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悪役覇道  作者: wisteria
第二章 『裏町覇道』
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氷に彩られた世界で

短くてすみません。本日は難しいのですが、明日加筆しようと思っております。もちろん明日も投稿を行いますので、両方見ていただけると幸いです。

 ジンは失望していた。正確に言うと、失望だけではない。安堵や、喜び、はたまた落胆というような様々な感情が彼の心内にはごちゃ混ぜに存在していた。だが、結局のところ、心中に存在している感情の九割方は失望である。であるから、ジンの持っている感情は、失望と言って差し支えないものなのである。


 では、なぜ彼が失望を覚えているのか。それは、ジンの周りを見れば容易に察することができる。

 彼の周囲には、人影は全く存在していない。ただ、元がなんなのかもわからないような、厚い氷に覆われた氷像が、ところどころに散在しているだけである。

 ジンは、誰か生存者がいないかどうか歩いて探し回るのだが、一面凍りついた建物内を見るに、その可能性はごく低そうであった。思わず、ジンでさえ油断して足音を立てて歩き回ってしまうような静寂がその場を包み込んでいたのであった。


 その様相を見れば、自ずとジンの落胆の理由は察せられるであろう。ジンは、強者の炙り出しの為に魔法を行使したのである。だが、選別を潜り抜けたものが一人もいなかったのだ。ジンの目論見は完全に外れたということになる。

 ジン自身に対する失望なのか、それとも敵に対する失望なのか。そのところは不明だが、少なくとも人があからさまに落胆している雰囲気を醸し出していることだけは確かであった。


「さて、どうしましょうか。叩き起こすのもちょっとすぐには………」


 ジンは、周りに人がいないことを確認してから、自問自答を始めた。かなり大きめの独り言での思考であるが、敵はもういないのだ。わざわざ配慮することもない。自分がやりやすいようにすればいいのである。

 そう思って、ジンは自分の世界に没頭するように、この状況を変えるべく打開策を考えていた。やはり、生存者がいないことには、証拠を聞き出すことも、その他の情報収集も、何も出来ない。自分の攻撃が効き過ぎたからこそ打開案を考えなければいけない、というのも皮肉な話である。


 そういう状況だったからこそ、ジンは完全に油断し切っていた。だからこそ、普段は絶対にやらないであろう愚行を犯してしまったのである。


 ジンは、思考を進めながら歩き回り、会議室のような場所へと辿り着いていた。今まで目に映っていたのは廊下と鍵のかかった部屋ばかりであったので、ジンにとっては少しばかり新鮮であった。

 鍵のかかった部屋はしっかりと中まで氷が行き届いているか確認していたし、それ以外の警戒だって怠らなかった。だから、生き残りがいる可能性は無に等しかったはずである。


「遅ぇよ、間抜け」


 ゆうに数十人が入れるであろう大会議室の奥、議長がいるべきであろう席に、今、この瞬間、その男を見つけるまでは、ジンもそのことを信じて疑わなかった。


「間抜けとはご挨拶な………」


「ハッ、間抜けに間抜けと言って何が悪い?」


 ジンの言葉は、挑戦的な男の言葉によってかき消される。北大陸では珍しい黒目黒髪に、白に近い黄色の肌。顔の彫り込みや細い体格も、東 航と酷似した相貌である。同邦人、その可能性が高いのは、誰からみても明らかであった。だが、流石にジンはそんなこと気にはしない。

 ジンは、挑発を重ねる男に向かって一発叩き込んでやろうという思いで、拳を固く握りしめ、そのまま床に倒れ込んだ。


「つっっ」


 ジンの苦痛の感情が、そのまま声となって口から漏れ出る。今、ジンは強烈な痛みを感じていた。側頭部を思い切り殴打された感覚。傷口にかかる独特の痛みから、それが殴打でできたと言うことはすぐに分かる。


 言うまでもないことだが、伏兵、その仕業であった。ありがちだが、成功しやすい策である。皮肉にも、マーディッシュ商会の攻略にも利用されたそれが、ジンの身に襲いかかっていたのである。

 だが、そこはさすがに、だてに裏町で長年生きてきていない。ジンは若いながら、古参に入るほどの戦闘経験を積んでいる男である。流石にタダで終わったりするわけがなかった。


 寝転んだ状態から伏兵の方向を見ずに気配だけで追撃を避け、そのままその勢いの反動だけで立ち上がる。そしてさらにその時には、魔法の発動の準備をすでに終えていた。


制限解除(フルバースト)。『氷結』」


 氷は、確かに、そして高速で、過去の氷すらも飲み尽くし、何ものにも遮られずに、ただ広がっていった。その光景は神秘的以外に形容のしようがないほどに輝いていた。

 ジンを起点にして、氷は円を描くかのようにどんどんと広がっていく。その勢いは、何者も邪魔できないほど速かった。ある程度の大きさがあった会議室はあっという間に氷に包まれ、氷は次なる獲物を探すように部屋の外へと走り去っていく。


 ジンは、男達を完全に凍り付かせようと思って攻撃を放った。彼らから証拠を聞き出すのが最も効率的ではあるのだが、彼らを捉えるのは面倒であるという発想からである。実際、いくらジンが油断していたとはいえ、ただの素人にそう易々と背後を取られ、しかも一撃を喰らうジンではない。男達がある程度の実力を有しているのは明らかであった。

