裏社会の王
時は、進む。時に無情に、さらに非情に。停滞を望む臆病者たちを嘲笑うように、世界は激動の時代を迎えた。
「我々は、裏社会の具現化、『裏町』。ご機嫌よう表の皆さん。そして初めまして」
「アノルフィア皇国に告ぐ。我々裏町は、貴殿らが放置した、ヘル=ドメイン大連峰を制定した。今此処に、首都「裏町」、副首都「下街」、主領土を「ヘル=ドメイン大連峰」と定め、「ヘル=ドメイン大連邦」の樹立を宣言する」
後に「裏社会独立宣言」と呼ばれ歴史の大きなターニングポイントとなるこの宣言。それがなされた後の裏町は、まさに大混乱と言える光景が繰り広げられていた。
その全容を説明するには、あまりにこの宣言がもたらした影響力は強すぎた。であるので、今のところはマキナとその周辺で起こった変化だけを説明していこうと思う。
まず、「ヘル=ドメイン大連邦」設立にあたって、真っ先に必要になってくるのは、もちろん他の裏社会的組織の統合である。ほとんどの裏社会組織は「ヘル=ドメイン大連峰」に拠点を構えているためやりやすいのだが、一つだけ例外が存在する。それが、「下街」だ。
「下街」は他の裏社会的組織と違い、その存在をはっきりと「表」側に認知されている。そのため、「下街」はわざわざ「ヘル=ドメイン大連峰」などに身を隠す必要がなかった。加えて、「下街」は元々スラムとして運用される予定のものであった。そのため、場所は「表」と隣接しているのである。
必然的に「ヘル=ドメイン大連邦」建設の際に一番のネックになるのは、「下街」なのである。皇国から主領土の一部を切り取ることにもつながるし、単に距離的な問題で国の一部と言い張るには無理がある、と言う要因もある。
とにかく、連邦建設の最難関事項が「下街」の大連邦引き入れだったと言うわけだ。
だがしかし、マキナはそれをやってのけた。到底不可能だと思われていた「裏社会組織連合」とでも呼ぶべき組織を作り出すことに成功したのだ。
その手腕は至って単純。「街」の安全面を懸念しての「ヘル=ドメイン大連邦」加入反対派を、単騎で全員説き伏せたのである。そもそも、「下街」が裏社会的組織である以上、たとえ加入しなかったとしても「ヘル=ドメイン大連邦」とつながっているという謗りを受けることは間違いない。
皇国軍が「下街」を制圧しにきてもおかしくないレベルの事態になるのである。だがそれと同時に、「下街」の商業都市という側面上、容易に場所を移動することができないのも事実であった。まさに挟み撃ち。万事窮す、そんな事態に陥ったわけなのだ。
そこに助け舟に入ったのが、マキナ。「下街」の要望をすべてクリアしつつ安全面も確保するためには自分たちの傘下に入るしかないと、そう訴えたのである。無茶苦茶ではないかと、そう考える余裕など、「下街」民にはなかった。マキナ達がいつ「大連邦」の樹立を宣言するのか、と怯えていた市民達にとっては。
もちろん、マキナが裏で手を回していたのであろう。明らかに「下街」民に不安が伝播する速度は早かったとの事だから、誰かに不安を煽らせていたのかもしれない。はたまた、ジンを通して情報屋の「協力者」が仕事をしたのかも。
だが何はともあれ、マキナの力で「下街」は「ヘル=ドメイン大連邦」の加盟団体の一部となったのであった。
そこからのマキナの行動は、迅速極まりないものであった。まず、「箱庭」の各組織を使って、「ヘル=ドメイン大連峰」中の裏社会的組織を併合。時には武力で、時には説得によって各組織は、大連邦への加盟に賛同した。
ちなみに言うと、あの忌まわしき『マモニルス』戦もその加盟勧誘戦争の一環であったらしい。「ヘキサンド」は対立行動が多すぎたため、どっちにしろ処刑対象だったようだが。
そのあとは、さらに早かった。
まず、「ヘル=ドメイン大連峰」の麓にあたる小都市を自らと「秘書隊」のみで陥落させる。もうこの段階になると、「箱庭」の面々は作戦の全容などわからず、ただ彼の行動を眺めていることしかできなかった。
そしてその小都市から皇国本部に向けて、あるメッセージを飛ばした。裕福なアノルフィア皇国には「小都市」以上の都市の中心に回線ネットワークが設けられており、緊急時のみと制限はされているもののそのネットワークを使えば本部と一瞬で連絡がつくのである。
だからこその、「小都市」の占領。そしてそれは、マキナの「裏社会独立宣言」へとつながっていく。
その「裏社会独立宣言」が終わったあと、「裏町」内で奇妙な現象が起き始める。多くの組織が、「傭兵組合」への帰化を願ったのである。傭兵系の組織だけではない。「情報屋」を除く各「箱庭」の組織達までもが、「傭兵組合」に帰属すると、そう発表したのだ。
完全に事前に手を回していたのだろうか。それとも別の要因があったのか?それは分からない。ただ一つわかりきっていることがある。マキナは、マキナ・ヴァルキリアは、「裏社会独立宣言」を契機に、「裏町」の王と化したのである。
それは、今まで民衆に紛れ込んでいた王の、満を持して頭角を表した瞬間であった。
なんだかまた歴史の教科書っぽくなっちゃいましたが、今後のストリーリー展開のための前置きだと思ってお読みください。飛ばさずに読んでいただける方がありがたいです。




