心折れ、希望は彼方
実際のところ、どこまでが仕組まれていたことで、どこからが現実なのであろうか?最近、そういうことをふと考えるようになった。繁忙の最中にその考えは薄れ、霧のように消えていくのだが、一息つける時間が訪れると必ずと言っていいほどそんな考え方が浮かぶのである。
理由は様々考えられるが、やはり一番はわからないことの多さだと思う。未だ全貌が見えてこない「クロニック」攻略戦と「ヘキサンド」北征。
どう考えてもマキナの手中に置かれている「裏町」と勝ち目のない戦いに思われる裏社会独立戦争。今、自分を取り巻くすべての状況が、誰かしらに仕組まれたものであると、そう疑わずにはいられない落ち着かない気持ち。
そんな自分の頭を痛くする全ての要因を思い浮かべては、大きなため息をする日々。所詮自分はそれだけの器なのだと、そう惨めに思いながら過ごす生活。それらの状況にあると言う事実が、もはや俺をナーバスにさせる要因でしかなかった。
なぜそんな事態に陥っているのか?それは自明の理というものである。マキナによる半独断的な「裏社会独立宣言」、そこから俺を取り巻く全ての状況は変化してしまった。
マキナが「裏町」での権力を確固たるものにするにつれ、「情報屋」の顧客は減っていき、必然的に顧客からもたらされる生活に密着した噂話なども消えていく。周りの組織がどんどんと「傭兵組合」への所属を願う中、それを望まない組織は外的圧力によって潰されていく。
残ったのはマキナ達が歯牙にかける必要もないような弱小の組織と、組織の体すらなしていないような少人数の有象無象。そして、たった一つの「家族」、「情報屋」。
そんな状態で、まともな「仕事」ができるはずもない。必然的に、顧客は「傭兵組合」に限られることとなる。そうでないと、食えないし、生きていけない。どうしようもないことだが、結果的に俺たち「情報屋」までも「傭兵組合」に併合されたような状況になってしまっていた。
意外にもジンはこれには反対しなかった。最近のジンはどこか疲れたような顔をして働き通しているばかりである。彼の「子供達」もまた同様に、だ。俺やアリアにも仕事は振られるものの、それは所詮肉体労働のようなもの。
以前の「情報屋」の手伝いとは違って、至極単純な作業を繰り返す誰でもできるものである。忙しいことには忙しいが、真に忙しくないと言えば伝わるだろうか。艶を失った生活というのは、こんなにもくすんで見えるのだと、そう見せつけてくるような日々が、俺を取り巻いていた。
「あぁ、こんな時にマキナなら……」
こんな状況をおそらく故意に作り出したマキナを倣うような発想が出てくるほど、俺の日常や思考形成は以前とは変わってしまっていたのである。退屈は人を壊し、繁忙は人を切り刻む。ではその両方が押し寄せてきた俺は、一体どんな傷を負えばいいというのだろうか。
ただ、寝て、食べて、働くだけの日々。街全体が今でも騒がしいことから確実に戦の準備は始まっているはずであったが、それに参加しているわけでもない。この世界に来てから今までしてきた行動全てが制限されるような生活。
今の俺にとっては退屈を凌ぐ薬は戦でもなんでもよかった。今のこの状況さえ打破してくれるものであれば。
そしてそれは、存外すぐに、意外だが意外でないような人物から処方される。「裏社会解放宣言」から数えて十日、マキナによる「裏町統一」完了から七日経った朝のことである。俺たち「情報屋」に、「定例会議」の知らせが届いたのだ。
「親愛なる「情報屋」諸君。
貴殿らを翌日零時に開催される「定例会議」に招待する。
場所は前回同様である。では、よしなに」
そんな簡潔で素っ気のない文章で飾り付けられた招待状。だが、俺たち「情報屋」の反応は彼が意図した通りかは知る由もないが、かなり大きかった。
機械的に仕事をこなすだけとかしていたジンは多少なりとも活発になったし、アリアや俺もモチベーションの上昇をはっきりと感じていた。やることがある、それはとことん幸せなことなのだと、そう思い知らされるような、そんな感覚が俺を襲う。人間にとってやりがいとは大きな原動力なのだと、俺はそう理解した。
俺たち「幹部」クラスの「情報屋」構成員は、翌日日付変更の瞬間という非常に性急な招待に答えるべく、全力で準備を始めた。何せ「箱庭」という位階などほぼ崩壊したも同然であった以上、もうフォーマルな衣装など使う機会もないかと奥にしまいこまれているのである。
当然ではないか。今後はマキナの独壇場になることがほぼ確定なのだ。もう会議なんて行われないかと思うであろう?そこに関しては俺たちの見通しが甘いとか、断じてそんなんじゃないのである。
とにかく、俺たちは今非常にめんどくさいミッションを行わなければいけないような状態であった。だが、俺たちの心中は面倒などよりもやる気が何倍も勝っている状態である。やることを見つけた、それだけで俺たちの目の前が輝いていたからだ。
そして、時は「夜」へと走っていく。




