結末
「とは言っても、これに関して僕が証拠を示せなかったとしたら、マモニルスと主張のレベルは同じだからね。そこはしっかりと、根回しと情報の収集、両方行わせてもらったよ。僕はそこまで浅はかな人間じゃないんでね」
「じゃあ、始めようか」
マキナが大きく指を鳴らすと、ホログラムのようなものがマキナの横に展開された。その光の発生源を辿ってみると、そこにあったのはマキナの魔道具。ジン達が通信に使っている例のものである。作成者はわりとギミックとかを好きに仕掛けられるため、世に出した魔道具に自分しか扱えない権能をつけたりすることなんかもざらにあるのである。
今回のホログラムもそうである。これは、マキナが「ヴァルキリア」メンバーにしか使えないように仕込んだ隠しギミック。音も通信できるんだから、映像も通信できたっていいじゃないか、とマキナが考えついた先に生まれた仕掛けである。この世界では初の試みであり、マキナのこの通信魔道具以外に魔道具で通信機を作ることに成功したものは誰一人としていない。
「マキナ様ぁ?聞こえてますか?」
立体映像越しから聞こえてくるのは、ファイズの声である。通信先は、「マーディッシュ商会」内部なのである。そこにいたのは、ファイズ、東 航、ジン、アリアの四人。映像には映っていないが、他にも十数人分の衣擦れや細かいざわめきなんかが、画面越しに聞こえてくる。「協会」攻略に回された面々も、今はマーディッシュ商会の中枢へと集合しているのであった。
ファイズ以外の三人の不可解そうな顔から、その状況は別に作戦通りなどではないということが分かる。いや、マキナにマキナにとっては想定内も想定内、完全に作戦の一部なのだが、情報屋の面々はそれを全く知らないのである。それもそのはず、この話をマキナはあえて意図的に知らせていなかった。
それは、「その方が面白い」という感情を優先させるマキナ自身の悪癖であり、同時に「その方がうまくいく」という、敏腕の作戦立案者の考えでもあった。マキナ自身もそれが自分の拭いようのない欠点であることは理解しているのだが、それでも変えようとはしていない。自分のやり方を貫いた方がうまくいく、と本能で知っているからである。
「あぁ、オーケーだ」
ファイズはほっとしたような様子で一つ大きなため息を吐く。そこには『元第二秘書』であるサリサに向けていた怒りの色は全く感じさせない極々平凡で慇懃な男性がいるのみであった。
「では、ここは私から証拠の提示を行わせていただきたいと思います」
ファイズのその一言から、「マーディッシュ商会」への糾弾は始まった。状況を受け入れられず、半分上の空であるマモニルス以外の七人の棟梁達は、ファイズの発言をじっと見つめていた。今この場で、いかに状況を把握して勝ち馬に最適な方法で乗れるか、それこそが今後の裏町の上層部の勢力図に大き具関わってくるのだから。まあどのように転がるにしろ、既に「ヴァルキリア」がさらに影響力を強める、ということは確定していて間違いないのであるが。
「私が提示できる証拠は、これです」
その言葉を皮切りに、次々と言葉が『再生』されていく。そう、これもマキナの魔道具の効能の一つである。『通信』だけでなく『録音』もできる優れものなのである。それから再生それから再生される音、それはサリサの声に他ならなかった。
『「私たちには皇国の後ろ盾がついた。それに、今回の………」』
その声が、淡々と、しかし確実に再生されていく。流石にもうこれでは言い逃れなどできるはずもない。何と言ったて証拠が万人にわかりやすい方法で面前に晒されているのである。だがしかし、その音に対してマモニルスはささやかな反抗を捻り出した。
「ど、どうせそれそのような画像、偽造であろう?そちら側が開発した魔道具ならば好き放題ではないか」
だが、それすらもマキナに一瞬で叩き潰される。あらゆる反応を想定してシュミレートしているマキナにとって、この泥土は完全に予想の範疇なのである。
「じゃあ、こんなのはどうかな?」
そういうマキナに合わせて、画像を変えるファイズ。どうやら魔道具を動かして、彼らとは別の対象をその映像に収めようとしているようだった。ファイズは魔道具のしように慣れておらず、しばらく悪戦苦闘していたが、最終的にはしっかりと対象を捉えることに成功した。
そこには、捕まっていた孤児達の姿があった。動く証拠、とでも言えばいいだろうか。確実に逃さぬように、死なぬようにとほごし、閉じ込めていたことが、完全にマモニルスの悪事を暴く要因になったのである
「結局のところさ、証拠が真実かどうかなんて、正直誰もどうでもいいんだよね。人は信じたいものを信じる。もちろん説得力あってのことだけどね。僕はそれを示した。君には説得力が欠けていたよ、マモニルス」
「爪が甘いね、君は。千手、万手を先に読み、それでも勝ちきれないことなんてざらにあるのが、知恵の戦いだ」
マキナは、マモニルスに顔を近づけてこう言った。その声は、この上ないほどの凄みに溢れており、それは、万人を萎縮させるほどのものであった。
「舐めてんじゃねぇよ、若造が」




