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第6話 断鎖連華

タッタッタッ……


 皇都中を走り回る一つの足音が、あたりに静かに響く。


レオナール

(アル…一体何処にいるんだ…)


「……っ!?」


ザザッ…


レオナール

(…これは、気配…何か…来る…っ!)


 民家の物陰から、一つの人影が現れた…


チャキッ…


レオナール(剣を構えながら)

「……何者だ…?」


???

「おいおい…相棒に剣を向けるなよ。」


 人影が、聞き馴染みのある声で、両手を上げながらこちらを見据えている。


レオナール

「…アル!!良かった…先に合流できた様だな!」


アルセリオ

「…合流って…さっきの皇城からの紫色の光の事か?何かあったのかよ?」


レオナール

「ああ、それがな…?」


 レオナールは、皇城であったことを、簡潔かつ丁寧にアルセリオに伝えた。


アルセリオ(考え込む動作をしながら)

「なるほどなぁ〜…やっぱ動いたか。それにしても、内部に潜んでいるとは思わなかったぜ。」


アルセリオ

「ヴリザード…か。懐かしい名だ。良く英雄譚で聞かされてたっけな。」


レオナール

「…とにかく、ここを離れねぇと…!」


アルセリオ

「そうだな。思い出に耽っている暇ぁ無ぇか。とりま、戦いやすそうなところまで走るぞ?」


レオナール

「ああ、着いていく!!」


 そうして、二人は迷わず…皇都の中心、大広場まで走っていった。


  ***


ガァンッ…!ゴォンッ…!!


 無造作に暴れ回る鎖を、一行は各々躱わしたり、弾いたりする事で耐え凌いでいた。


トール

「まったく…何も考えずにひたすら物量ですか…品位に欠けますねぇ〜!」


クローリス

「獣なんだしぃ〜そんなの(品位)なんて持って無いでしょぉ〜〜。」


ハルゼン

「とりあえず一発ぶち込むぞっ!?オラよぉ!!」


ハルゼン

「士剣・弍承《破城》!!!」


ドォォオオンッッッ!!!


 戦斧での強烈な豪撃が太い鎖へと当たり、粉砕する事に成功するが…またもや再生されてしまう。


ハルゼン

「ちっ!さっきからこればっかだぜ!ったく。」


ユウリ

「……はぁ〜、こら堪忍やけど、あまりにも再生が速すぎますなぁ。これやとキリがありまへんわ。」


トール

「となれば…やはり、あの一際大きい鎖が肝ですかね…?こういうのは、大体大元の核があるものですから…」


カイガス

「吾輩の筋肉もそう言っておるぞ!」


トール

脳筋カイガスは黙っていてください。」


カイガス

「…む?そうか…すまぬ」


ハルゼン

「まぁまぁ、実際…こう言うバカ(カイガス)の感覚が、意外と正解だったりするもんだろ?

 俺だって直感で言ってたしよ?」


クローリス

「そうだねぇ〜時には、考える前に動くのも悪くないよぉ〜。

 ……まぁ、脳みそが筋肉で出来てる人にとってはぁ、それが平常運転なんだろうけどぉ〜?」


ハルゼン

「テメェはあんまり役に立ってねぇだろうが…最初の、レオナールに"任せろ"って言ってた時の威勢はどうしたよ…なぁ?」


クローリス

「えぇ〜?さっき、ボクがブレス止めてなきゃ…みんな生きてなかったかもよぉ〜?もしかして見えてなかったぁ〜?

