鏤む陰謀
本日から四章です。
豪華絢爛、そんな言葉がふさわしい部屋。宝玉が至る所に散りばめられた美しさの象徴のようなその場所に、一人佇む少女がいた。
少女、といえども幼い年頃ではない。大人への過渡期としてのいわゆる「少女」であり、その少女の外見は齢十八程度。もはや一人前の大人の女性と言っても差し支えないほどの優雅さが、その外見からはひしひしと感じられる。
しかし、その少女からは貴に連なる者からは決して発せられないようなオーラが流れ出ていた。敵対、理不尽に対する憤怒、諦め、そして何より、寂寥。陰鬱な雰囲気がその少女を包んでいる。その雰囲気は何物をも寄せ付けない。来るな、と語りかけているとすら思えるほどの強い念が、近づくものを襲う。
到底貴族とは思えないその少女の名、それは「アリスフィーネ・アインツェ・アノルフィア」。アノルフィア皇国第二王女にして皇位継承権なし。それが彼女の全ての肩書きであった。何もかもを持っていながら、全てを失った少女。それこそが、アリスフィーネである。
「いよいよ近づいてきましたね」
差し込む月明かり、それに呼応するようにアリスフィーネの口から言葉が漏れ出す。手にとっていた書物を書棚に戻すと、彼女はどこか遠いところを見据えるように星空をじっと見つめ始めた。
その視線の向かう先は、空ではない何かであり、アリスフィーネの心内に潜む壮大な想いの矛先とでも呼べる物であった。発せられた言葉からは、まだ齡二十にも達さぬ娘とは思えぬほどの重さが感じられ、アフリスフィーネが何か大きな宿命を背負っていることがひしひしと他人に伝わるようである。
「もう、そろそろですか」
「全て、すべてがここで一度終わる。そして始まるのです。新しい日々、希望に満ち溢れた未来が」
アリスフィーネは、その言葉たちを一句一句、丁寧に噛み締めるように区切って発音する。とても大事な何かが、そこに込められていると、そんな様子で。
「全ては、己の欲のために。全てを飲み干す深淵の力を」
その一言だけは、今までの言葉とは違い異常なほどに低く、昏い想いが溢れ出しているようだった。
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同時刻、某所にて、一人部屋の中に佇む男がいた。名は「マモニルス・ウィーガン・
マーディッシュ」。先の戦いにおいて「航」の前を阻んだ相手である。
そんな男が、部屋の中で何やら支援するように呟いている。部屋の雰囲気は暗く、アリスフィーネの部屋とは似てもつかない。しかし、両者の醸し出す雰囲気は共通点が存在していた。
呟くは、己の欲望。『マモニルス』は、己にどこまでも真っ直ぐに言葉を発しているだけであった。これからの展望、陰謀の交錯。そんなものを見据えながら今日も『マモニルス』は一人思案に耽る。
「まさか、まさか「勇者」の内に「覇気」系統の能力者が現れるとは。これは世界の覇権争いのバランスすらも変えかねん。だが、それがいいではないか。いいかげん「正教」の通りに動くのも飽きた。これからは好きに暗躍できるということであろうな?」
そして、怪しい笑みを浮かべてこう言った。
「我ら「裏」に属するものの、時代の幕開けということか」
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同時刻、「正教」本教会にて、神像の前で一人祈る男がいた。「正教」、アノルフィア皇国で最も盛んな宗教である。国教というシステムをアノルフィア皇国が取っていないため認定はされていないが、皇国最大規模であることを鑑みれば、「正教」が皇国の主流宗教であることは間違いない。
そんな「正教」の本教会。つまり、礼拝のためにアノルフィア中から人が集まる空間である。そんな本教会で夜とはいえ、一人きりで祈る男。確実に、常人ではないことは明らかである。
男の名は、シュヴァルト。アリスフィーネ、そしてその妹マーガレットの父である、「シュヴァルト・アインツェ・ディルターク・フィル・ウェルト・アノルフィア」である。つまりは、アノルフィア皇国の皇配。この国のかなりの権力者の一人である。
「敬虔な神々の使徒よ、感謝します。今日もまたひとつ、邪悪が潰え、我らが神の名の下に世界はより良くなった」
そんなシュヴァルトに、背後から一人の男が話しかける。本来ならばこの国の二番目に権力の高い人物に対して裏から話しかけるなどという愚行、重罰ものである。しかし、この場の誰もがそれを咎めはしない。
シュヴァルトでさえ、それが当然だと受け止めている様子であった。それどころか、シュヴァルトは傅く勢いで現れた人物に言葉を放った。
「これはこれは、「大司教」。お久しぶりです。「大司教」様の威光があってこそ、我らは今日も安寧を享受できる」
それに対して、「大司教」と呼ばれた人間も、その態度が当たり前かのように言葉を返す。
「シュヴァルト殿。建前はいい。重要なのは、我らの悲願が叶うかどうか、そうでしょう?我らは一蓮托生。逃しませんし、逃れません。この命果てても、必ずや神の御心を果たすだけです」
その言葉に呼応するように、シュヴァルトも口を開く。
「「我らに神のご加護があらんことを」」
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そして、世界は動き出す。




