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悪役覇道  作者: wisteria
第二章 『裏町覇道』
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開幕

 音が聞こえなくなるまで馬車を見送ったすぐ後、作戦行動は迅速に開始された。それぞれが役割を持って、てきぱきと動いている。


 この作戦の火蓋を切るのは俺だ。前回と同じように、初っ端に最大の攻撃を叩き込んで相手の気を引くのが仕事である。それに加えて、今回は俺がマーディッシュ制圧の最高責任者なのだ。

 ジンとアリアは「協会」制圧に向けて動いている。そのため、情報屋での位置付け的にどうしても俺が出張る以外なかったのだ。勿論本心を言えば、こんなことやりたくなんかないのである。

 だが、この件に関しては何回も説得されて必要性を認めざるを得なかったし、今更俺がごねたってどうしようもないので取り敢えず納得したということにしている。



 さて、今回の詳しい戦闘プランだが、作戦を行うに当たっての詳しい要件がファイズから手渡された手紙に書いてあった。筆跡が違ったので、恐らくはマキナが書いたものである。


「取り敢えず、そっちにはファイズを向かわせるね。後は何とかなるでしょ?ファイト〜」


 大雑把に言うと、こう言う要件のことが書かれていた。さすがに詳しい作戦内容とかが書いてあると思ったのだが、それも特になし。ファイズに聞けばわかる、とだけしか書いていなかった。

 マキナは、秘密主義とかそんな生ぬるいものなんかじゃないレベルで俺たちに作戦を話そうとしない。なんだかんだ言って、俺もジンも概要しか聞いていないのである。全く困ったものだ。


 つまり、ファイズが来るまで俺たちのマーディッシュ奇襲作戦は結局のところお預けなのである。こればっかりはどうしようもない。

 時間にそんなに余裕がないので、ファイズが来ていない今の状態でも本当は始めた方がいいのだ。けれど、少しでも変な動きをするとマキナの作戦が崩れてしまいそうで迂闊に何かをすることもできない。勝手に特攻などはもってのほかである。


 焦りと不安からか集中が途切れ、ファイズを待つ時間は俺にとっては悠久に近い時間だった。恐らく、今ならば時計の長針の一針が何十秒にも感じられただろう。それほどまでに焦燥感は、俺の中で積もり続けていた。


「やぁ、久しぶり。随分といい顔つきになったね」


 そんな彼の声が背後に聞こえてくる。集中が途切れた中でも高まり続けていた緊張が少し弛緩したのを感じた。実際は数分のことだったのだろう。周りの子供達(チルドレン)は特に焦っている様子など見せていない。

 そういう違いを感じるたびに、いくら能力に恵まれたからといって決して覆せない経験の差を思い知らされ、自らがまだまだ未熟だと痛感させられる。だが、だからと言って今は落ち込んではいられない。


「随分と遅かったですね。時間が絶対的にないんです。余裕をかましてる場合じゃない。早く始めましょう」


 ファイズに少し強めの言葉をぶつける。彼はこんなことで機嫌を損ねたりしない……多分。だからこういう事態では、少し強めにものを言うくらいがちょうどいいのだ……多分。きっと戦闘前の高揚感みたいなものがある今じゃなかったらこんなことできないけど。


「いいねぇ。航君は戦場で豹変するタイプなのかな?危険な匂いがするよ。誰もを虜にし、傷つける劇薬。そんな感じだ。僕はそういうの大好きだよ」


 劇薬という表現は釈然としないものがある。大体、危険度で言えば断然ファイズの方が高いように見える。俺でも分かる濃密な魔力(マナ)を隠す気もなく押し広げ、なのになぜか霧散しない。多分だけどこれではマーディッシュの連中も対面するまで彼の存在に気付かない。こんなにも存在感があるにもかかわらず、だ。


 鈍色と葡萄茶のを纏い、我こそ至高と言わんばかりの風格を漂わせている彼を見て、俺はこれ以上何かを言う気力を失った。きっと彼には、俺が何も言わなくたって「最高の結果」が献上されるだろうから。それが自然の摂理なのだと言うように。


「じゃあ、始めようか。取り敢えず、予定通り航君は餌。それ以外の指示は随時出すよ」


 彼の言葉は結局、今回の作戦の全貌を解き明かすものではなかったけれど、それでも大丈夫、そう思えた。

 ちなみにだが、連絡手段は「クロニック」戦と同一方法だ。実は、この連絡アイテムはマキナが開発したものらしく、「クロニック」戦で途中からから使い物にならなくなったのも彼が裏で手を回していたからなんだとか。

 確かに、開発者ならば妨害電波を作るなりなんなりできるな、そう思った。思えば、連絡手段を採用した時からマキナの術中だったのかもしれない。今となってはもうどうでも良いことだが。


「総員配置に付け。予定変更なし。随時変更の可能性あり。これより、我々の命運をかけた戦闘(殺し合い)を開始する!」


 小声で、だけど風格は出るように、努めて凛とした声を出す。柄じゃないが、こういうのも作戦責任者の仕事の一つだ。割り切るしかあるまい。

 現に「魅了(カリスマ)」の効果と相まって士気はだだ上がりである。こういう必要性の感じられる我慢ならまだやっていられるってものである。


「じゃあ、ドカンと一発。でかいの頼むよ。開幕の花火を打ち上げてくれ」


 それこそが俺がここにいる意味。その頼みに対する答えはたった一つしかない。


「勿論だ」


 俺は路地裏から動き、表通りに立った。子供達(チルドレン)が素早くマーディッシュの表玄関の見張りの意識を刈り取り、裏路地に連れ込む。

 この時間は流石の裏町でも人は少ない。こうなってしまうと、見ているのは仲間だけだ。遠慮は不要、ということである。ならば俺のやるべきことはただ一つ。全身全霊でぶっ放す。ただそれだけ。


「『悪役覇気』、全開。「トレース」 秘奥 「顎咬(アギト)」『付加加算(エンチャント)』「鬼火」」


 自分にできる、最高のことを。

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