始動
現在、少しずつ過去の作品の改稿を進めています。ちょっと文字数が少ないかな、と思ったので……
その中で、誤字脱字、言葉の誤用なども修正していますが、取りこぼしがある現状です。お気づきになりましたら、教えて頂けるとありがたいです。
「今晩「クロニック」を襲撃します」
ジンが言葉を発すると、速やかに戦闘準備が始まった。全員が自分のやるべきことを素早く行っている。一切の無駄が省かれた彼らの動きを見て、今更ながら、ああ、彼らはベテランなのだと身に染みて感じた。
四半刻も経たないうちに準備は整った。俺も何とか自分の支度を終わらせる。と言っても戦闘服的なやつを身につけるだけである。ジンが用意してくれたもので、肌触りが良く、サイズはぴったりだ。本当に寸分のズレもない。なぜぴったりなのかは怖いので考えないようにすることにする。
夜空のように深い色の戦闘服は、隠密機能に優れているということなのだが、やたらと着にくい。なので着衣だけでかなりの時間がかかってしまった。脱ぐのは簡単、らしいが……。信じないことにしておく。着る時も簡単って言われたからな。
とにかく、準備が終わった俺たち一行は、「目的地」に向かう。もちろん、目立たないように。誰にも見られないように。道中の少しの油断で、緻密な作戦の全てが瓦解してしまうことだってあるのだから。
黄昏時に一面が橙に染まる街並み。そこから少し外れた、一足先に宵闇が訪れている裏路地の中。そこに俺達はいた。
辺りは薄暗く、人通りも全くない。万が一人が来てもわかるように、足音の響きやすい石畳の路地を選んである。逆に言えば俺たちの足音も響きやすいということなのだが、何故か彼らの足音は全く鳴らない。
もちろん俺にはそんな芸当は出来ないので、少し足を動かすだけでも普通に足音が鳴る。わざわざ警戒するために石畳の路地に入ったのに、意味がなくなってしまったのではないかと思う。
だが、この場にいる俺以外の皆は人の足音を聞き分けることができるらしいので、別に問題はないのだとか。何だかこの空間にいると俺が普通ではない気がしてくる。俺の方が普通だよな……?
「今から、予定通り二手に分かれて作戦行動を行います」
今夜の作戦は揺動班と襲撃班の二手に分かれて行う。俺と、ほとんどの子供達は揺動係だ。とにかく相手を撹乱させる事だけを考えて動けばいい。今まで行ってきた訓練が実っていたら生きて帰ることができるだろう。頑張れ、俺の生存本能。
それに対して、ジンと極少数の子供達が行うのが敵将の首取りだ。これが成功すれば、チェックメイト。俺達の勝利だ。
そのためにも、大半の戦闘員を惹きつける必要がある。つまるところ、俺のスキルの出番だ。情報屋の面々は、奇跡的に全員『悪役覇気』が魅了として働いているが、裏町の人間の半数以上は「ヘイティング」効果で俺を敵対視してくる。
今回の役目にはバッチリの能力じゃないか。魅了が効く敵がいれば儲けものだしな。敵を引きつけた後が心配だけど。
後は難しいことを考えずに、ただ殺られないように立ち振る舞えばいい。一番ダメなのは相手を逃すことだな。何としても引きつけ続けなければいけないだろう。中途半端が一番困るっていうことだ。
「では、日の入りと共に作戦行動開始です。各々、迅速に持ち場についてください」
街全体が俺たちが今いる裏路地に追いつくように闇に染まる頃、作戦が始まった。俺たちの待機場所は、「クロニック」本部の建物の裏口。見た感じは二階建ての普通の建物である。特に罠なんかもなく、裏路地を辿れば普通に行くことができる。まあ道はとんでもなく細いが。
裏口付近だけ少し広くなっているので非常に助かる。俺と、十数名の子供達がいるので正直今でも結構狭い。
あと、子供達が案外多いのは、いつもは裏町にいない者も作戦に参加しているから、だそうだ。本来、外の任務等に出ていて揃うことのない子供達が全員参加していることからも、この作戦の本気度が窺える。
「航様、お願いします」
ジンの合図が聞こえる。この作戦の先陣を切るのは俺である。『悪役覇気』をフルで発動して相手の意識を完全にこちらに向けるのだ。
『悪役覇気』は基本的に常時発動型である。だが、ずっと違和感があったのだ。追放の時と、検証の時であまりにも「ヘイティング」の効果に差がありすぎる。少なくとも日常生活と、何か事件があった時で効果に差があることは間違いない。
それに気付いてから、何度も「トレース」を練習してきて、何となくだがスキルの出力について掴むことができた。おそらく、スキルの強度は「状況」と「精神性」に左右される。
つまり、極論を言えば「心の持ちよう」でスキルの効果は上昇するということだ。根性論?当たり前だ。プラセボ効果というのもあるのだし、精神性でどれだけ力が発揮できるかも違うに決まっている。緊張して上手くできなかった、と全く同じ原理だ。
「『悪役覇気』最大出力!」
自らに喝を入れるように大声でスキルを強化する。これも、思い込み促進のための行動だ。よく漫画とかで見かける必殺技を口に出すやつは、ただのかっこつけではない。自己暗示としての効果が絶大だからやっているのだろう。そうした方が気持ちが入りやすいし、気持ちよく力を使える、という訳だ。
「では、我々は正面から向かいますので」
敵が動いた気配を感じたのだろう。襲撃班から行動を開始する旨の連絡が入る。ちなみに、彼らは通行人に扮して表通りに待機していた。通話は携帯みたいな道具で行っている。魔法技術を使っているらしい。ジン曰く、目玉が飛び出るかと思うくらい高かった、との事だ。
「全員臨戦体制!必ず敵は多対一で捉えること。情報を得たいので捕縛に止めろ!」
揺動班の副官が全員に指示を回す。例の作戦会議にもいたから幹部クラスではないだろうか。ちなみに指揮官は俺だ。一番大きな役割をするから、と押し付けられた。まあ本当のところを言うと、士気を上げるためだけの配置な気がするけど。
敵の足音が、気配察知が不得意な俺にもはっきりと聞こえるようになってきた。改めて気合を入れ直し、「トレース」のために精神を集中させていく。
まず一発、裏口が開いた瞬間に叩き込む。そう決めて、俺は完全な臨戦体制へと移った。
本日から二十時投稿です。見てくださった方、本当にありがとうございます。




