勇者
ちょっと中途半端になりました。すいません。
「航君、ちょっといいかな」
結局、作戦会議は彼が詳細を明かさなかったことでなあなあになって終わった。本当に迷惑な話である。行動するのはこっちなのだ。もやもやしていたら実力が完全に発揮できないかもというのに。
「今回は、考えること僕に任せて君達は暴れなよ。たまには息抜きも必要でしょ?」
と彼は言っていたが、そもそも俺は戦いを息抜きだなんて微塵も考えていない。やっぱり思考回路が少し違うんだな、と思った。にしても、一応味方だというのに作戦を話さないだなんて本当に何を考えているんだろうか?
ジンもそのことに対して怒りを覚えていたようだったが、マキナが話さないと決めた以上どうすることもできない。力づくで無理矢理話させる、なんてのは彼が相手じゃ不可能だしな。
彼の策士的な一面をしっかり観察することができたからいいじゃないか、と思うことにするのが一番いいだろう。
その後、俺は会議が解散になるとアリアをジンに託し、もう一度訓練に戻ろうとしていた。そこをマキナに声をかけられたというわけだ。
今はご機嫌なように見える彼であるが、感情を全くと言っていいほど読むことができないので、いい要件であるかどうかの識別さえすることができない。
変な要件であったら嫌だな、と思いながら一応対応する。彼は普段は見た目相応の振る舞いをする癖に、たまに老獪で冷徹な部分が垣間見える。それ故に彼への対応は丁寧にせざるを得ない。
「何ですか。今から訓練に……」
俺の言葉は、笑みを保ったままの彼の台詞に飲み込まれ、溶けて消えていった。
「知りたくない?「勇者」とは何か」
俺は、その言葉に対して、反射的に頷いてしまった。深く考えなかったのは良くなかったが、自分のこの世界における元の立ち位置について、いつかは知らねばならないと思っていたのでちょうどいいとも言えるだろう。
それすらも自らに対する言い訳に過ぎないが、それにすがってでもこの話は聞かないといけない。強烈にそう思った。
そして、場所は移り、俺達はマキナの部屋へと移動していた。傭兵組合「ヴァルキリア」内の一室、最奥間に位置する部屋である。
箱庭の中でも一際大きな影響力を持つ組織だ。裏町の創始者が筆頭をしている組織だからなのかは分からないが、円状に広がっている裏町の芯に位置している。
裏町の中で唯一の五階建ての建物でもあるらしく、大体の場所からは傭兵組合の一部が見えるのだという。確かに情報屋のアジトからも、はっきりと傭兵組合の屋根が見える。
家族である情報屋はまあまあ中心部に位置しているため、それほど時間はかからずに傭兵組合までたどり着くことができた。
だんだんと町が綺麗に、尚且つ威圧的になっていく。相手を気品と格式で殴ろうという意識がびんびんと伝わってくる。俺は少し気後れしながらも、傭兵組合の扉を開けた。
飛び込んできたのは、喧騒と酒の臭い。次いでむせ返るような汗の匂いだ。内装は、ごくごく普通の家という感じで、家具が豪華でもなく、絵や骨董品があるわけではない。何なら壁に汚れがついているところがあるくらいで、正直あまり金を使っているようには見受けられない。扉や外装はやたら豪華だったのだが。
「彼らは傭兵、表で言う「冒険者」だね。まあ、言うほど冒険なんかはしてないけど。裏町は皇都に入り口があるだけで全然別の場所に位置しているから、周囲の害獣なんかを倒すための人達が必要なんだ。表で活動できなくなった者なんかをスカウトして、小遣い稼ぎみたいなもんだけどやってもらっているのさ」
マキナの説明が入る。表で騙されて大きな借金を負った人や、大商人なんかに睨まれた人がいるらしい。慈善事業とかじゃなく、彼のように我を通した結果、誰かを救うことになるって言うのは理想の形なんじゃないか、そう思った。
「どうしてもすぐ汚くなるからね。内装に凝るのは随分昔にやめてしまったよ。裏町の者の依頼を受ける時は、内装にこだわった裏口から応接間に案内しているんだよ」
なるほど、それでここはあまり豪華じゃないわけか。見るところ酒場兼ギルドといった感じなのでその判断は間違っていないだろうな。酔ってる人とかに装飾品を壊されでもしたらショックだろう。
「さ、案内するよ」
受付嬢らしき人に断りを入れてどんどんと中に進んでいくマキナ。皇宮を思い返すほど複雑な道のりで、多分覚えられないだろうと早々に諦め、帰りも送ってもらうことを決意する。セキュリティには完璧だろうし、良い面もあると思うのだが、どうにも初見の人に優しくない。
という流れで、俺はマキナの部屋に辿り着いた。きっと私室なのだろう。そこまで内装がいいわけではない。応接用の部屋が別にあるんだろうな。少なくとも俺は、いかついところで普段から過ごしたくない。
マキナに椅子を勧められ、歩いて多少疲れていたので、ありがたく腰掛ける。紅茶らしき何かを秘書のような服装の男性が運んできたのでいただくことにする。
「僕のところのフィンテルは茶葉にこだわっていてね。美味しいだろう?」
フィンテル?知らん単語を出すな。と思ったが、この流れだと恐らくこの紅茶のような液体だろう。紅茶と何かが違うのか、一致する日本語がなかったから謎の翻訳機能が働かなかったのだろうか。今後もこんな事態は起こりそうなので、心づもりをしておくことにする。
取り敢えず今回ははフィンテルについてはスルーだ。普通に美味しかったので、その旨だけ伝えておくことにする。
「さて、「勇者」について、だったね」
和気藹々とまではいかないが、雰囲気が温まってきたところで、彼が話を切り出した。俺は、彼の言葉の続きを息を飲んで待ち構えた。




