裁断
「「クロニック」はね、つい昨日、傭兵組合に入会したんだ。聡明な君なら分かるね?この意味が」
マキナは、無慈悲に、残酷に、そして心底楽しそうに言葉を並べ立てていく。皮肉や挑発にまみれたその声は、確かにマモニルスの精神をだんだんと蝕んでいた。
「そもそもの話、傭兵業を営んでいる者はなんらかの形で僕と繋がりがある。だから彼は、僕のために証言をすると決めたわけなのさ。自明の理、そう言ってもい。彼が僕への糾弾に乗じる可能性は、万に一つもなかったんだよ?」
追撃。マキナはマモニルスに容赦なく言葉を浴びせかけていく。根底から心を折りに行く言葉。それがマモニルスへ一身に襲いかかっていた。
「フンッ。規律違反者の言葉など聞くに堪えんわ。有り余る金で買収でもしおったのだろうよ」
虚勢を張るマモニルスの声からは、既に覇気が消え失せていた。マモニルスは顔を青くして、脂汗をかきながらも、必死にマキナに対抗しようとする。だが、その声は結局、マキナに気圧されていることを示すだけのものへとなり下がってしまっていた。
「「協会」。証言しろ」
マモニルスは、「協会」のリーダーである仮面の人物に命ずるように高圧的に話しかける。だが、その尊大な態度とは裏腹に、その声は助けを求めているとしか、周りが受けとらないほど弱々しいものだった。
その態度が、言葉が、マモニルスのマキナへの恐れをこの上ないほど際立てている。発言を重ねれば重ねるほど不利になっていくその状況にも全く気付けないほど、マモニルスは追い込まれていた。
「証言も何も、私はこの件に何ら関与していない。そんな私が何かを証言するというのならば、それこそ偽証罪にでも問われてしまうのではないかな?なぁ、『一位』殿?」
期待を込めた視線で「協会」のリーダーを見つめるマモニルスだったが、その人物から発せられる言葉を聞き、醜く顔を歪める。その顔の歪みは屈辱か、怒りか。それはマモニルス自身でさえわかっていなかった。
マモニルスは計算高い男だ。実際、彼の関わった商取引で損が出た事はほとんどない。だが、マモニルスにはこのような実践経験が全くと言っていいほど存在していなかった。マモニルスの爪の甘さは、そこに起因するものである。
「まあ、そうだね。君が何も関与していないと言っているんだ。そうなんだろうよ」
マキナは、「協会」のリーダーの言葉にすぐさま乗っかる。場の流れが一気にマキナ有利の状況になり、「協会」がいつの間にか裏切っていたことを、マモニルスは察した。
「嘘をつけぇぇ。こちらが持っている情報を知って尚、『一位』側に着くというのか?」
恥も外聞もかなぐり捨て、マモニルスは青く染まっていた顔を赤く染めて怒鳴り散らした。発言と同時に強く机を叩いて立ち上がった彼を好意的な目線で見るものは、既にこの場からはいなくなっている。
この場の大多数に冷やかな視線を向けられていると言うのに、マモニルスは一向にその怒りを収める素振りがない。理性では圧倒的不利だと分かっていても、それを認めたくない本能が、怒りと言う感情を呼び覚まし、彼の感覚を曇らせているのである。
「情報も何も、貴様との関わりは全くないのだ。そちら側?私は永久に中立さ。それが『抹消義務』を持った組織のあるべき姿だろう?」
二人の押し問答は終わらない。だが、この場で圧倒的に正しいのはマキナと「協会」サイドであり、もはやマモニルスの反論は羽虫の飛翔音以上に価値のあるものではなくなっていた。既に場の雰囲気は完全に固まっている。
「死なば諸共、という言葉を知っているな?貴様を引き摺り落とすことなど容易いのだぞ」
その脅しは、マモニルスがマキナを陥れようとしていた、と白状するのに等しい行為である。だが、怒りで頭が全くと言っていいほど働いていないマモにするには、そんなことさえ認知することができていなかった。自分の主張の正当性も証明できないまま、ただ濡れ衣を捲し立てているだけ、周りから見たら完全にそのような印象である。
「醜いねぇ。皆さん、どうやら有力な証拠も出てこないようだし、彼の提案は否決。そういうことでよろしいかな?」
マキナのわざとらしいほど嫌味な声が、議決の時を告げた。だが、この状況を見れば、もう結果など分かりきっているようなものである。。確実に、マキナが勝つに決まっているのである。
「「「同意」」」 「「「「肯定」」」」
マモニルスとマキナ以外の六人の首領たちの声がそれぞれ響く。その声は、全てマキナへの賛同を表すもので、この場にとっては至極当然の結論を導くものであった。
「否、否、否否否ァぁぁ」
ただ一人、反対する者の声が響く。顔の肉を醜く振動させ、必死に自分の言葉に正当性を持たせようとしている男、マモニルスが、現状を認められずに必死に言葉を捲し立てていた。だがもはや、彼の言葉をまともに聞いている者さえいない。もう結論は決まっており、マモニルスは敗者で確定してしまったのである。それを覆すことは、今この場所においては、もう不可能であった。
「五月蝿いよ、一旦黙れ」
ほとんど言葉にならない言葉を並べ立てる彼に対し、マキナは冷徹に裁きを下すように、言葉を発した。
「僕からも発案する。傭兵組合「ヴァルキリア」に対する陥計及び、「表」との結託の咎にて、「マーディッシュ商会」の位階抹消とマモニルス個人の『抹消』を提案する」




