懐疑は踊る、よって進まず
一応書いておきますが、タイトルは誤植ではございません。
ようやく見慣れてきた場所で、話し合いが行われようとしていた。ヘキサンドへの北征は傷跡が大きくなったことを考慮し、臨時に定例会議が行われる運びとなったのである。もう定例とは呼べなくなってきているが、そこはご愛嬌である。
とにかく、今俺たちは、その定例会議のためにマキナと話し合いをしている最中であった。定例会議が行われるのは、今回は異例の昼間。そのため夜からぶっ通しでマキナと会議を行っている。というわけで、今ここはマキナの私室なのであった。
ちょうど今、ジンがマキナに今回の経緯を説明し終えたところである。俺やアリアが戦いの様子を捕捉しながら、だが。
「ふむ、なるほど……貪欲の原本が出てきたわけか。彼は分体には基本的に関与しない方針だったのに、気でも変わったかな?」
結局、俺が理解できていることは僅かだが、今回ばかりは少し彼の話に口を挟みたい。何せあの『マモニルス』は、今までの敵と違って何か鍵を握っているような気がしてならないのである。
「その件についてだが……話を聞いてもいいか?マキナ」
俺が口を挟んだことに対して、マキナは一瞬驚いたような顔を見せる。対照的に、俺たち「情報屋」は落ち着き払ってただマキナを見据えている。北征の最中に起こったことに対して、俺たち「情報屋」はわずかながらもマキナに不審感を抱いていた。
この男は、何が起きるのか知っていたのではないか、と。そんな想いが生み出したマキナへの純真な懐疑。それが渦となって、自己完結したがるマキナを邪魔するように言葉として漏れ出た。この疑問は、そういう意味も孕んだ重要なものであった。
「嫌だなぁ、急に真剣になって。奴から何か吹き込まれたかい?」
マキナは茶化してお茶を濁そうというような態度を取ったが、俺たちの目を見てそれも止める。彼が、真に俺たちに向き合った瞬間はきっと今であろう。マキナは、真っ直ぐに俺たちを見据えてこう言葉を続けた。
「そうか、何かしら識ったんだな?僕を、俺を信ぜれなくなる何かを」
「何か、特別なことじゃない。ただ、俺が全てを語っていないと、そう君に印象付けられれば良かったわけだ。俺に対する不信感。それを火種として亀裂を入れるつもりか」
何だか、少し悔しそうな顔をするマキナ。それもそのはず、彼が珍しく他人、この場合はマモニルスに出し抜かれた形になるのだ。悔しくないはずもなかった。幾百年と生きてきた彼のプライドが、そのことを許さなかったのである。
「しょうがないなぁ、話すつもりはなかったんだよ?だけれど、今君たちの信頼を失う方が何百倍も怖いからね。話そう、マモニルスについて、彼の後ろにいる組織について」
俺たちはそう言って話し始めようとするマキナを固唾を飲んで見つめる。一言一句聞き逃すまいと、俺の気持ちはそんなところであった。それと同様に神も真剣な顔でマキナを見つめている。彼も情報を扱うものとして知っておかなければならないと、そう判断したのであろう。
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「マモニルスはね、今からおよそ三百年前に、この皇国の公爵家の跡取りとして生を受けたんだよ」
マキナは、それを皮切りに話し始めた。
「彼は、何一つ不自由なく備えられ、育てる準備をされた状態で生まれてきた。男だということはわかっていたことだったから、嫡子が誕生する、と周りは狂喜乱舞だったようだよ」
「だがね、彼は一族の証を持っていなかった。それはいわゆる、「瞳」の色のことだったわけだ。彼、マモニルスはその家の証である銅の瞳を持たずに生まれてきたんだ」
「そのあとはとんとん拍子だったようだよ。あっという間に彼は捨てられ、奥方の出産もただの噂だということで収まった。そうして、マモニルスは捨てられた山で極限状況で暮らしていたようだ」
「彼には育ての親が存在していた。たった一人、山で捨てられていた赤ん坊だった彼を見つけたものがいたんだ。だが、その存在が彼を拾ったのは、善意からではなかった。彼を、地獄へと引き摺り込むための足が狩りに過ぎなかったんだよ」
そこまで一気に語ったマキナは、一つ大きなため息をついてその後の台詞を吐いた。
「彼は、マモニルスは、公爵家の血筋を引くものにして、数奇な運命を辿った「正教」の使徒。簡単に言うと、皇国の裏の姿の犠牲者にして被害者にして、最大の犠牲者。使者とでも呼ぶべき存在なんだよ」
次回、マモニルスの過去です。




