作戦
「話し合いましょう。私達が生き残るための術を」
彼が語った作戦は、敵方の首領を取る為だけのものだった。俺が揺動で殆どの戦闘力を引きつけ、その間にジンがキングを制圧する。単純な作戦だが、合間合間に入れる絡め手などが発揮されれば効果は高そうである。
だが、歩兵になど見向きもしないというようなそのプランを聞いて、俺は流石に不安を覚えた。俺への期待値を見誤っているように感じられてならないしな。
だが、考えてみれば当たり前かもしれない。常識的に考えれば、人数でも個々の強さでも負けている相手に勝てるわけがない。ましてや俺たちがやろうとしているのは、「守り」の五倍の人数が必要と言われている「攻め」だ。
ブラフを積極的に張り、相手を惑わせることはどうしても必要だ。ジン達が「東 航」という戦力をいかに大きく見せられるか。そのためには、どうしても作戦内の俺の役割を大きくする必要がある。
それらを踏まえた上でなお、勝つためには常識外れの案を用意するか、あるいは……王道の作戦であろうとも、全てにおいて先手を取り、相手の裏をかくことが出来れば。
「ただ、我々が殺るべき大将がどのような人物なのかが一切判明していません。人物像という意味ではなく、単純に誰を標的にすればいいのか分かっていないということです」
………ん?聞き間違いだろうか。あまりに不安な言葉が聞こえてきたような気がするのだが。標的が分かっていない、と?
「情報管理が厳しい家族以上の組織にはよくあることです。私が必ず突き止めますので、心配は要りません」
おお、頼もしい。だが、同時に流石に不安である。時間がなく、焦っている時ほどミスを犯しやすい。その一つが致命傷になることだってよくあることだ。彼ほどの実力者だってそういうことがないとは言えないだろう。
「我々が目指すのは運による勝利ではありません。相手を完膚なきまでに制して初めて叶う完全勝利です。気を引き締めてください」
流石、堂々としている。こと情報に関して、彼への心配は無用であったと改めて思わされた。
というか、さらっとなかなか厳しい条件を叩きつけられた気がする。だが、やはりこの場の士気はだだ上がりである。何らかの精神干渉でも行なっているのでは?と疑ってしまうほどのカリスマだ。俺の魅了なんて比べものにもならないほどのものである。
「作戦決行は三日後の深夜です。各自準備を確実に済ませておいてください」
その言葉で会議は終了となり、各自決戦に向けて準備をしに散っていった。ちなみに、この建物の三階は子供達達の休養所になっているのだとか。
それはさておき、決戦は三日後。時間があるようで全くない。「トレース」だってまだまだ実践レベルに達しているとは言えないし、スキルを使わなければ運動能力だって決して高いわけじゃない。少々焦った方がいいかもしれない。
そこからしばらく、ずっと訓練場にいる時間が続いた。最低限の休息と睡眠を取って、あとはひたすら「トレース」の練習である。体力が持つ限り訓練して、倒れたら休息。意識が飛んだらそのまま睡眠。そんな無茶なスケジュールを押し通していた。
基礎運動能力を向上させるのに三日間はあまりにも短すぎる、という判断だ。その点、スキルならばまだ希望が持てる。俺は訓練中、「死にたくない」と、ただそれだけを胸に必死に特訓していた。
今は、気絶して目覚めてからすぐなので、死にたくないから必死って言うのも字面的にはおかしいな、とかそんなことを考える余裕があるが、それだって言ってみれば現実逃避である。
だが、この訓練は自主的なものだ。少しでも弱音を吐いたらそこからずるずると怠けてしまいそうなので、それだけはしないようにしている。そういう怠け癖がついたらもう無理だと俺は思っている。
本当に十五歳で命を落とすとか勘弁してほしいという感じなのだ。だから絶対にサボってはいけない。必死に特訓した今の状況であっても死にそうなのに、サボっていた俺が戦場になんか出たら確殺じゃないか。
正直な話、訓練がしんどすぎて脳内の九割を占める悪魔が、常に「戦わなくたっていいだろう」と囁いているし、俺にはその悪魔が天使に見える、といった感じの状況だ。悲惨である。
だが、ジンの作戦には俺の存在が完全に組み込まれているし、彼が死んだりしたら俺も路頭を迷うことになると思うので、彼への協力を惜しんではいけないと思う。いくら魅了があるとは言え、ジンみたいに拾ってくれるほど余裕のある人って裏町にはあんまりいないもんな。
と、まあそんなことを考えながらも必死に訓練をした結果、「トレース」はかなり上達した。と、思う。自分の動きに部分的に人の動きを取り入れたりすることもできるようになった。いやはや生物の生存本能というのは恐ろしいものである。
そんな生存本能のまま訓練した結果、今がいつなのか完全に分からなくなってしまった。気絶して飛び起きての繰り返しで、完全に時間感覚がなくなっていることに加え、訓練場は地下なため外の様子など微塵も伺えないからである。まあその状態で時間など分かるはずもない。
流石にこの状況はまずいため、時間を確認するために上へと上がる。暗い階段から漏れる橙色の光から、今は夕方であることが察せられた。
日付帳で、訓練を始めてから一日半が経っていることを確認する。この世界にもカレンダーらしきものがあるのでなかなか便利である。一日とか一週間の時間は全然違うけど。何せ一週間が三日の週もあれば、九日くらいある時もあるのだ。
言葉に関してはなんか読めた。もちろんこの世界の言語が日本語とかそういうわけではなく、意味が何となくわかる感じである。
多分これもスキルの影響であろう。俺はとりあえず身の周りの不思議現象は全てスキルのせいだと思うようにしている。ご都合主義?知ったことか。できるもんはできるんだ。それを俺のせいにされても……というか。
気を取り直して、せっかく訓練を切り上げたので、作戦の復習をしておくことにする。また訓練漬けになったら多分難しいことは考えられないであろうからな。
そこら辺から書くものと紙っぽい何かを引っ張り出してきて、素人なりに作戦をまとめていく。機密保持の観点からしたらダメなのかもしれないけれど、それをしないと俺は脳内を整理できない。
異世界らしく羽根ペンで作戦概要を書いていると、ジンが焦ったようにドアを開け、部屋の中に飛び込んできた。ベルの合図とかお構いなしにである。警戒する癖がついているのか、結構身構えてしまった。
彼へ軽口と共に文句を言おうとしたが、彼の顔を見て開けかけた口を閉じた。彼の顔からは、表情を読む技術がない俺でさえ、非常に切迫した状況が差し迫っていることを感じることができた。
「子供の売却が決まりました。下手に探ったせいで、それだけの技術があると知られてしまったようです。幸い、こちらの手の者だとはバレませんでしたが」
まずいじゃないか。それを回避するためだけに動いてきたというのに。
「売却実行日は四日後。それを回避するためにも、今晩「クロニック」を襲撃します」
明日から四月なのでいい区切りということもあり、一週間程度投稿時間を二十時辺りに変えたいと思っています。ですがあくまでもお試しなため、その後も投稿時間が二十時で固定というわけではありません。明日も読んでいただけたら幸いです。




