鑑定
先日に続き、投稿が遅れてしまったことをお詫びいたします。
明日は十二時投稿を厳守しますので、読んでいただけると幸いです。
あの後、地下訓練場を危うく崩壊させてしまう所だった俺は、一旦訓練の中止を提案し、自分のスキルについて知る事にした。
現在は、ジンの部屋でお茶の途中である。あまり余裕のある状況ではないらしいのだが、正直に言うと先刻の謎パワーの方がよっぽど厄介だ。少しでも早く自分のスキルについて把握しておいた方がいい。今度は訓練場壊すかもだしな。
とは言っても「検証」の仕方というのがいまいちピンとこない。まあ『能力』なんてものが存在しない世界から来たわけだし、うまく扱えないには当然とも言えるのだが。
だが、そんな悠長なことを言っている暇がないのが現実だ。俺が発火するのではないだろうかと自分で心配になるくらい頭を悩ませていると、ジンが突然声を上げた。
「来ましたね」
誰か呼んでいたのだろうか。やけに落ち着いているな、と思ったら何やら手を回していたようだ。
玄関のベルが鳴った。ちなみにベルには二種類あり、片方は見ただけではわからないようになっている。そうやって訪ねてくる人を識別しているのだ。
今回は隠されている、知人や仲間しか知らない方のベルの音が鳴ったので、ジンの知人で間違い無いだろう。
「空いていますよ。入ってください」
ジンの呼びかけに応えるように、ドアがゆっくりと開いていく。というか今更だがジンは誰に対しても敬語なのだろうか……まぁ言葉を崩しているところなど想像もつかないが。
人影が扉から入ってくる。何に警戒しているのか知らないが、誰にも見られたくないというように、開け放したドアをすぐに閉めた。
「こちらに座ってください」
ジンが席をすすめる。訪問者とジンは古くからの知り合いなのか、その仕草には慣れと気安さのようなものが感じられた。
訪ねてきた人物は、黒にかなり近い深緑の目をこちらに向けた。
「こいつが、例の?餓鬼だが、確かに侮れん感じはするな」
短く狩られた白髪。体には、よく見ないと分からないようになっているが革鎧のようなものを身につけている。本当に薄い皮で服にデザインに組み込まれているから、一眼見ただけでは気づかなかった。その薄さではあまり攻撃を防げないだろうが、そこは何か魔法パワーでも働いているのだろう。
褐色の肌に幾つも付いている切り傷が、俺なんかよりはるかに鍛えているであろう筋肉が、眼帯で隠されている左目が、彼がさまざまな窮地を乗り越えてきた人物だと示していた。
何より俺に初めてタメ口を使ってくれた「裏町」の人である。なんだか、彼がジンと仲良くできているのがとても不思議なように思われる。
彼は、ジンの目に促され、自己紹介を始めた
「俺は、バルトルト。ここでは有象無象だが、他の裏町の仕切りのようなものをやっている《名前持ち》だ。職業は『鑑定士』。よろしく頼む」
なんだかいろいろと大事な情報があったように思うが、この見た目で『鑑定』っていう事のインパクトが強すぎて、脳から飛んでいった。
とにかく、ここに『鑑定士』がいるということは、まあそういうことなのだろうな。「鑑定」だろう。自分のスキルを知るのに最適解と言えるだろう。
相手に自己紹介をさせて自分はしないなんてわけにはいかないので、一応軽く名乗って挨拶ぐらいはしておく。
「東 航です。よろしくお願いします」
彼は、俺の挨拶に対し軽く頷き、早速本題に入った。
「今日俺が来た要件は分かるだろう?じゃあ早速始めようか」
「鑑定」のことだろう。何だか強引な気がするが、のんびりしている場合でもないしまぁいい。
「といっても、お前は何もする必要はない。強いて言うならリラックスをしておけ」
そう言われて、俺は目を瞑って体の力を抜き、割としっかりリラックスをする。結構ゆっくりしながら過ごす。その場を静寂が支配した。
三分ほど経った。さすがにちょっと遅くないだろうかと思い、目を開ける。するとそこには、かなり険しい顔になっているバルトルトの姿があった。
正直素の顔のままでも十分怖かったので、俺はさらにの怖い顔があったのかと驚いた。正直、俺は今、だいぶびびっている。その顔のまま、彼は重々しく口を開く。
「よく聞け、お前のスキルの『鑑定』に失敗した」
「そんなことってあるんですか?」
思わず口から思ったことが漏れてしまう。俺の問いに対して、バルトルトは気落ちしたように返事を返した。しょげているのが案外分かりやすく、この表情なら怖くないな、なんて馬鹿なことを考えてしまう。
「『鑑定』っつうのは対象のスキルとの力比べなんだ。相手の『能力』の格が高ければ高い程、価値を引き出している程、『鑑定』は困難になる」
そういうもんなのだろうか。ちょっとイメージし辛いが。
「自分のスキルが勝手にシャットアウトしちまうんだよ。相手の情報を」
「そうしないと脳に過剰な負荷がかかるからな。何度も繰り返しスキルを使って脳を慣れさせ、スキルの効率化を図り、その安全機構が発動しないようにするんだ」
相手の能力の情報が頭に直接流れ込んでくるのだとか。そりゃあ慣れていない者には危険である。何回も使うことで、脳のリソースをしっかりと使えるようになっていくのだろう。
確かにそういうふうに考えないと、皇宮にいた際に一度もスキルの「鑑定」イベントみたいなものがなかったことの説明ができないかもしれないな。
ただの想像に過ぎないが、「勇者」のスキルが強力で、鑑定が失敗に終わる事が分かっていたから鑑定をしなかったのではなかろうか。滝のスキルでも熟練度の関係で無理だっただろうな。
「自慢じゃないが、俺がスキルを『鑑定』できなかったのは人生で七回目だ」
思ったより多い。本当に自慢じゃないのかもしれないな。いや、それでも凄いのか?この世界の価値観、特に能力関係はいまいちよく分からないからな……話半分、くらいで聞くのが一番ちょうどいいかもしれない。
「俺は大陸最高峰の鑑定士だという自負がある。きっと、この大陸にはお前のスキルを『鑑定』できる奴はもういねえよ」
すごい自信だ。これで俺のスキルを『鑑定』できる奴がいたらかなり恥ずかしいのではなかろうか。ジンが呼んだくらいだし、凄腕の部類には入ると思うのだけど。
結局、彼は失敗した事を謝って帰っていった。帰り際に失敗したのだから謝礼を返すと言って、中身が結構入っていそうな金貨袋を置いていったので、鑑定にそんな金を支払っていたのかと、少し怖くなる。
その金貨袋から、ジンの本気度が伝わってくるようだった。
結局、『悪役』については分からず終いだ。これが勇者のスキルに共通するものなのか、それとも『悪役』が特異なのか。謎が膨らむばかりで解決への道筋すら見えない。このまま実戦に突入することになるだろうか。そんな事を考えてしまい、俺は大きな不安に包まれた。
日曜日は二話投稿を行う予定です。
この作品を読んでいいな、と思った方はぜひ読んでみてください。




