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悪役覇道  作者: wisteria
第二章 『裏町覇道』
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欲望

「ここから先は、泥試合だ」


 そう前置きを置いて、彼は今回の作戦内容を話し始めた。


「僕はいつも、作戦を相手の欲を刺激することを考えて作っている。君達との違いはそこだ。例え情報面で相手が優っていたとしても、曇った眼ではそれを十分に活用することができない。そうやって僕は敵対勢力を滅していった。だから、傭兵組合(クラン)は大きくなれたんだよ」


 欲望、か。興味深い観点ではあるが、いかんせん人の内面と言うのは、完全に把握することができない。確かにリターンは多いかもしれないが、リスクがそれ以上に大きい。少なくとも今後もジンが行うことのない立案方法だろうな。

 人間は、感情に突き動かされ、それによって衰退し、繁栄する。本人ですら正しく扱えない。だからこそ、他人がその取り扱いをすることはとても難しい。


 それを続けて成功させてきたからこそ今の彼がいる訳だが。少年のような見た目からは想像もできないが、彼は、相手の心理を見抜く眼を持っている。それも、かなり解像度の高いものだ。


「例えば、君たちの時は慢心と焦りを利用したんだ。あまりにも簡単に操作できたから楽しかったよ」


 あまりにも手応えのなかった彼の部下達と相対して生まれた慢心と、その後彼にはめられたと言う焦り。それらの温度差が冷静な判断を鈍らせ、マキナと出会った際の彼の虚言を鵜呑みにしてしまった。

 まあ、この場合は別に俺の欲望を刺激されたわけではないが、彼の情報の取り扱い方の特殊性を知覚するいい機会になったと思う。


「僕にあるのは、情報力(万全な準備)でも最強の手札(複数のキング)でもない。この場の誰よりも長く生きた老獪さと狡猾さ。それだけだよ」


 それはそうなんだろうが、彼が老獪さと言うと違和感があるな。見た目が完全に少年なのだ。無理もないことだろうが。

 あと、最強の手札はお前だろうと思ったが、言わないことにしておく。というか、マキナよりも強い人がいるとかあまり考えたくないのであえて聞かない。真相は闇の中、それが一番幸せだろう。単に知るのを先延ばしにしているとも言うが。


「とにかく、マーディッシュを嵌めるだけの証拠は集め終わった。最初からお膳立てしていたら、情報収集なんて関係ないからね」


 まあそれはそうだ。マーディッシュは完全にマキナの手中である。ウルトラCでも起きない限りこれから巻き返すことは不可能。そのはずだ。

 でも、問題なのは……


「問題は「協会」だ。暗殺者(アサシン)の集団だけあって、流石に情報統制も完璧に近い。少なくとも僕には彼らレベルの集団に対する情報収集の術がない」


 でも、何とかしたからここにいるんだろう。マキナみたいなタイプは、完璧なものしか人に見せたがらない性格をしているしな。完全に俺の偏見だけれど、あながち間違ってもいないはずだ。


「まぁでも、それについては問題ない。マーディッシュはそこら辺あまり厳しくないからね、適当に「クロニック」に探らせるよ」


 「教会」、厄介そうな組織だったが組む相手を間違えたか?マーディッシュと共に策略を進めているだけで、自動的にピンチに陥っている。もう少し同盟相手は見極めるべきだな。

 俺もこれからの教訓にしよう。多分これから二度と使わないであろう知識を、しっかりと脳に刻んでおくことにする。


「前置きはもういいので、本題をお願いします」


 そんな会話が続く中、ジンの声が響いた。言い方は無駄にきついが、言っていることはもっともである。それに、よく考えたら勝手に他人の家に入ってきて会話を繰り広げるやつだなんて不審者以外の何者でもないしな。


「せっかちだね、そういうの嫌いじゃないよ。作戦決行は三週間後の「定例会議」。箱庭(ガーデン)が集い、裏町の運営について協議する会だ」


 まあ、箱庭(ガーデン)と言う枠組みの設立理由の一つがそれだからな。もちろんそれについて話し合う場だってあるだろう。

 他の組織にマーディッシュと「協会」の裏切りを告げ、自分達の正当性をアピールしないことには俺たちが「悪」になってしまう。力が全てのこの場所だから、また追放なんてことは多分ないが、周りに与える印象は悪くなるだろう。そうなるとこれから何かとやりにくいはずだ。


「ここで、双方に襲撃を仕掛ける。定例会議の「議案発令」のタイミングまでに制圧を行い、証拠を通信で提出してほしい。それ用の道具は準備するから」


 まあ、主力がいないタイミングに仕掛けるのが一番いいだろう。といっても、マーディッシュなんて戦力はないに等しいようなもんだけどな。金で傭兵を雇われたら困るが。


「ああ、その心配はないよ。この町の傭兵業者は全部僕の支配下にあるから」


 マキナは、俺の疑問にさらりと答えを返す。あまりにも普通に言うので一瞬反応が遅れたが、裏町の傭兵業者なんて大量に存在している。それこそ馬鹿みたいな掌握力が必要なはずだ。いや、だったらマキナにとっては問題ないか。

 だが、根回しのスケールに比べて作戦は堅実であるものの薄い。何と言うか、あまりにもすぎる妥当というか、ごく普通というか。それくらいなら簡単に行動を読まれてしまうかも……


「と、ここまでが他者に公開できる作戦の流れ(シナリオ)。ここからは、傭兵組合(クラン)でもごく一部しか知らない、極秘の作戦オプション。彼らを完膚なきまでに叩き潰すための案だ」


 戦いは、ここからが本番である。そう思わされるマキナの笑みに、俺の視線はなぜだか釘付けになってしまっていた。

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