火蓋
この場所で生活し始めてから二週間ほど。俺はすっかり日課になった訓練をこなしながら『悪役』について考えていた。
訓練を始めてから二週間すら経っていない一般人が今ではまあまあ戦えるようになっている。これはあまりにも異常だ。
何というか、システム補正が入っている感じというべきだろうか、思った通りに体が動くのだ。多少無茶な想像でもその通りに体が動いてくれる。ただの打撃でさえ、申し分ない威力が出る。
かといって日常生活でそんな異常性が出ているわけではない。だから、訓練によって多少はついただろうが、筋肉でそんな芸当ができているわけではない。
ということは、確実にスキルの影響だといえるだろう。スキル『悪役』。その効果の一つに、戦闘の際に「自分の想像通りに体を動かせる」というものがあるのは、疑いようがないと言える。
俺はこの効果を暫定的に『トレース』と名付けることにした。
最近は、実は他の人やジンの動きを盗み見てトレースできないか試したりなんかもしている。たまに訓練場に子供達がやってくるのだが、いろいろなパターンを観察できるので結構練習になるのだ。
そんなわけで今、俺は一人で彼らの動きを脳内再生して『トレース』する練習をしている。訓練後に自主練という形で練習しているのだ。自分で言うのも何だが、結構様になってきているような気がする。
「航様、少し宜しいでしょうか」
ジンに背後から肩を叩かれ、訓練場の暗さも相まってかなりの恐怖を感じた。訓練に集中していたためか、それともジンの隠密能力が高すぎるのか。全く気配を感じなかった。
おそらく後者であろう。調子に乗っているモードを一旦リセットする良い機会をもらったと思っておくことにする。ありがたい。
俺は頷いて彼に了承の意を伝えた。
「敵側の戦力が判明しました。相手方の武力を請け負っているのは、『クロニック』という組織です。かなり前から裏町に存在している老舗ですが、この組織は情報制御があまりにも徹底していて、情報が入ってこなかったのです」
老舗、か。まあ強いっていうことだろうな。そうでないと、裏町で長く組織を保ち続けるなんてできるわけがない。特に入れ替わりが激しく、敵対業者が多い傭兵業はな。
「ですが、そのセキュリティの堅さが仇になりましたね。私にとっては与える情報を取捨選択してくる者の方が遥かに厄介です」
凄い自信だ。家族としての自負というものだろうか。物腰が丁寧で裏町の住人には到底見えない彼だが、たまに黒い一面を覗かせることがある。
その度にハッと思い出すことになるのだ。彼も立派な裏町の住人の一人なのだと。
「今、『クロニック』の情報をさらに詳しく子供達総出で調べています。もうすぐ我々の求めている情報に行き着くでしょう」
彼が開拓した情報ルートから情報を集めているらしい。ガチガチに固めたセキュリティは一箇所が瓦解すると弱いのだとか。
「判明し次第、責めに出ます。まず、『クロニック』を落としましょう」
戦いの火蓋が切られた音が、確かに聞こえた気がした。
十二時と言ったにも関わらず、気になる所を加筆修正しているとこんな時間になってしまいました。
まだしばらく毎日投稿は続けますので、読んでいただけると幸いです。