 ジンは、『氷結』を発動した時点で確実に男達を凍り付かせたという確信を持っていた。だが実際、それは間違っていた。見覚えのない男、伏兵の方であろう者は、半身が凍っているもののまだぎりぎり意識を有しており、先のジンに「間抜け」呼ばわりをした男にいたっては完全にダメージがない。


 『氷結』は生半可な武人が受け切れるような攻撃ではない。制限解除(フルバースト)は、一歩間違えれば自らも凍りついてしまうほど高威力の攻撃である。その攻撃に耐えれるのは、ジンよりも魔力操作が上手かったり、魔力の質がいい者だけ。男達は、そのどちらかに分類されると言うことである。彼らが強者であると言うことは、疑いようのない事実だった。


「間抜けな顔してるぜぇ、情報屋」


 男は、「情報屋」と言う言葉を口にした。それは、ジンの素性が敵に割れていると言うことである。情報屋(フェリスターク)。ジンの仕事を知っている者はごく僅かである。客に対しても素性が割れないようにしているのだ。本当に限られた交友関係のものしかジンの職業は知らない。

 にもかかわらず、男達はそれを知っていた。顔も、仕事も、おそらく名前も把握されている。そんな焦りが一瞬人の中によぎる。暗殺者が集う「協会」。その組織の情報収集能力は、情報屋と肩を並べるほどであった。ジンのアドバンテージの一つ。それを潰されては戦いにくくなることは明白。相手の実力からして勝てるかどうか怪しいと言うのに、得意分野を潰された状態での勝ち目は薄いと思われた。


「名前を、教えて頂けませんか?」


 散々考えた挙句、ジンの口から出た言葉はそれであった。


「名前ぇ?そんなもん知ったって、お前にはなんの特にもなりゃしねぇだろうが?」


 心なしか男も呆れ顔をしているように思われた。礼節を重んじる者のほぼいない裏町では当然の反応である。続いてもう一人の男にも意識を向けるが、伏兵の方は意識がなくなってしまったらしく、反応がもう全くない。この場は、実質的に男とジンの一対一の空間になっていた。


「ええ、冥土の土産に、ぜひ」


 それはもちろん、ジンの本心ではなかった。作戦立案、撤退もしくは攻撃、ジンの脳内にはいくつもの考えが同時並行で展開されており、それが結論をはじき出すまでの時間稼ぎに会話という手段を用いているだけである。


「ハッ、殊勝なもんだ。いいぜぇ、教えてやるよ」


「俺は、リプトス王国の元「勇者」。(ひじり) 侑騎(ゆうき)だ。俺は優しいんでなぁ、お前の冥土の土産にもう一つ、穴の空いた腹をプレゼントしてやんよぉ」


 悪趣味な男の声。その姓名から、ジンはやはり聖が東 航と同郷であると確信した。

 だがそれ以上に、ジンには気になる点があった。「勇者」。その単語が、この男から出たことが場違いでならなかった。その驚きと、一瞬遅れてやってくる過去の記憶(フラッシュバック)。それを起因として、どんどんと流れ込んでくる封印した過去。それから必死に逃げるべく、ジンの心が、体が、目の前の男を完全に拒んでいた。


「二つだけ、質問をしても?」


「どうせこれから死ぬのになぁ、時間稼ぎってやつかぁ?」


 聖は、ジンに対してどこまでも舐めたような態度をとっている。それは、一度仕立てに出たジンに対する当然の反応であったのだが、それが今のジンには腹が立って仕方がなかった。


「いいから答えろ、下衆が」


 ジンの迫力に、聖は一瞬押されたような気分になり、そのまま頷いていた。


「一つ目、東 航という人物に心当たりは?」


「二つ目、お前は「協会」の幹部か?極秘情報を握っているなら、今すぐ差し出せ」


 滅多に出さない怒りを孕んだジンの声。聖はそんなこと知るはずもなかったが、ただただその怒気に圧倒され、ジンの問いに本能で答えていた。


「残念ながらどっちもノーだ。俺は今はしがない傭兵なんでね」


「今まで色々と仕事をやってきちゃいるが、傭兵ほど美味い仕事はねぇよ。人を殺るだけで金がもらえる仕事なんざ滅多にねぇぜ?」


 一言発し、ジンが無反応であったことにかこつけて言葉を並び立てていく聖。その口は、ジンへの底知れぬ恐怖から魚が水を得たように高速で回っていた。


「お前もこれから………」


「もう十分ですよ。冥土に行くのは、あなたの方です」


 ジンは、聖の言葉を途中で遮り、静かで、この上なく怒りを孕んだ口調で、挑発の言葉を述べた。


「あぁ?お前、何を……」


 聖が、その言葉を言い終わることはない。なぜなら、もう聖の体は全身氷に覆われているのだから。三度目の氷が容赦無く聖の体を痛々しく包み込んでいた。伏兵も同じように凍りつき、周りに人の気配は今度こそなくなっている。


「『氷点下』」


 後から虚しくジンの声だけが響いた。


「ああ、冷たい」


「あなたに恨みはありません。これは、ただの自己満足。私が過去の呪縛を緩めるための。とりあえず私の怒りはここに置いていきます。引き受けてくださって感謝しますよ。聖 侑騎さん」

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