操心
申し訳ありません。ちょっと遅れました。
「僕の策略はもっと高次元だよ。真似できるものなんていない。今の段階ではね」
マキナは、そう言って不敵に微笑んだ。プライドと、絶対的な自信。そういうものが感じられる笑みだ。彼に自信に裏付けされた確かな実力があることをはっきりと感じさせる。
「そもそも、その者にとっての根本の望みを見出す。それが大変なんだ」
根本の望み。人間の行動原理。結局、俺達の行動の全てはそれに左右される。自らの根源に逆らえる生物など存在してはいないのだ。
だから、それを突くといとも簡単に操れる。誰にも自覚されることなく、いつの間にかひっそりと自分の言いなりにできる。本人でさえ操られていることに気づかない。恐ろしいことだ。
「何百年と培った技術がない限りほぼ不可能。だから僕はこの分野の一強になれた」
マキナは古代種だ。彼が技術を身につけるための時間はたっぷりとあった。幾千幾万とまではいかないだろうが大量の時間を費やすことができたであろう。きっとその上でしかたどり着けない境地というものは存在する。
「で、結局どんな作戦なんですか」
前置きが長いです。そう彼は言った。確かに俺もそう思う。だが、ジンはマキナに対して厳しすぎではないだろうか。やたらと嫌っている気がする。
まぁ俺がどうこう言う事でもないが。ちなみに、アリアはマキナが訪ねてきてからずっと無言である。怖がっているのか、観察しているのか。わからないが、無理に会話をさせることもないので放置している。
「手厳しいねぇ、もっとフラットに生きようよ。せっかちは人生損するよ?」
彼は、フラットで尚且つ馬鹿にするような口調でジンに反論する。だが、そんな言い方をしたら……
「そうですか。人生について、それは是非教えてほしいものですね。まあ、その前に夜道に気をつけたほうがいいでしょうが」
ほら、案の定ジンの堪忍袋の尾が切れた。なぜか彼はマキナ相手だと異常なほど冷静さを欠くからな。この二人は相性が嫌っていうほど悪いんだろうな……そういうのって迷信だと思っていたけれど、本当にあるんだな。
「と、こんな感じで相手の嫌がるとこを突くわけだ」
マキナは、先程とは打って変わって真面目な声を上げた。さらに、じっとこちらを真剣な目で見つめている。
そのギャップに、ジンは困惑しているように見えた。無理もない。さすがに今までとキャラが違いすぎる。もはや多重人格レベルだ。
さらに、マキナはジンを挑発したのも意図的に行ったと言っている。あのジンを怒らせたのだ。何かあったら怒るのではなく切り捨てて見切りをつける彼が。
ある程度の操心技術を持っていないと、さすがにそんなことはできないだろう。相手に気付かれずに、一時的に心を掌握するなど。
いや、ということは俺も、騙されて操られている可能性が?それとも、そう考えさせること自体が罠?………
「どうしたんだい?急に黙りこくってしまって」
堂々巡りする脳の中でマキナの声だけがやけに大きく響く。その声はいつもの飄々としたもので、悔しいが何だか無性に安心した。
それと同時に恐怖も覚える。少しの会話だけで自己同一性が崩れそうになると言うか、自分が自分であることを大きく揺るがせられた。
自分の世界が崩れていくような感覚。疑心暗鬼の大安売りにでも遭遇しているかのように、だんだんと何もかもが信じられなくなっていく。自分自身が少しずつ蝕まれていくような感覚。
これは、彼が裏町の頂点の一角であり続けられた理由の一つなのだろうか。
「ああ、ごめん。続きを」
俺は、思考の沼に両足を突っ込んだ考えを何とか押し留め、そう彼に促すので精一杯だった。
「うん、中核の作戦だね。それは……教えない」
不覚にも、彼のいたずらっ子のような態度に無性に腹が立ってしまった。感情を動かす事は、彼の手中の中に収まることと、同じ意味である。何とか、自分の中にある衝動を収めることに注力する。
殺気だった、と言うと大袈裟だが、確実に風当たりが悪くなった雰囲気を察して、彼は一応フォローに入る。まぁ、自分の発言に対するフォローなので、勝手にやってくださいという感じではあるのだが。
「と言ってももちろん決まってないわけじゃないよ。その方が効果が高いんだ。何をするかはしっかりと指示するから」
「僕の操心で、心置きなく踊ってくれ」
心底楽しそうに言う彼を見て、俺は思わず少し大きめなため息をついた。
まあ、もう俺はそれでいいことにする。納得できない人はマキナとこれからも頑張って過ごせばいい。ただ、しっかり向き合うのはオススメはしない。
彼は朝顔だ。ほんの少しずつであろうと自分の体を確実に蝕む毒が欲しい奴なんて絶対にいないだろう。俺も同じだ。だからこそ取り扱いには注意せねばならない。
「君達は、今のところとりあえず暴れてくれたらいいよ。「協会」で。目一杯楽しんでくれ。仔犬ちゃんも、ね」
最後に一番嫌な戦闘依頼を押し付け、彼は片目を軽くつぶった。その姿は無邪気な天使か、全てを見通した神か。俺に見分けがつくはずもなかった。




