覇気
「君には、「祝福」を得ていない属性の魔法を習得してもらおうと思っている」
彼は、先ほどの説明を全部ぶち壊すような内容を口にした。結構いろいろと説明をしていたと思うのだが、その内容を全部ガン無視である。
いくら何でも会話の流れを無視しすぎであろう。思わず硬直してしまったではないか。そういう愚痴が溢れてくる。勿論本人に言ったりなど絶対にしないのだが。
「固まってるね。まぁ無理もない。今の僕の言葉に一貫性を感じるのは難しいだろうしね」
分かってんなら直せよという話である。結局、何を話したいのか、意図が全くと言って良いほど見えてこない。結論を言ってからその説明をする癖は、多分マキナ譲りなのだろう。主従って似るらしいしな。
「えっと…… じゃあ、どういう……」
考えていても仕方ないので、ファイズに疑問をぶつける。まだ対面してから間もないので、結構挙動不審にはなってしまうのだが。やっぱり陰キャの性は簡単に抜けたりしないのだ。非常に悲しい事である。
「あぁ、ごめんごめん。説明不足だよね」
多分かなりおろおろとしていたのだと思う。彼は苦笑いを見せ、説明を始めた。
「僕、君みたいな能力を持っていた人に心当たりがあってね。三百年くらい前かな?魔物の異常増殖が起きた時期があってさ。それを沈めた奴が持ってたスキル。「蛮勇覇気」っていうのなんだけど。
「蛮勇覇気」も気になるが、それ以上に引っかかったのは「三百年前」の部分である。ファイズは、少なくとも見た目は完全に人間だ。エルフとかのただの長命な種族ってことではないはず。やっぱり彼も古代種ということになるのだろうか。
マキナの周りにはもしかすると古代種が多いのかもしれないな。そういう者たちを集めて傭兵組合を作ったのかもしれない。古代種ってそこら辺にホイホイいるもんじゃないものな。
でも、そう考えると、なかなか戦力としては心強いはず。いまいち俺たちが協力する意味が掴めなくなってしまう。傭兵組合に十分に戦力があるからといって手を抜くような事はしないし別に良いんだけど。
「多分だけど、航君にも「覇気」の能力があるんじゃないかと思うんだよね。あくまでも僕の推察に過ぎないけど」
「なんか、航君に対する周りの反応とかが妙に不自然っていうかさ。好かれやすく、嫌われやすくもある、とかそういうレベルじゃなかったから。あと、「蛮勇覇気」にも、「好感」っていう能力があってね。ちょっと能力が似てたもんでさ」
俺と似た能力の保持者、か。それはぜひ会ってみたいものだな。彼はさっきから過去形で話してるから、多分ただの人間で、今はもういないんだろうけど。
やっぱりレアなスキルなのか、どうしても俺のスキルと似た能力を持っている者って存在してないんだよな。
「そう、ですね。俺の能力は、「悪役」。もっと詳しく言えば「悪役覇気」。その方と、結構近い力だと思います」
正直、かなり興味がある。この力は全くと言って良いほど詳細が分かっていないのだ。きっと今が、俺の能力を知るまたとないチャンスだ。
「でも、それと魔法と何の関係が?」
俺は、思い切ってさらに質問を重ねた。陰の者として、かなり勇気のいる行為ではあったが、それに怖気付く以上に、自分のことを知らないまま生活するのが怖い。
「ちょっと複雑な話になるんだけどさ」
そうやって前置きを置いて、彼は話を始めた。
「覇気系スキル、仮にそう呼称するけど、とにかく「蛮勇覇気」と「悪役覇気」の共通点を考えてみると何となくわかるんだけど。両方、人の自分に対する印象を変える力があるのね」
「結構専門的な話になるから、そんな詳しくは言わないけど、この現象には魔力の存在が関わっているんだ」
まあそれは、何となくわかる。というか、この世界で不思議なことが起こったら、大体は魔法的要素のせいである。今回も例外なくそうだったってだけの話だ。別に驚くことじゃない。逆にそれ以外の原因ってことが考えられないくらいだ。
「相手との波長を合わせるって言ったら良いのかな。人は、それぞれ魔力の波長っていうのを持っていてね。それがとことん合わない人には嫌悪感を抱くし、合ってる人に対する好感度は高い。まあ実際はそんな単純じゃないけど」
魔力の波長。元の世界で言う遺伝子的な奴だろうか。近いほど好感を抱くっていう点は違うけど、イメージのしかたとしては間違っていないはずだ。
「覇気系スキルは、それを利用して相手に印象を植え付けてるわけだ。航君の場合は、スキルが二パターンの情報処理を行なっている分「蛮勇覇気」より優秀なスキルなのかもね。あれはただ相手に好印象を持たれるだけのものだったから」
ただし、俺の「魅了」の条件はよく分からない、と。まぁ、しょうがないとは思うがどうしても自分の能力の詳細が明らかにならないってのは気持ち悪さを感じるな。
今回もだが、自分のスキルが何なのか分かりそうっていう状況を何回か経験して、結局は肩透かしを喰らって終わっている。今後もあまり期待しない方が良さそうだな。
「つまり何が言いたいかっていうとね。魔力操作が優秀な「覇気」系のスキルを使えば、「祝福」を得ていない属性魔法でも使えるんじゃないかと思うんだよ」
「あくまでも、似た力になってしまうと思うけど、それでもきっと有用性は高いよ。この力を使いこなせるようになったら化けるよ、航君は」
彼の言葉はやけに重く、そして期待を持たせるもので、不覚にも気分が高揚している自分がいた。




