決着
本日から再び十二時投稿です。
「終わりだよ、これで」
手刀とは思えない冷たさを孕んだ手が眼前に突きつけられる。負けたな、と本能で察した。いや、察せざるを得なかった。彼の突き放すような強さを見た後では。結局のところ、マキナは俺に勝たせるつもりなど毛頭もなかったのだ。
悔しさに思わず口内を噛む。この闘いで負けたことは、情報屋の失墜と滅亡を表していた。自らの実力不足で自らの首を絞める。因果応報と言うべきだろうか。
特に因果というべき事はしていないつもりなのだが。いや、だからだろうか。何もしなかったから、失うことになるのだ。
正直に言おう。俺は今、絶望している。自らの矮小さに。力の小ささに。
マキナは、そういう俺を見て、ふっと表情を崩した。それだけで、今まで浮かべていた血の味がするような冷たい笑みではなく、無垢な少年に見える。
「安心して、合格だ」
彼の口から紡ぎ出される言葉の意味が分からず、困惑した。敗北した者に対する情け、だろうか。だとしたら、なお質が悪い。
「君は示したよ、箱庭なんて目じゃないってくらい大きな資質をね」
ん……?負けたら奴隷になるみたいな話じゃなかったっけ?俺は、自分の脳内の記憶を必死に掘り返す。
「嫌だなあ、誰もそんなこと言ってないじゃないか。僕が言ったのは、箱庭よりも価値があるってことを示してみろっていうことだけ」
思い返してみると確かにそうである。だが、勘違いさせるように言った節も否定できないのではなかろうか。目の前の少年は、見た目によらず、結構性格が悪いように感じられる。
「で、君は僕のお眼鏡にかなったってわけだ。実際強いよ?君。奥義使ったの、久しぶりだし」
じゃあ、俺の絶望は取り越し苦労だったと。ちょっと、いや、かなり恥ずかしい。
だけど、結果としては喜ばしいことである。一定の強さを認められたというのは、やはり嬉しくもある。もう戦いなんてごめんだがな。
「情報屋と、君。いずれは上り詰めるかもね、裏町の次頂に」
一番は僕だけど。彼はそうおどけるように言って、肩をすくめる動きを見せた。
特にそういう野望は持っていないので、正直そういう評価をされたとしても、とても微妙ではあるのだけれど。
そんな感じでマキナと会話を重ねていると、遠くから足音のようなものが聞こえてきた。
「航様、大丈夫ですか」
開け放たれた広間の入り口から人の声が聞こえる。振り返ってその声の主人を認めると、俺は自然と表情を崩していた。あのジンが、足音を消すのをやめるくらい急いで来てくれたという事実。それに、何より仲間といることの安心感。そういうものを感じたのだ。
だからこそ、滝と海と過ごした時間がなくなってしまったのが、今更ながら心に重くのしかかり、惜しく感じてしまう。
「航様、この方は?」
ジンの声で意識を現実世界に戻し、まず自己紹介から始めることにする。俺、ジン、マキナの順で自己紹介を終えた。
その後、お互いに交渉?みたいなことをする時間が続く。俺?めんどくさいのでパスである。戦うので疲れたしな。
二人の話を聞き流していると、聞き捨てならない話が耳に飛び込んできた。
「最初から、君たちの情報戦略は全て成功していたよ。全部、君の怒りを引き出すための嘘さ」
は?言っていることが本当によく分からない。言葉通りに受け取って良いのならば、彼の言葉は最初から全てが虚勢だったということだろう。
でも、そんな訳がないと思う。そんな素振り、一切していなかったと思うのだが。これでも、スキルの影響なのか、異世界に来てから観察眼は、得意分野と呼べるまでのものになったつもりだ。
でも、確かに適当を言ったとしても、確かめようがない状況ではあった。あの大広間に俺を閉じ込めてしまいさえすれば、それは容易である。
「ブラフのブラフってとこだね」
そう言って緩く微笑む彼が、人外に感じられて、思わず身震いをする。冷静になればなるほど、戦闘中の自分の行動が「よく殺されなかったものだ」という感じで恐ろしくなってしまう。
「それで、返してもらえるんですね。子供達は」
マキナは、ジンの問いに対して邪気のない無垢な笑みを浮かべる。何だろうか、本当に嫌な予感がする。
「もちろんだよ?だけど、その前に一個だけ僕のお願いを聞いてほしいな」
思った通りである。俺はよく知っている。人がああいう笑みを浮かべる時は、大体誰かを謀ろうとしている時なのだ。
俺たちは渋々であるが了承の意を示す。ここまでやってやっぱ諦めますというのは流石に嫌だしな。
「じゃあ、改めまして自己紹介。僕の名前は マキナ・ヴァルキリア。
裏町の創始者にして、傭兵組合、ヴァルキリアの筆頭をやらせてもらっている者だよ」




