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悪役覇道  作者: wisteria
第二章 『裏町覇道』
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氷男

 本日は三人称視点です。ジン側の描写方法を悩んだ結果、一人称ではなく三人称で書くことにしました。

 今後は主人公以外は三人称視点で描くことになるかもしれません。確証はありませんが、一応報告だけしておこうと思います。

 一面の氷。誰かが下ろした心の帷のように、それがこの場全てを覆い隠さんと猛威を振るっていた。目に映るのは、半透明の白い個体と、それに絡め取られた無惨な物体の成れの果て。その風景は、孤独を表すが如く、冷たくただそこに存在していた。

 その中にただ一人、男性が佇んでいる。柔和な笑みを浮かべているが、それとは裏腹に目は全くと言っていいほど笑っていない。凍てつきそうなほど毒々しいその青い髪は、彼がこの惨状を引き起こしたのだと万人に語りかけていた。


「あぁ、冷たい」


 彼の口から寂しさを存分に含んだ言葉が放たれる。だが、その言葉を聞き取った者は存在しなかった。なぜなら、それをすべき人がこの空間には存在していないから。皆一様に凍りついてしまい、地に固定されているからである。


 なぜこのような惨状が起こったのか。それを理解するには、数刻前に遡らねばならない。



 暮れが本格化し、いよいよ宵に突入しようかという頃、ジンはアリアと共に「協会」への潜入及び征服作戦を決行するべく、「協会」内部へと潜入していた。「協会」は何一つ組織に関する情報が開示されていないことで有名だということはジンも知っていたが、実際ジンは今、「協会」内部へと潜入を果たしていた。

 「協会」の内部情報は、マキナ・ヴァルキリアからもたらされたものであった。数日前、ジンが一人で情報屋で事務仕事をこなしている際に、マキナがやってきてその情報を伝えて去って行ったのだ。

 ジンは、どうやってこのような情報を手に入れたのでしょうか、と訝しげに思ったのだが、マキナを疑っても何の得にもならない、そう思い直して彼の情報と指示に従っていた。


 だが、ジンは内心ではマキナのもたらした情報に懐疑的であった。仮にも暗殺者の集団である「協会」の情報は容易に手に入れられる物ではないと身に沁みて理解していたからだった。ジンは過去に一度だけ、「協会」内部に探りを入れていたことがあった。

 その際は空振りに終わっていたため、彼のプライドが、本職でもない者に情報収集で負けてなるものか、と訴えていたという理由もあるかもしれない。だが、その情報は正しかった。マキナのもたらした情報に従って進んでいくだけで、容易に「協会」への潜入が叶ったのだ。


 「協会」の本部は中心街の裏路地の中、四つの建物に囲まれるように存在していた。これでは、最初からそこに建物があるとわかっていなければ見つけるのは至難の業であろう。だが、マキナはそれをやったのだ。

 悔しい。滅多に感じることのない感情がジンの中に生まれていた。だが、感情に振り回されて任務を遂行できないなど愚の骨頂である。気を引き締め、隣にいる獣人の幼女と共にいつ先頭の合図が出てもいいように気を引き締める。

 ジンに油断している暇などなかった。「協会」攻略に回せた戦力は自分自身とアリア、そしてわずかな子供達(チルドレン)だけであったのだから。その分ジンの役割は甚大である。アリアも戦えないことはないが、やはりジンの負担がこの中で最も大きくなりそうなことは明らかであった。


 戦闘開始の合図は魔道具で行われる。以前の「クロニック」攻略戦でも使用された例の魔道具である。ジンは、一度不具合を起こした魔道具などもう使いたくないという思いでいっぱいであった。それだけ「クロニック」攻略戦で航と連絡が取れなくなったことが彼に焦りを与えていたのだった。

 だが、例の魔道具は「ヴァルキリア」が開発したものであるという説明を受けたので、渋々と使っているわけであった。開発者が魔道具の構造を最もよく知っている。ならば妨害なり何なりができるのも分かりきったことで、そのせいで一時音信不通状態が引き起こされたのだと理解したからこその容認であった。

 かといって精神的にはあまり使いたいものではない。だからこその「渋々と」なのである。


 ジンは取り止めのない思考に終止符を打ち、合図を待った。


「『悪役覇気』、全開。「トレース」 秘奥 「顎咬(アギト)」『付加加算(エンチャント)』「鬼火」」


 その合図が聞こえてきたのは、ジンが潜入に成功してから十数分後のことだった。航が切った開幕の火蓋。それは、対「協会」戦の幕開けの合図でもあったのだった。


「私は三階を、アリアさんは二階をお願いします」


 ジンは、アリアに指示を出し、階段を見つけるべく、別行動を開始した。とは言っても、階段を見つけるまでは同一の行動をすることになるのであるが。

 ジンは、一階は子供達(チルドレン)に任せるというふうに事前に決めていた。「協会」の本部は三階建ての建物。であるならば、三階に最重要機密があると考えるのが妥当である。だったら自分が行くしかないではないですか、そう彼は心の中で呟いた。


 「協会」の構成員は、実は互いの名前や姿形を記憶していない。詮索は禁止、それが「協会」の取り決めなのである。だから、一度中に入ってしまえば潜伏は実に容易であった。だが、さすがに階段の場所を聞くことはできない。それは怪しまれてしまうだろう。そう思ったジンは、自力で見つけることを心に誓うのだった。

 それが、今のジンにとって唯一の、マキナに与えられた雪辱を少しでも晴らせる方法であった。


 だが、ジンは階段で思わぬ危機に陥ることとなる。階段が見つからなかったわけではない。それ自体はスムーズに見つかったのだが、階段を登るにも資格が必要であったのだ。


 具体的に言えば、二階を使えるのは台頭(ハイヤー)に所属する者、三階を使えるのは家族(ファミリー)に所属する者であったのだ。「協会」の複数の組織が集まって一つの組織を作り上げるシステムが、今この瞬間においては、ジンの敵をしていた。


「ライセンスを」


 階段には交代制で人がついているようで、ライセンスを提示しないと上の階へは進むことができない。ジンにとってはかなり都合の悪い状況である。

 だがここで引くという選択肢はジンの中には存在していなかった。ジンは、一瞬不本意そうに顔を歪めたが、すぐに意思を決め、考えを行動に移した。それはジンのポリシーに反する行為ではあったが、しょうがないと割り切るしかない状況だったため、仕方なくではあったが、それを行なったのだった。


 ジンは、なかなかライセンスを出さないことを不審に思い始めた様子の階段番を素手で思い切り殴り倒し、こう宣言した。


「私達はヴァルキリアの刺客。倒されたい者から前に出なさい。全員、土に顔を埋めて差し上げましょう」

氷?何がどうなってんだ?という感じですよね。私も想定外なのですが、一話に入りきらなかったもので。

次話で続きを書きたいと思います。

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