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悪役覇道  作者: wisteria
第二章 『裏町覇道』
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「それでさ、航君に頼みたいことがあるんだけど」


 このタイミングでの「頼みたいこと」明らかに怪しい。少し高揚していた気分がまた下がっていくのを感じる。どうせ何かやらされるんだろう。彼の策略の一部なんだろうが、俺にはきっと理解できない。粛々と頼まれ事を進めるだけである。

 今は割り切ったように話しちゃいるが、もちろん不満は存在している。ぜひ、その不満を帳消しにするほどのメリットを示して欲しいものだ。


 背後に控えている秘書さんが淹れた紅茶もどきを飲んで、心を落ち着けて話の続きを聞く。


「まずさ、航君には今回の作戦の全容、話しておこうと思うんだよね」


 「頼みたいこと」の話は一体どこに行ったんだ?と思ったが、一旦気長に待つことにする。マキナは、たまに結論を先に言って後で説明をする英語的な喋り方をすることがあるから、ちゃんと最後まで聞かないといけないのである。

 と言うか、別にそのことで不信感を持つとかじゃないが、言ってることが短期間で結構変わっているな。彼はそういうタイプだとは思っていなかったんだが、見当違いだったか。人のタイプとか、そういうのを見分けるのは、得意な方だと思っていたのだが。


「あぁ、別に僕の方針が変わったわけじゃないよ。ただ、あの場ではああ言うしかなかっただけの話さ。ジン君とアリアちゃん?には聞かせたくなかっただけでさ」


 ますます怪しい。そもそも彼は、俺がジンをかなり信頼してるのを知っているはずだ。別に絶対に必要なことなら彼にだって隠すが、そうでない限りはあまり隠し事とかしたくないんだよな。特に、それによって彼に不利益が生まれる場合は。

 恩義とかそう言うものがもちろんある訳だし。いや、まぁそう言うのを大事にしないと裏町で信用を得るのは難しいって言う自己中心的な理由もあるんだけれど。


「じゃあ、君の行動にも関わることだからしっかり聞いてね」


 「頼みたいこと」の話って訳だ。一応俺に深く関わることである。心して聞くことにする。


「航君は、釣りってやったことあるかな?」


 急になんなんだ?こいつ本当に言っていることがころころ変わるな。いや、変わってないかもしれないけれど、毎回例えが独特すぎてついていけない時がある。そもそも例えを先に話すなって思う。


「まあ、何回かは」


 祖父に連れられて無理矢理だったけどなぁ。全然釣れなくてずっと「暇だ」って連呼してたら雷を落とされた思い出がある。今となってはとっくに過ぎた昔のことだが。


「じゃあ何となくわかると思うけど、君は「餌」だ。とっても美味しそうなね。マーディッシュは今奴隷を集めてる。強い者をね。何でも、アノルフィアへの納品用に集めていた奴隷に一人買い手がついたとかでさ」


 あ、それやったの俺だわ。自分にブーメランがぶっ刺さってきた。やっぱり世界っていうのは巡るものなんだな。何かしらの形で自らのアクションは影響を及ぼしてるんだ。


「そこで、君は彼らに精一杯「暴力」をアピールしてほしい。純然たる力。自然界の法則を。そしたら彼らは必ず君を捉えに来る。マーディッシュは裏町で一際強欲だからね」


 なんか嫌な話だ。彼が言ってる事はものすごくよくわかるのだけれど、自分が撒き餌っていうのはどうにも。まぁやるけどさぁ。


「でも、それだけじゃ策とは言えないじゃない?そこにひとつまみ欲望というスパイスで策を整えるのが僕の役目さ」


「人間ってさ、理由を探す生き物なんだよ。根拠はないけどみんながやっているから。前に成功したから。何でもいいけど、とにかく彼らは自分を許したい」


 それはなんとなくわかる気がする。そういうのに打ち勝つ精神力を持つ人が、高みに登っていける人なんだろうなぁと俺は常々思っている。あくまで俺の感想だが。


「特に、掴みかけた物が逃げていきそうな時、僕らは必死に自分に言い聞かせる。この行動は必要だってね。「この策略が済めば、裏町の支配者は自分だ」そういう思いが、彼らを突き動かす。許されたラインを多少踏み越してしまう。それが重なり、いつの間にかラインはずっと後ろに存在しているのさ」


「あとは四面楚歌。終わりさ」


 なるほど。言いたいことは分かった。俺には机上の空論に聞こえるのだが、それを事実にするのがマキナが勝者である所以だ。あまり心配する必要は無いだろう。


「今回の作戦もそれと同じ。ただでさえ責任者のいない夜の襲撃。実際はそんなことはないのに捕まえられそうな撒き餌。その他、僕が踏み出す「理由」を準備する。気付けば僕達の術中。精神的にも、現実でもね」


 ちょっと抽象的にぼかされている気がするし、ジンとアリアに離さない理由も言っていない。でも、彼の言葉にはどうしようもないくらいの説得力があって、どうしてもついていくべきだと思い知らされた。少なくとも今回は彼の意向に従う、そう改めて決める。


「食いついた魚は、餌を食いちぎるか、釣られるか。君は食われないだろう?」


 もちろんである。それが裏町での俺の強みみたいなもんでもあるからな。それだけは捨てられない。それに、マキナが俺の実力を疑っていないのも何だか嬉しいし。

 

「で、話は変わるんだけど、いや、変わってないのか?まあそこんとこはどうでもいいや。とにかく、僕達は箱庭(ガーデン)二つを相手取らなきゃいけない。今のままだと、ちょっと戦力不足なんだよね」


「ってことでさ、訓練をつけてあげるよ」


 彼は、ごく自然な流れで俺に対する訓練をつける、という話を始めた。会話移行がスムーズすぎて一瞬違和感がなかったが、よく考えてみればおかしい話である。多分だが、彼は最初から「勇者」の話で俺を連れ出して、この話に持っていくつもりだったのではないだろうか。

 そう考えたほうがなんとなく納得ができる。彼は、最初に今回の戦いに勝つメリットを述べて、その後に必要な訓練の話をしていた。今思いついたことではなく、元から話を組み立てていたと考えるほうが自然なのだ。


 訓練が必要だと思われてるなら、食われない云々のくだりは何だったんだと言う話だが、まあそこんとこはあんまり気にしないないことにする。上げて下げる感じがあまり気に食わないが。


 俺の考え方をある程度把握して、この話を振ってきているのも意地が悪い。完全に手のひらの上、そんな気がする。そこで暴れ回ったとしても、所詮自らの力を過信する孫悟空だ。ここは従っておくのが吉だろうな。


「分かった。で、いつするんだ」


 せめてもの抗議として、不満が目一杯に伝わるような声と表情を作る。それぐらいしかできない自分が情けないが、そこは割り切るしかないだろう。


「あー、僕は忙しくて予定が空けられないんだよね……日程はおいおい伝えるよ。僕の子飼いのものに言っておくからさ、せいぜい盗んでおいでよ」


 できるものならね。そうつぶやいて彼は踵を返し、執務へと戻っていった。その背中は、やけに大きく見えた。

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