 おっさん、目まで錆びてきてるんじゃ無ぁ〜い?」


ハルゼン

「……はぁ?テメェ、マジでぶっ飛ばすぞコラぁ!!」


トール

「良い加減にして下さい…はぁ、バカばっかりですねぇ…貴方だけですよ…私と同じくマトモな人間は。

 ねぇ?ユウリ殿?」


ユウリ

「ふふ…せやろか?案外…一人だけやもしれまへんよ…?」


トール

「言いますねぇ〜まぁ、それは置いといて。みなさん、もう分かっていますね?目標はあの一番上の大きい鎖です。確か、ハルゼン殿は壊せる自信があるんでしたよね?」


ハルゼン

「ああ、自信っつうか確信だな。」


トール

「それは良かったです…まぁどちらにせよ、出来なかったら承知しませんが。

 それと、カイガス殿。ハルゼン殿が大きな鎖を壊した後、その他の鎖を出来るだけ一度に壊せます?」


カイガス

「…うむ。どうにかなると思うぞ?あの鎖以外の強度は…存外低いようであるからな」


トール

「分かりました。クローリス殿は、カイガス殿が撃ち漏らした鎖をお願いします。」


クローリス

「はぁ〜〜い。おっまかせあれぇ〜!」


トール

「ユウリ殿は…その狐火をもって、鎖の断面を燃やし続けれるよう…広範囲にお願いしますね?」


ユウリ

「ほな、まかしとき。──ところで、トールはんは…何をしはるおつもりどす?」


トール

「私は、みなさんのように力も強く無ければ、魔術や妖術と言った、特殊な力もありませんから、このような魔導具を、いくつか用意しております…」


 そう言って、トールは様々な魔導具を、懐から覗かせる。


ユウリ

「ふふ…さすが、お金をぎょうさん持ってはりますなぁ〜。」


トール

「これでも、この国随一の財力を持っていますからねぇ〜。伊達に公爵に任命されていませんよ。

 それに、私自身…こう言った物を集める趣味を持っていますので。」


ユウリ

「確か、国内外で幅きかせてはる《アシオン商会》のお方やったはず。

 商会長は…弟さんのオーウェンはんで、間違いあらへんやろ?」


トール

「はい、間違い無いですよ。まぁ、そんな事はどうでも良いんです。始めますよ?」


カイガス

「よし!まずは…吾輩の出番であるな!」


ダンッ……


 カイガスが勢い良く前へと走り出る。


カイガス

「ゆくぞ!…《空牙掌》!!!」


ドォォオンッッ!!!


ドドドドォンッッッッ!!!!


 一度目とは違い、何度も何度も…連続で打撃を放ち続ける。


 これは、魔力に頼らぬカイガスだからこそ可能な、獣のごとき苛烈な連射であった。


カイガス

「まだまだゆくぞぉ!!《空牙掌》!《烈牙砕》!!《穿通牙》!!!《牙衝裂波》ぁ!!!!」


ドォンッ!バァァンッ!ゴォンッ!

ズガガガガァンッッ!!


