固有魔法
先日は無断でお休みをいただいてしまい、誠に申し訳ありませんでした。詫びといえばおこがましいかもしれませんが、ゴールデンウィークは一日二話投稿の日を作る予定を立てております。
読んでいただけると幸いです。
「「トレース」秘奥「鎌鼬」」
敵は、途絶えることのなく俺の前に立ちはだかり続けていた。一人一人の強さはそこまででもないが、いかんせん数が多い。もう既に五十人は相手しているのではなかろうか。三十人くらいから数えるのをやめたのでなんとも言えないのだが。
今も、目の前には俺の隙を窺っている者達が十人ほどいる。また、この近くにまだ十数名の気配が残っている。彼らも俺を狙っているのだろう。どうせ「トレース」で好きが生まれないように体を動かしているのだから彼らの行動は無駄なのだが、そんなことは言ったってどうしようもない。
正直なことを言うと、この状況を終わらせることはすぐにでもできるのだ。特に強者だと感じた敵はいなかった。「トレース」で秘奥を使えば、きっとすぐにでも俺はこの戦いから解放される。
では、それをしないのはなぜなのか。マキナから話された「餌」の件があるからである。とにかく囮になれ、とそう言う指令だったので、勝手に片付けてしまうわけにもいかない。非常に厄介で迷惑なことである。
さらに言えば、相手にもしかしたら生きて捕えれるかもしれない、と思わせるレベルを見極めながら戦わないといけない。こいつは舐めてかかったらダメだと思われて、殺す気で特攻される方が何十倍も困った状況になるのである。
そんなこんなで、絶妙な力加減を試される期間が長く続き、現在、戦場は完全に膠着状態になっていた。実は、今回の作戦の趣旨から考えると、これも困ったことなのである。
マキナが「定例会議」でマーディッシュ商会と「協会」の告発を行う。それまでに鎮圧を済ませておく必要があるのである。あれでも駄目、この状況になっても駄目。やたらと今回の作戦は条件が多いのである。
その割には指示は大雑把なものしか出ないし、なんだか、もうちぐはぐな印象でいっぱいである。一度マキナにそのことを訴えたのだが、その時には「君たちを信頼しているんだよ」なんて言葉で誤魔化されてしまった。俺に言わせてみれば、信頼というよりは放任に近いと思う。
「航君、この作戦の要は君だ。敵も、なるべく君が欲しい。ちょっとくらい暴れすぎちゃったくらいじゃあ彼らは引かないよ。だから、存分にね」
一瞬、ファイズの言葉が脳をよぎった。このままでは何も変わらない、そう思い、俺は自分という餌をさらに魅力的に見せるため、戦いに積極的に乗り出した。
マーディッシュの取引先、つまりアノルフィア皇国。俺の召喚母国が何を企んでいるのか。その一端を聞かされた俺としては、彼らが購入しようとしている奴隷に何を求めているのか、そのぐらいは流石にわかる。
「『邪水』付加加算『穢土』。融合魔術 『毒沼』」
闇属性の力である『悪役覇気』を使える俺だからこそできる技。今まで誰も起こしたことのない複合魔術。さしずめ、固有魔術。
闇がかった水属性の「邪水」と、同じく闇がかった土属性の「穢土」。通常の水と土の複合魔術には、「沼地」が存在する。「毒沼」はそれの進化系、ではないが、実質闇属性が混じった三属性攻撃である。徹底した相手への足止めと嫌がらせに向いている魔術だ。
俺が覇気を「毒沼」魔術に変換すると、覇気の一部が俺の足元に集中していく。そして覇気は、俺の足ではなく地面への侵食を始めた。足場の液状化。言ってみれば簡単なことだが、人言は不安定な足場で力一杯踏ん張ることができない。最も力が発揮できる機会を足場のせいで失うことだってないことはないのだ。
液状化した沼地のような地面は、高速で周囲に広がっていく。最初は俺の足場周りだけだった沼地範囲が、一瞬のうちに敵の足元にまで広がったのだ。
さらに、この魔術はただの沼を作り出すわけではない。常に俺の魔力の影響を受け、力が制限される。まさに「毒」の沼だ。
ちなみにこの仕組みは、悪役とかの応用だと思って貰えばいい。生物ならば、自分の魔力以外に多少は反発するものなのだ。その自己防衛機能に割かせるリソースが大きくなるように、絶えず俺の悪役覇気が調整を行っている。
今、俺達は一階を完全に攻略しようと攻めている最中である。なので、当然いるのは一階で、地面は安定したものだ。正直この魔術を安心して発動できたのは地理的要因が多い。二階より上で「毒沼」を発動して自分も巻き添えを喰らい、一個下の会に叩きつ蹴られる、とか正直勘弁である。
もちろん自分の魔術は自分には効果がないが、自分ではなく物に影響を及ぼす場合は別である。普通に物理法則に従ってダメージとかは受けるのだ。魔術も万能ではない、という話である。
「『鬼火』付加加算『暴風』。固有魔法『爆風』」
アノルフィア皇国が求めているのは、おそらく勇者の代わりになる存在。それも、魔力の密度が高い者だ。そう考えると、わざわざ手間をかけて強い孤児を回収しようとしていたのも理解できるのだ。普通は手間と得られる収入が見合わなないそんな行為をする奴は滅多にいないからな。
さらに一歩踏み込んで考察すると、具体的に何とはいえないが、「勇者」を使ったよからぬ企みが進行しているのだろう。
だが、やること、この状況でしなければいけないことだけははっきりしている。俺は、囮としてその役割を果たすため、自らの力を示すため、魔法を撃ち続ける。強さの証明を見せつける。
沼に足を取られていた敵が、一気に風圧で吹き飛ばされる姿を見ながら、俺はただただ敵を迎え撃ち続けた。




