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悪役覇道  作者: wisteria
第二章 『裏町覇道』
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リミット

「私達はヴァルキリアの刺客。倒されたい者から前に出なさい。全員、土に顔を埋めて差し上げましょう」


 ジンは「協会」構成員の巣窟の中で、全員に聞こえるように大きな声で啖呵を切った。隣にいたアリアは、彼の発言に驚愕の表情を浮かべている。無理もない。そうジンは思った。

 自分にしては珍しい行動をとった、その自覚がジンにはあったからである。ジン自身もやりたくてやったわけではなく、必要に応じて行なったまでなので、責めるような表情をされるのは不本意ではある。だが、そういう行動をとったのは自分自身であるので、その批判を甘んじて受け入れなければいけない。


 アリアが、この後どうするんだ馬鹿、というような視線を向けてきているのがジンにはありありと感じられた。だが、流石にジンも後先考えずに突っ走る間抜けではない。しっかりと今後の対策くらいは立ててから行動に移している。それは、情報を取り扱うスペシャリストである彼の、プライドでもあった。


 ジンは、アリアの手を握って階段を駆け上がり始めた。一階にいるのは所詮は有象無象(ノーネーム)級の者ばかりである。であるならば、子供達(チルドレン)に十分任せられる、というのがジンの計算であった。

 数瞬、この階の暗殺者たちを観察する。そして、その考えが的中したことを確信し、上階まで騒ぎが到達しないうちにと、ジンは階段を急いで登り始めたのだ。


 ジンが階段に足をかけたのと同時に、もうすでに子供達(チルドレン)による殲滅は始まっていた。自らが鍛え上げた彼らの実力を信頼しているからこそ、ジンは、迷いなく次の行動へと移ることができたのでる。


 登る、ただ登る。と言っても三階分の短い距離である。しかし、階段というのは思いの外体力を消費させる。ジンは十分に鍛えている強者の一角だったが、それでも作戦立案、情報収集をメインにして活動していたこの数週間で、どうしても筋肉の質は落ちている。

 ジンは、微妙に負荷を感じながらも、二階でアリアを放り出し、三階まで一気に駆け上がった。


「最優先事項は最高責任者の捕縛。第二に証拠の保持。それ以外は後回しです。好きに暴れなさい」


 もちろん、アリアへ指示を飛ばすことは忘れはしなかったが。


 アリアへと送った指示は、そのまま自分自身の任務そのもであった。ジンは、流石に二階分上がるだけでは乱れなかった呼吸を、さらに落ち着くように、深い深呼吸で沈めた。


 もちろん、三階にも階段番は存在している。だが、比較的強者の部類に入るジンのこと、流石に敗北を喫する事はなかった。何なら、一発で相手の意識を刈り取ったくらいである。

 三階は、一回ほど人が多くはなかった。もっというならば、見える範囲に人は一人も存在していなかった。よくよく考えてみれば当たり前であるが、格が上がっていくほど、その位階に存在する人数は少なくなっているはずである。

 逆に言えば、であるからこそ、ここがジンの目的地だということが証明されたと、そういう見方も一応できるわけで。


 だが、ジンの気分的にはあまり嬉しいものではない。ジンとしては、大人数を相手にさくっと片付けてしまった方がよっぽど楽なのだ。その方が手間も少ないし、何より早く終わる。

 それは完全に強者側であるからこそ生まれす発想なのだが、そんなことにジンは全く気づきもしない。ただ、面倒になったな、そう思っているだけである。


 ジンは、ここである行動をとることを選択した。その行動は、先ほどと同じようにジンの思想とは反する行いである。だが、先ほど一度そのポリシーを破った身からしてみては、一回も二回も同じである。

 やけくそ、というふうに言い換えることもできる。とにかくジンは、今この瞬間に関しては、ポリシーのようなものは些事と割り切っていた。


制限付き(リミット)『氷結』」


 ジンは、床に手をつき、魔法の発動の準備を始めた。実を言うと、ジンは素手で戦うのが得意なわけではない。いや、徒手空拳も一般レベルよりは遥かに高いことは間違い無いのだが、それがジンの本職、と言うわけでは無いのだ。

 素手で戦うよりは、槍などのリーチが長い獲物を使用するのを好むし、もっと言えば、そもそもジンの得意分野は魔法である。隠密、情報屋。そんな職業も相まって、絶対安全圏から力を行使するのがジンの普通の戦闘スタイルなのだ。


 だからこそ、手の内はギリギリまで隠しておくものだと思っているし、そもそも魔法で敵を呼びつけるなど戦闘スタイルから乖離した行為、論外も論外である。


 だが、今回ばかりは時間制限(リミット)付きである。早急に情報を手に入れる必要がある以上、手段を選んでいる場合などではない。今回の作戦に重要性を感じているからこそ、ジンも一旦ポリシーを無視して、この戦闘がうまくいくように配慮しているわけである。


 だんだんと氷が広がっていく様子が、ジンの目にはありありと写っていた。同心円状に広がっているように見受けられた氷の跡だが、よく見ると少し違うことがわかる。制限付き(リミット)。ジンの固有魔法(オリジナル)の一つであるそれを利用して、ジンは魔法を仕掛けていたのである。


 この固有魔法は、ざっくりと言えば、魔法を受ける相手の魔力抵抗値によって効果が全く変わってくる。自分より格段にレベルが上の相手に対しては、効き目が全く無いということだ。


 だが、それは必ずしも人の狙いがずれていたということではない。今回の行動の思惑はあくまで時間短縮。強い相手を炙り出し、弱いものを凍り付かせるための選別の氷。

 ジンと戦う資格のあるものは、この氷に耐え抜いた者のみ。ジンの戦いは、今この瞬間、始まったのだ。

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