氷縛龍

「グ……ガァァァアアッ!?」


カイガス

「ガッハッハッハァ!!!愉快、愉快ィ!!吾輩もまだまだ現役よのぉ!!」


ハルゼン

「うわぁ〜ひっでぇな…通常攻撃が必殺技かよ…ゴリラってよりベヒモスじゃねぇか…」


トール

「いくら遠距離から攻撃しても、カイガス殿の衝撃波で封じられますからね。

 しかも一瞬で距離を詰めて、無理やり連打で押し切る。理屈が通じないとはまさにこのことです。」


クローリス

「おかしいなぁ〜あの人確か60は超えてたよね?何であんなに動けるのぉ〜…?」


トール

「あれでもかなり実力は落ちている方だと思いますよ。彼は元々騎士団の斬り込み隊長でしたから。まぁこの場合は殴り込みですかね。」


ハルゼン

「俺だって一応騎士団長なんだがな…自信無くすぜ…」


ユウリ

「懐かしい光景やわぁ〜」


カイガス

「良い感じに温まってきたぞぅ!!!」


氷縛龍

「…グ………グゥラァァァアッッッッ!!!!」


 大気中の温度が一気に下がり、辺りが白く霞み、氷縛龍の口元と翼の先に、無数の氷結結晶が形成されていく。


──次の瞬間、無数の氷槍が音速で放たれ、扇状に結界内を覆い尽くす。


クローリス

「ブレスは封じられるからって手数勝負ぅ〜?でも、それはちょっと悪手なんじゃなぁ〜い?」


クローリス

「いっくよぉ〜

──《水鏡輪廻すいきょうりんね》ぇ〜!!」


 氷槍が鏡に突き刺さる瞬間、その像が鏡面の奥で反転し、次の瞬間──現実の空間に“逆方向から”同じ勢いで飛び出す。

 それはまるで、氷槍そのものが自分を撃った者へと牙を剥くかのようだった。


 砕けた氷が煌めきながら舞い散り、水鏡は再び波紋を広げて消えていく。


クローリス

「ねぇねぇ〜?自分の攻撃が返ってくる感覚ぅ〜どう言う感じぃ〜?」


ハルゼン

「…それが出来るんなら…何でさっきのセクメト相手に使わなかったんだ…?」


クローリス

「仕方ないじゃあ〜ん。これ、結構準備がいるんだからさぁ〜。」


トール

「なるほど…奇襲を防ぐには向かないと…」


 トールは静かに黒色の書を開き、懐から取り出した細身のペンで、さらさらと何かを書き留め始めた。

 その手つきは妙に慣れていて、戦場の喧騒の中とは思えないほど整然としている。


ユウリ

「ふふ…マメやねぇ〜。そない戦の最中まで帳面付けはるなんて、よっぽど記録がお好きなんやなぁ?」


トール

「ええ、記録は大切ですから。事実を残すというのは…何よりも価値がある。」


 淡々とそう答えると、トールは何事もなかったかのように視線を前へ戻した。

 黒色の書のページが、微かに光沢を帯びながら風に揺れた。


氷縛龍

「………コォォォォオオッッ………」


クローリス

「あれぇ〜またそれぇ〜?《フォートレス・バスティオン》〜!」


 先程と同じようにして、クローリスの魔術が氷縛龍の顎下目掛けて迫り上がるが…氷縛龍はその場で停止、そして、首を後ろ側へ素早く移動する事でそれを躱わす。


クローリス

「ありゃ…学習能力高いねぇ〜君ぃ〜。」


氷縛龍

「……グガァァアアアッッ!!!!」


 咆哮と同時に、口腔奥で冷気が渦巻き始める。


トール

「ブレス!来ますよ!!」


ピタッ……


一同

「………?」


カイガス

「止まりおった…」


 氷縛龍は鋭い息を吸い込み、首を僅かに下げたまま、鎖を振るって牽制する。


ハルゼン

「撃たねぇのか?」


 その刹那、鎖の衝撃で戦場の空気が乱れた瞬間──

 蓄えていた冷気を一気に解放。


氷縛龍

「──コオオオオオオオオッッ!!!!」


 まるで音が遅れて届くかのように、視界の端から白銀の奔流が押し寄せる。


ドゴォォォオオオオンッッッ!!!


 轟音が、結界内を大きく揺らす!


氷縛龍

「……グルルル……コォォォオ…」


 再び、ブレスを放たんと…溜め始める。


シュンッ…


 舞い上がる冷気の霧の中から、一人の大男が飛び出してくる。


カイガス

「足元がお留守だぞっ!!」


カイガス

「《穿通牙》!!」


ギロッ…


 氷縛龍は、その男を見やると…ブレスを溜めるのをやめ、その分を右前脚へと圧縮して吐き、その脚を切断する事で、攻撃を回避する事に成功する。


カイガス

「なぬぅ!?」


 瞬時にその脚を再生させ、体勢を崩し掛けているカイガス目掛けて、踏み下ろす。


カイガス

「ぐぬぬぬぬ……」


 両手で、潰されまいと、カイガスは必死に押し返している…


 氷縛龍は、壊れた右前脚に噛みつき、砕く事で、それを左側の太い鎖にぶち当て、粉砕する。


 鎖は再生を開始しようとするが、それよりも遥かに速く、氷縛龍は左前脚を、耐えているカイガス目掛けて振るう…


ブゥンッ……!!


カイガス

(……!?横側からもか!!)


サッ…


ハルゼン

「…士剣・肆承《嵐盾らんじゅん》!!!」


ガァンッ!!


 襲い来る脚と鎖を、嵐の様な荒さで、ハルゼンが全てを弾く。


カイガス

「…助かった!!ハルゼン殿!!吾輩…本気、出しますぞぉ〜!!」


グググッ……


 弾かれた事で少し力が緩んだ隙に、カイガスは今まで以上の力を込めて、押し返す事に成功した。


クローリス

「そのまま止まってなよぉ〜

──《連環水陣チェイン・オブ・タイド》!」


 地面から連なる水の鎖が次々と生まれ、氷縛龍をぐるぐると巻き上げ、天井から吊るす。


氷縛龍

「………っ!?」


クローリス

「なぁに驚いてんのさぁ〜。鎖に縛られるのが趣味なんでしょぉ〜?

