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悪役覇道  作者: wisteria
第二章 『裏町覇道』
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講師

 あれから二日後のこと、俺はマキナの指示により、指定された場所へと足を運んでいた。ちなみにその間だが、特に何もない状態で日々を過ごしていた。こんなにのんびりしていいのか?と思ってしまい、訓練に走ってしまったほどである。

 といっても、あんまり激しい特訓みたいなことはしてないんだよな。対クロニック戦の時はギリギリだったから集中力が持ったけど、人間は緊張感を持ったまま過ごし続ける事はできないようで……


 そういうわけで、ちょっと怠けがちになっていたのが現状である。なので、彼の提案は渡りに船ってほどじゃないが俺に都合の良いものであった。

 誰かからインスピレーションを受けることって、かなり大切らしいからな。どうせ時間がかあったって、一人で「トレース」の練習を延々とするだけになるからな。だったらこういう時間の使い方の方が有意義である。多分……


 そんなことを考えているうちに、約束の時間になっていた。俺は今、でっかい噴水みたいなものがある典型的な待ち合わせ場所いるのだが、そこには大きな掛け時計が存在しているのだ。どうやら、この世界にも時計と言う概念はあるらしい。やたら高価らしいが……

 とにかく、だから時間を間違えているってことはないはずだ。そもそも俺への伝達をミスしていない限りは。日時場所の連絡はマキナが直接情報屋(フェリスターク)本部に来て行ったので、間違ってたとしても彼のせいだけどな。


「ごめん、遅れたよ」


 結局、その声が響いたのは待ち合わせから半刻ほど過ぎた頃。まあ時間の単位とか概念みたいなものが元の世界と全然違うので、半刻といってもあまりよくわからないと思う。大体、体感で六十分くらいである。だが、日を待つ時間というのはとにかく長く感じられるものである。

 うんざりしているということを精一杯伝えようと、俺は自分にできる最大限の渋い顔で声が聞こえてきた方向を振り返った。というか今更だが、今から会う人は完全なる初対面である。意識というのは恐ろしいもので、それに気づいた瞬間、大きな緊張が襲ってきた。


 マキナとの初対面は激情の余波のまま済ませてしまったし、ジンは初めて会った時からひたすら丁寧、というか、下手に出てきていた。俺は、普通の初対面というのを、この世界に来てから経験していないのである。


「あぁ、いや、ぜんぜん……」


 考えていた不満の言葉がどんどん萎んでいき、反比例するように緊張が膨らんでいく。かろうじて口から絞り出された言葉は、典型的な会話に慣れていない人間のそれだった。

 友人ととかだったらいくらでも気兼ねなくしゃべれるんだが……俺は残念ながら内弁慶の傾向が非常に強いのだ。コミュニケーションに絶望的に向いていない性格である。


「初めまして、ではないんだけど殆ど初対面みたいなものだね。今回マキナ様から講師の任を仰せつかった

ファイズ・ヴァルキリアという者だよ」


 彼は、対面早々自己紹介に入った。俺も雑談とかで時間を潰せるようなタイプじゃないので、不躾なような彼の行為だが、俺にとっては非常にありがたかった。

 ちなみに、ヴァルキリア姓からも分かるように、彼は傭兵組合のお偉いさんである。具体的には、マキナの秘書的なことをやっていた。彼には秘書が二人いるのだが、多分ファイズが第一秘書なのではないかと思う。

 なんかマキナの性格とかの影響を色濃く受けているから、という至極適当な理由の推論ではあるが、あながち間違ってもいないと思う。存在感のある者と多く接する機会があると、自ずとその人物に強く影響されるものだしな。


「こんにちは、東 航です。よろしくお願いします」


 脳内ではぐるぐると思考を巡らせながらも、自己紹介はしっかりと行う。簡素でもいいから、この先、長年経ってもそういう礼儀を忘れない大人になりたいものだ。ただでさえ俺は思考の沼にはまりやすい性格をしているのだから。


 にしても、話は完全に変わるのだが、俺は今日何を教えてもらうのだろうか?マキナからは特に何も聞かされなかったからな。行けば分かるってことだと思っていたけど、ファイズと対面した今でもよくわからない。

 彼は、ある程度は筋肉がついているが、それこそマキナのように鍛え抜かれているわけでもないし、アリアのように筋肉量がずば抜けているわけでもない。言ってしまえば、普通なのだ。

 そんな彼から学べること。マキナが言うからには、俺に欠けていることを埋めるピースとなるはずなんだが、全くと言っていいほど見当がつかない。


「ここじゃあ何にもできないしね。自己紹介も終えたことだし、行こうか」


 とりあえず、彼の後をついていくことにする。彼は、前回マキナについて行ったのとは反対側、町の外側に向かって歩いているように思われた。塗装が剥がれ、建築様式が簡素になっていく街並み。整備のされていない街道。


 だんだんと粗末になっていく建物と道を見ていると、この世界にはもちろん存在する身分差について少し考えてしまった。そういう、自分が考えても何の選択肢も生まれない問題については考えない方が吉なんだがな。そう言うものに考えを巡らさられるほど自分に余裕もないってのに。


「着いたよ。ここが目的地だ」


 彼が立ち止まったのは、ただの二階建ての建物。ごく普通のものである。少なくとも、見た目はそうであると思われた。


「あの、えっと、ここは……」


 自分の人見知りが辛い。自らを叱咤して勇気を振り絞ってこれである。まあ意味は伝わるだろうからギリギリ及第点だとは思うが。


「ここかい?入ってみれば分かるよ」


 その言葉に従い、彼の後ろにさらに続く。彼は、ドア付近にあったインターホンもどきを押して、何やら唱える。暗号みたいなものであろうが、何回聞いても聞き取れる気がしなかった。ちょっとだけ、テストでよくあった理不尽なリスニングを思い出した。


 ファイズの言葉に呼応し、ドアが開く。まず飛び込んできたのは、クラシックな音楽。その次に上品な葡萄酒なんかの香り。そう、原始的ながら確かなセキュリティの先にあったのは、一眼見た限りは、洒落た雰囲気のバーであった。


「ここは、傭兵組合(クラン)の支部の一つ。魔法職上級組合員専用のね」


 あー、はい。なるほど。ここまできたらいくら何でも察せざるを得ない。傭兵組合って何で酒場が併設されてるんだろうか、とか現実逃避じみた考えに浸ることにする。どうせそれで現実から逃げられるのは一瞬なのだが。


「僕は、君に魔法を教えるために派遣された講師だ。よろしく、航君」

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