解答
「待ちくたびれたよ、航君」
誰だ?俺のことを知っているのか?いや、それよりも………
脳内に溢れてくる雑多な疑問の奔流に飲み込まれそうになりながら、なんとか俺は言葉を紡ぎ出した。
「お前は、一体……」
自らの口から流れ出している言葉が、存外に敵意が豊富に含まれているものだったことに驚きを覚えた。そもそも、俺は本来なら初対面の相手に「お前」などと言ったりはしない。というかそんな度胸がない。自らの敵意の密度が少しずつ濃くなっているのを感じる。
すぐにジンに連絡を行おうと試みるが、通信機器は無情にも反応しない。あまりにも味方のいない状況に、この場の全てのものが自分の敵であるとすら感じられた。
「僕は、マキナ。マキナ・ヴァルギリア。「クロニック」の棟梁的なことをやっている。以後よろしく。元勇者、東 航君」
勇者。その台詞は俺の心を、思いのほか強固な鎖として縛り上げた。仲間への未練、などではない。俺は、自らの全てを見透かされているかのような、自らを侵しにかかっているような、その言葉に旋律が走ったのだ。
絡みつくように侵食してくる彼の言葉の気配を振り解くように口を開き、彼に疑問ぶつけにかかった。何せ不明なことがあまりにも多すぎる。
「俺を待っていたのか?それに「勇者」のことは誰から聞いた?」
彼は心底愉快だ、とばかりに笑みを見せ、俺に向かって言葉を吐き捨てた。
「やっぱり「勇者」だったんだね。ありがとう、話してくれて」
彼の、挑発と侮蔑が混じった言葉が俺の胸に刺さる。場の雰囲気に飲まれ、あからさまなブラフに引っ掛かってしまったことへの後悔、それが後から襲ってくる。
一応「情報屋」に間借りしている身だというのに、何とも情けないことだ。彼は、「こいつちょろっ!」みたいな表情をしている。ああ耳が痛い。というか空想でメンタルがやられるのが何とも虚しい。
「俺のことを待っていたのか?だったけ?もちろんそうだよ。一度君と話してみたかったんだ」
こちらの情報が漏れていたのか、それとも……とにかく俺たちは、彼に完全に裏をかかれた。どうやったのかなど見当もつかないが、情報戦においてジンよりも上手の人物がいたことに驚愕する。
でも、本当にどうやって……?俺の表情を読んだのか、彼はその答えを口にする。この世界は相手の表情を読むのがデフォなのだろうか。恐ろしいことだ。
「簡単な話さ。最初から、全部間違っていたんだ」
確実にこちらの心を折りにきているのだろう。高圧的な声で彼は話し続ける。
「その地図、内部情報、こちらの戦力、全てね。間違った情報を与え続けたのさ。一貫した「作為」を情報に与え続けることで、真偽の判断はほぼ不可能になる」
うん、何を言っているのか全く分からない。その話はジンにして欲しい。俺は、何言ってるんだこいつ、という感想しか抱けないので。情報から作為とか読めるのは一部の人間だけだ。
だが、一応こちらがつかまされていた情報の大半がフェイクだと言うことは分かった。それだけ情報の取り扱いに慣れているということも。
「君達の情報収集要員、子供達…だったっけ?まあとにかく、そいつらの売却の情報を流せば襲撃の日時だって完全に誘導できるからね。やり口を見れば、どこの情報屋かも簡単に特定できるし」
苦労して手に入れた情報を、人は疑わない、か。読み合いで完全に負けたってことだな。
「じゃあ、売却情報は嘘ってことだな?」
俺の問いかけに対して、彼は笑ったまま、無慈悲な答えを叩きつけた。ジンが手繰り寄せた救済の糸が途切れるのを感じる。
「いや、それは本当だよ。君達を捉えて、まとめて売るつもりだった。箱庭にね」
背筋に悪寒が走る。目の前にいるのは、無邪気な少年のような見た目の人物だ。なのに、何でこんなにも言動からは悪意を感じるのだろう。まぁ、最初から見た目相応の年齢だとは思っていないけれど。
「でも、気が変わった。返してあげる。僕に、君は箱庭よりも価値がある、と示せたらね。殺り合おうじゃないか、本気で」
本当は、部下に撤退させるふりをさせる予定だったのに、それが事実になってしまった、と彼は笑って言った。俺の力に価値を見出した、とそんなところだろうか。そんなことよりも、俺は部下がやられたのに笑っている彼に違和感を覚えてしまう。
「不服かい?でも、そんなものさ。この場所は所詮、利己主義者の集合体に過ぎない。そうしないと生きていけないからね」
さらっと人の心を読むのはやめてほしいが、言っていることは理解できる。この場所で、人を気遣える余裕のある者なんてごく僅かだし、そういう者ほど、人を切り捨てて成り上がってきている。
ジンだって、本質的にはそうだ。俺も、子供達さえも、役に立ちそうだから助けられただけに過ぎないわけだし。だけど、自分の部下は自分の一部として抱え込んでいる彼は、マキナとは違う。
正直、ジンと他の外道が同列に扱われていることに怒りを感じる。
「ジン・フェリスタークだってそうだ。今回の救済策線さえも、なめられないための牽制に過ぎない。子供達なんて駒、使い捨て程度にしか思っていないさ」
感情の激流が俺を襲った。勿論それは、怒り。この世界に来てから初めての大きな感情の爆発に、自分でも少し戸惑ってしまう。
俺の感情の変化を察したのか、マキナは心の底から嬉しそうに笑った。その笑いは、メインディッシュを前にする肉食獣のようで、普段の俺だったら確実に臆していたであろう凄みがあった。
「ジンは、駒は大切にするんじゃないかな」
怒りの本流に押し出されるようにして、そんな挑発が口から漏れる。日に油を注ぐが如く、マキナの笑みはさらに深くなった。
「じゃあ、君の正しさを証明して見せてよ。殺り合おう。主義主張のぶつけ合いだ。楽しいよ、きっと」
先日二十時投稿というふうに宣言致しましたが、先日のPV数を踏まえてしばらく色々な時間に投稿していきたいと思います。見ていただけたら非常に嬉しいです。