 ボクがぁ…もっと強く縛ってあげるよぉ〜。」


ユウリ

「ふふ……そういう趣味は、一人の時にやってもらえまっか?

 ほな、氷縛龍ヴリザードさん、追加…いっときますえ?」


 水の鎖に燃え移った淡い蒼白の炎が、泡を弾きながら鎖の中へとゆっくり浸透していく。

 やがて氷縛龍の体表近くにまで辿り着くと──炎は一瞬で爆ぜ、凍てつく外殻を内側から焦がした。


ハルゼン

「…一気に決めるぞ!!」


タタンッ……


 ハルゼンは氷縛龍を足場にして、高く高く跳躍する。頂上の鎖に近づけば近づくほど、鎖の密度が高くなっているのが見て取れる…


ハルゼン

「しゃらくせぇ!!!

──士剣・捌承《千導せんどう》!」


ズガガガガァンッッッ!!!!


 進むべき道を指し示す様に、幾重にも分かれた光速の付きが、音を置き去りにしながら一瞬にして鎖を粉砕する。


シュンッ…!


ハルゼン

「これだなぁ!叩っ斬ってやらぁっ!!」


ガシガシ…


 その音を刻むたびに、斧の背に刻まれた魔導紋が淡く光を帯び、魔力が柄を伝って後部のコックへと集まっていく。


 背後の魔石が脈動し、刃全体が低く唸った。


 刃先の向こう、鎖の輪が歪み、揺らぎ、まるで未来の断面を見せるかのように映り込む。


ハルゼン

「士剣・陸承《斬嶺ざんれい》!!!」


 カンッ!という鋭い解放音と共に、後部から放たれた魔力衝撃波が、反動として刃へと叩き込まれた。

 その一撃は振り下ろされるよりも速く、突きの形で標的を捉える。


ヒュンッ……ドガァァァアアンッッッッ!!!


 けたたましい音を立てて、最も太い鎖が跡形も無く消し飛んでいく。


トール

「皆さん!今です!!」


カイガス

「承ったぁ!!!」


 カイガスの体を、赤黒いオーラが包み込み、そのオーラが両の拳に集中する…


カイガス

「《震槌覇しんついは》!!!!」


 全範囲へ、赤黒い波動が放出される…ドン…ガン…と大きな音を立てながら、結界中の鎖という鎖を、連続で粉砕し始めた。


クローリス

「ボクもいっくよぉ〜!!

──《重奏・殲嵐クレスト涛刃ブレイカー》ぁ〜!!!」


 高濃度に圧縮された水が刃を成し、荒れ狂う波の如く、鎖を押し砕く。


スゥ…


 氷縛龍は、鎖の再生に全神経を注ぐ。


ユウリ

「させへんで〜!

──《狐焔連華こえんれんか》!!」


 ユウリの周囲に散った数十の小さな狐火が、一斉に空中で花弁のように弾け、炎の輪を描きながら戦場全体へと舞い降りる。


 落ちた瞬間、鎖の断面に根を張るように炎が絡みつき、再生を焼き切っていった──。


トール

「畳み掛けますよ!《大虚たいこ》!」


 トールは懐から半径50cm程の黒色の魔導具を取り出し、起動させる。


ボワッ………!


 全体までは届いていなかった狐火が、その魔導具によって、空間中の鎖を覆い隠す。


ガァァァン!!!!


 一瞬にして、あたりに無数に張り巡らされていた鎖が纏めて砕かれる。


氷縛龍

「グ…グガァァアアアッッ!!??」


ヒュッ……


ハルゼン

「再生…止まったな?…死に晒せぇ!!!」


「士剣!漆承!!《雷哭らいこく》ぅ!!!」


 落下の勢いを利用して、ハルゼンは雷の如く雄叫びを上げながら、氷縛龍の首を斬り落とす!!


ザァァアアアンッッッ!!!!

幾重にも張り巡らされた鎖を断ち切り、

ついに氷縛龍へと刃が届く。


だが、それは終わりではない。

再生を断たれた災厄は、その身に溜め込んだ力を解き放たんとし──

戦場は、なおも緊張を孕み続ける。


その頃、皇都の別の場所では、

もう一つの戦いの火種が、静かに芽吹き始めていた。


──次回、『戦場に残るは、笑みと閃光』

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