傷跡は深く、爪痕は遠く
いよいよ本格的に皇編です。今日はちょっと短めですが、物語の区切りの関係ですのでそこはお許しください。
あれから、数日が経った。あれ、が何を指しているのかと問われれば、それはもちろんのこと「北征」のことである。
存外に大きなダメージを残して過ぎ去った嵐のような男、マモニルス・ウィーガンの手によって、俺たちの北征は成功とも失敗とも言えない微妙な結末で幕を閉じた。この北征を重要視していなかった俺たちにとって、望まぬ強敵との戦いは大きな傷痕となって今も残り続けている。
その中でも最も大きいのが、多大な物資のロス。北征のための費用は全て「情報屋」で出すという取り決めであったばかりに、物的資源、金銭だけでなく、人的資源にも損失が見られた。適切な治療が十分にできなかったばかりにまだ復帰できていない「子供達」も多数存在している。
さらには、マモニルスとの戦いによって今後の展望がどんどんと不透明になりつつある。『マモニルス』は誰かしらの指示で動いていたような言動を見せていたため、裏には彼ほどの実力者を使役できる個人ないし組織がいると考えることができるわけだ。
マキナの統率力を疑うわけではないが、それにしてもあまりに不安が残る戦いであった。なんとも言えない状況が続く今の皇国において、先行き不透明が一番危険である。その点において、『マモニルス』は俺に大きな揺さぶりをかけることに成功したといえよう。
だがしかし、悪いことしかなかったわけでもない。いいことも悪いことを覆い隠すように起こったのである。まさに禍福糾える縄の如しと言ったところである。
その「いいこと」が具体的に何なのかというと……
アリアがやけに調子がいい、ということである。アリアは先の戦いで何かを掴んだのか、大幅に強くなって帰ってきていた。何だその程度のことか、と思うのはあまりにも早計である。
今回のアリアの場合、ただ実戦で強くなるという領域を何段階も超えていた。今まで未使用であった技の使用、それに伴って攻撃パターンや威力が北征前の比にならないほど増加している。
あくまでも体感ではあるのだが、俺が戦った手刀状態のマキナと同程度、もし区はそれより少し強い。それはつまり、「情報屋」の大幅な戦力増強を意味している。今まで主軸としてきた俺を変えて、アリアをメインで作戦を組み込んでいく方が楽なくらいなのだ。よほどアリアは強くなっている。
もちろんそれは喜ぶべきものなのだが、その点に関しては俺に一つだけ懸念事項が存在していた。これはアリアのせいとかそんなんじゃなくて、ただ単に俺の弱さが原因なのであるが。
「俺は、これからも「情報屋」で価値を示し続けることができるのか?」
それは俺の中に浮かんできた純然たる疑問である。アリアが今回の北征で大幅に強化されて帰ってきた。他の「子供達」の中にも将来強くなりそうなものなどいくらでもいる。そんな中で、俺はこれからも「情報屋」を居場所にするための力を示せるのか?
俺がこの場所に居候できているのは、戦力の貸渡しという面が非常に大きい。情報屋に基本的に大きくかけている「戦力」というピースを補うために俺は今ここにいる。それが、この場所における俺の存在意義なのである。
なのに、であるのに、俺は今、「情報屋」の主戦力の中で一番「弱い」。元々僅差で優っていたアリアが遠くへと歩みを進めて、ジンには元から俺にはない力がある。ならば、俺は何のためにここにいるのだろうか、いてもいいのだろうか?
俺は、そんな疑問を無理やりに引き剥がすようにして前を向く。深淵に飲まれていきそうだった心と体が、あるべき場所、情報屋のアジトへと戻ってくる。その過程を心強く感じながら、俺は「情報屋」として立ち上がった。
これから何が始まるのか。その結末を見届けるために。これから幾度となく迎える、結末の序章を観るために。
ーーーー
全ては、マキナの一言から始まった。
「我々は、裏社会の具現化、『裏町』。ご機嫌よう表の皆さん。そして初めまして」
「アノルフィア皇国に告ぐ。我々裏町は、貴殿らが放置した、ヘル=ドメイン大連峰を制定した。今此処に、首都「裏町」、副首都「下街」、主領土を「ヘル=ドメイン大連峰」と定め、「ヘル=ドメイン大連邦」の樹立を宣言する」
ーーーー
大動乱の、幕開けである。




