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悪役覇道  作者: wisteria
第一章 『悪役』
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片鱗

申し訳ありません。十二時投稿をキープしていたのですが、今日は遅れてしまいました。

今日で十話目です。読んでくださって本当にありがとうございます。

 時としてこの世界は、非情にも自分の見たくないものを突きつけてくることがある。それは、自分から切り離した過去であったり、失敗だったりする。そのたびに俺たちは苦しみながらそれらを乗り越えていくわけだ。

 世界から与えられた試練とでも言うべきだろうか。だが世界は、時として心強い味方になり得る。



「航様には、戦闘を担って頂けるとありがたいのですが…」


 この状況は、世界から突きつけられる試練(無理ゲー)に他ならなかった。先程の協力宣言を取り消したいと言う強烈な欲求に駆られつつ、何とかぎこちない笑みを浮かべる。

 俺が微妙な表情をしている事に気づいたのだろう、ジンは、俺に「安心してください」と言うように笑みを向けた。


「もちろん、今のまま航様が箱庭(ガーデン)()りあっても確実に死にます」


 うん、それはそうなんだろうけどさ?もう少し言葉とか選んでほしい。不安が増幅するだけじゃないか。


「ですが、ご安心ください。もとより正面から戦っていただこうとは思っておりません。航様に頼みたいのは揺動でございます」


 その覇気(オーラ)なら、大半の戦闘員をそちらに引きつけることができるでしょうから、と彼は言うが、俺は、自分が揺動を行ってもすぐに捕まるか、死ぬ未来しか見えない。


「ですが、最低限の自衛能力は必要です。航様のためにも、私のためにも。なので、訓練を受けていただこうと思います」


 至極真っ当である。あえて「自分のため」と言うことで俺に気を使わせないようにまでしている。なんていい男、という感じだ。


「先に断っておきますが、私のやり方は経験の積み重ね(スパルタ)です。今回は、作戦立案や子供達(チルドレン)の情報収集が終わり次第作戦決行となりますので、さらに時間がありません。できる限り詰め込みたいと考えていますので、厳しいと思っておいてください」


 正直なことを言うと、アリスフィーネ皇女の訓練を受けてから特訓という言葉自体にあまり良い印象がない。本人がスパルタと言っているのだから厳しくないわけがないし。だが、やらねばならない事というのは存在する。自分自身を守るためにも、この試練を乗り越えなければいけないのだ。



 ジンの言う「訓練」は翌日から始まった。軽いランニングであったり筋トレなど、やる事は案外普通である。この程度であればアリスフィーネの訓練のほうが何倍もしんどかった。

 そんな抜けたことを思いながら護身術の訓練に移る。彼の(アジト)の地下に、訓練場のようなものが存在していたのだ。殺風景な石畳の地面と、微かに揺れる松明の光に少し不気味さを感じたが、そんなものかと思い訓練に入る。

 これも軽い気持ちで取り組んでいたら、こちらは地獄だった。とにかく受け身の練習だったり攻撃の捌き方だったりを繰り返し行わされた。

 何度も投げられるし、手加減されているとはいえ攻撃を加えられているのだ。痛くないわけがないし、辛いし、しんどい。さまざまな事を実践形式で教えられるのだが、それって上級者向けなんじゃなかろうか。少なくとも一日目から行う内容ではないはずだ。

 一時間、護身術の訓練で大量の攻撃(指導)を受け続け、俺の体力は限界を迎えつつあった。正直吐きそうなくらい体が痛いし、何より怖い。純粋に自分に加害するための攻撃。訓練だとは分かっていてもどうしても体がすくんでしまう。

 そういうものだと思うようにしているが、肉体的にも精神的にもかなりの負荷(ダメージ)がかかった時間だった。

 その後、さまざまな訓練(無茶振り)をこなしていく中で、俺は一つの真理に気づいた。ジンの子供達(チルドレン)が優秀なのは、彼の教え方がいいわけではなく、訓練(無茶振り)に耐えれた者だけが子供達(チルドレン)になれるからなのだ、と。


 俺が、自分自身を本格的に無能なのではないかと疑い始めた頃、それは起こった。

 格闘の訓練の時のこと。俺は相変わらず実践で叩きのめされながら訓練を受け続けていた。全く成果が上がらないのでやっと別の方法を試そうと思ったのか、彼は俺に基本から教えるべく指導法を変えた。


「では、この木を割ってみてください」


 一通り攻撃の仕方などを教わった後、彼はちょっと分厚めの板のようなものを出してきて、俺に割るように指示した。何だか空手のような印象を受ける。驚くべき偶然もあるものだな、などと思いつつ俺は木に向けて手を振り下ろした。

 まず感じたのは、手の痛みではなく、手応えがない違和感。それから一瞬遅れて衝撃音のようなものが石畳に反響する。部屋自体が少し揺れたように感じられ、その衝撃で、数本の松明の火が消えた。


「へっ?」


 俺の間抜けな声が静かになった空間に響く。それとは対照的に、人は感心するような声をあげた。


「素晴らしいです。何か武術の経験でも?」


「一応、空手という武術をしていました」


 二年で辞めましたが。少しみっともないので後半の台詞は心の中だけで再生する。帯だってオレンジで白の一個上だ。とても武術の経験と言えるようなものではないし、ましてや殴打だけでこんな衝撃波が発生したりするはずがない。


「聞いたことのない武術ですが、恐らくそのおかげでしょうね。私も会得してみたいものでございます」


 俺はオレンジ帯なんですが?なんだがジンの中で空手がかなりレベルのおかしい武術になってしまったような気がする。そういえば、俺が異世界人だと彼に話していなかったと今更ながら気づいた。

 この現象の原因だが、ここ(異世界)に来てから、よくわからない事には大体能力(スキル)が関係していた。今回もそうであろう。というかそうでない場合、俺が実はえげつない筋力を持っているぐらいしか説明のしようがない。そんなわけはないしな。

 『悪役』。まだまだ未知の部分が多いスキルなのではないかと思う。今回の事は、『悪役』の片鱗に過ぎないのではなかろうか。

 作品がいよいよ軌道に乗ってきていますので、これからも読んでいただけると幸いです。

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