定例会議
「始めようか、「定例会議」を」
マキナの全体に語りかけるようなよく通る声で、「定例会議」は始まった。満月がちょうど登る頃、宵闇の最も深まる時刻のことである。
会場は、傭兵組合「ヴァルキリア」の応接間。マキナの本拠地である。「定例会議」は一位の組織のもとで行われるのが慣例となっており、今回もそれに従い「ヴァルキリア」が会場となったのである。とはいえ、実を言えば「ヴァルキリア」が一位を譲ったことは、箱庭制度ができてから一度もなく、実質的には「ヴァルキリア」のこの応接間こそが固定された会場だと言って差し支えないのではあるが。
「ヴァルキリア」の応接間は、誰もが裏町一位と信じるような、立派なつくりであった。まず入り口から入って最初に見えるのが、玉座のような八の椅子。もちろん「定例会議」のためだけにあしらわれた一級品である。さらには、純白の壁と、それをよく反射する高級な机。机に関してはヴァルキリア姓を得ている者以外は、誰も何の材質なのかさえ知らない。ただ、大理石のような外観と、大理石ではあり得ないほどの輝きが、材質から選び抜かれた極上のものであるということを見るものに伝えていた。
壁には武具がかけられている。これの数もちょうど八個。剣、槍、斧、細剣、盾、刀、槌、錫杖。どれもこれも飾りなどではなく、伝説級の名剣とも互角以上に渡り合えるような逸品である。デザイン性をも兼ね揃えたそれは、マキナのこだわりによって選び抜かれたものであった。
それぞれの席の裏には、純白の壁に大きく組織の紋章が描かれており、それすらもこの場の雰囲気を彩るピースの一つとなっていた。
常人ならばその重々しい雰囲気に耐えられなくなり、すぐにおそれを成して逃げてしまうであろう空間。まさに格式で殴ることを目的とした応接間である。そして、その空間に涼しげに居座っている者が二十名と少し存在していた。。箱庭のそれぞれの組織の棟梁と、それの付き人がそれぞれ二人。計二十四人。名実ともにこの裏町の支配者である。
そんな彼らに対して、王のように堂々と振る舞う者。言うまでもなくマキナである。一位にして裏町のトップ、マキナ・ヴァルキリアが、この場の支配人である。
「定例会議」。それぞれ役目を科せられている「箱庭」が一堂に介し、裏町の運営について話し合う会議である。その会議が今、始まったのだ。
「では、まずはお茶でも」
マキナは参加者達に飲み物を勧める。流石に真夜中であるから晩飯を提供するようなことはせず、あくまでも軽いお茶会のようなものである。もちろん出す飲み物と食べ物も品格にふさわしいものを用意しなければいけない。必死に見栄を張り合うのが裏町流であり、裏町で生きていくために必須な技術でもある。
実を言うと、マキナが以前、東 航に振る舞ったフィンテルはこの「定例会議」のために用意していた「ヴァルキリア」独自のものなのである。「勇者」は裕福な世界からやってきて、ほとんど例外なく舌が肥えているから航が美味しいと言えば大丈夫だろう、と言う理由である。
このようなやり取りは「定例会議」のたびに毎回行われていること。流石に従者達も慣れた様子で給餌を行なっている。マキナは、ここには裏に堕ちた者しかいないと言うのに格式や品格に縛られると言うのもおかしな話だ、と常々思っている。だが、自分が裏町をそういうふうに作ったのでどうすることもできないのだ。
誰も口を発さずに時間は流れ、お茶の時間はつつがなく終わり、この会議の本来の目的、裏町についての話し合いが行われることになる。
「では始めようか、まずは報告を」
箱庭はそれぞれ役割と権利を持っている。
傭兵組合は『治安維持と傭兵業務遂行権』。マーディッシュ商会は『資本流通の管理と外部人材の人身売買の権利』。三位の「青龍會」は『暴徒の制御と統括権』。四位のディクルズ商会は『二位と共同で資本流通の管理と宝物の独占売買権』。「協会」は『不適格者及び裏町の規律違反者の抹消と情報処理権』。六位の「百獣家」は『三位と共同で暴徒の制御と安全権』。七位の「春夏秋冬」は『情報統制と検閲権』。八位の「パリスティア教」は『信徒の統制と絶対領域権』。
揃って一癖も二癖もある者達が集結している組織であり、当然そのリーダーもどこか常人らしからぬ者ばかりが集まっている。そんな組織のリーダー達をさらに束ねて見せるマキナも、やはりどこか危険は魅力を孕んでいる人物である。
「じゃあ、まずは「ヴァルキリア」から」
マキナが口火を切って、「定例会議」は進行していく。闇がだんだんと深まる中、会議もそれに呼応するかのように佳境へと入っていった。




