稿が出来なくなりました。申し訳ありません。




