反抗してみました。
知ってる天井だ。
あれ?いつの間に家に帰ってきたんだろう。しかも寝間着に替わってるし。
そういえば、昨日みたいに連続して魔力を使ったのは初めてでした。多分その疲れが出たのでしょう。魔力をたくさん使うと疲れるって、よく聞きますから。使った量は大人からすれば、それほど多くないのかもしれませんが、この子供の体が耐えきれなかったのでしょう。
私、あんまり精神と体のバランス取れてないですし。やりたいことが一日で一気に出来ないなんて事がしょっちゅうありますしね。
コンコンと扉がノックされました。そして入ってきたのはサリオでした。
「お嬢様、おはようございます」
「おはよう」
「あら、もう起きていらしたのですね。珍しい」
「一言余計よ。たまには一人で起きるわ」
「さ、せっかく早く起きたのですから。身支度などを済ませてしまいましょう」
ベットを降りて、ルームシューズのようなスリッパを履くと、寝室を出ます。
たいていの貴族の部屋は、大きなリビングを中心として、お風呂やトイレ、寝室が隣接しています。前者や後者に行くには絶対にリビングを通らなければなりません。人によっては更に部屋があったりしますが、私は一般的な方です。一般的とは言いますが、庶民の部屋とは全く違いますし、ばかでかいです。流石貴族。
面倒くさいのは、トイレとお風呂、寝室の間にリビングがあって、起きた後とかに顔を洗ったり、寝てるときにトイレに行きたくなったりしても、すぐに出来ないところですかね。
「お嬢様、腕を上げて下さい」
「はぁい」
この国の服装は、女性がスカート・ワンピースで、男性がズボン・オーバーオール。オーバーオールは平民の農業をしている人しか着ないので、一般的にはズボンです。女性もスカートを履くこともありますが、だいたいの人がワンピースですね。
ワンピースはてろんとしたロングTシャツがマキシ丈くらいになったようなもので、腰の辺りでなく胸の下辺りをベルトで締めます。これがこの国の一般的な女性の服装、と言うか部屋着ですね。これで街を歩いてもおかしいことはありませんが、少々抵抗がある程度の服です。もちろん、制服やおしゃれ着なども存在しています。
この国は年中暖かな気候なので、布は基本薄地。露出が多くても、破廉恥だとは思われません。北の方の人たちからは、恥じらいがない、と言われるそうです。
でも残念ですね。柄がないんですよ。フリル・レース・ボタン・リボンなどはありますが、プリント技術はないようです。あ、でも刺繍とかが細かくて、地味な印象は全く持ちませんね。
ま、うちの私服は刺繍なしですけど。
「ふあぁ~」
「淑女たるもの、あくびなんてしてはなりません」
「でもあくびは生理的現象でしょ?淑女だろうと関係ないわ」
「生理的現象……一体何処でそんな言葉を覚えたのか」
前世です。
もう、嫌われるなんて気にしてられない。期限はあと5年。やることはたくさんある。まずやることは何だろう。学校に入れるのは10歳からだし、社交界に出るのは15歳だし。
やっぱり、国の現状を確かめに行くべきでしょうか。
◇ ◇ ◇
「街に行きたい……?」
「………え?」
「………デイル、後でお話があります」
「マリア、落ち着いて」
「そうね。今からにしましょう」
「違うよ、考え直して、お願い。やめて」
いつの間に我が家は恐妻家になったのでしょうか。二日連続で朝食の場に不穏な空気が流れ始めました。特にお母様の方から。蜂蜜色の目が怪しく光っています。あれ、おかしいな。背中から何かどす黒いものが出てるように見える。
お父様、昨日の威勢は一体何処に行ったのですか? え、北? じゃあ凍えてそうですね。私たちは寒いの苦手ですから。今日は取りに行ってきましょうか。何処に飛んで行ってしまったのでしょうね。お父様の威勢。あ~、でも探すの大変そうだな。止めとこ。
おや、そうこうしているうちにお母様がお父様を制圧したようです。
……国王<お父様<お母様?
一度この国の身分制度を見直してみましょうか。
「それでミディ。何でいきなり街になんて……」
兄様は家で一番まとものようです。お父様とお母様はまだじゃれ合ってますね(恐ろしい意味)。
「社会勉強です」
これが一番正しいでしょう。それに書類が正しいのかどうかを調べるためにも、自分の目で確かめた方がいいですしね。これぞ正しく、百聞は一見にしかず。
「でも、外は危険すぎる。ミディはまだ小さいし、女の子だし」
「小さかろうと、女であろうと関係ないよ」
女だからとか、まだ小さいからなんて、言い分けにならない。出来ることは全てやります。
「それに、私は魔法が使えるんだから。安全面には何ら問題な―――」
「大ありよ」
「お母様!」
私に反論したのはお母様でした。安全面で反対してくるなんて、思っていませんでした。お母様は私の魔法の師。私の実力を誰よりも知っているはずです。
「何故ですか!貴女が私の実力を一番知っているはず」
私が弱いとでも思っているのですか。まだ私が何も知らないただの子供だと思っているのですか!
「ええ、知っているわ。だから止めたのよ」
「知っているなら何で止めるんですか」
「貴女がまだ弱いからよ」
カッと目頭が熱くなりました。
私が弱い?
弱いの?
宮廷魔術師級の強さを持つ私が?
弱い?
そんなわけ無い。
そんなはずない。
…………分からせてやる。
「ミディ、それが貴女の弱点よ。感情を制御しきれず、隙を作ってしまうところ」
「っ!」
体が動きません。これは、まさか―――
私はキッとお母様を睨みました。
「そうよ、これは貴女が創り出した魔法。確か空気抵抗を強くして、相手の動きを止めるのでしたっけ?自分の創った魔法にかかるなんて、間抜けね」
「……」
「どう、分かった?貴女の弱点。相手の言葉に惑わされて、感情のまま行動してしまう。昨日の一件もそう。それにね、貴女は魔法に頼りすぎているわ。万が一、魔力を使いすぎて倒れたとき、どうするの?それがもし敵陣の中だったら?」
「……」
「この欠点が直るまで、絶対街には行かせません。いいわね」
「……はい」
「よろしい。食べなさい」
「……」
いつもはおいしいと思う料理は、砂の味がしました。
ショックでした。お母様は、私が強いと思ってくれていると思っていましたから。……私のただの思い込みだったようです。
でも、それとこれとは違います。
私、子供らしくちょっと暴走してみたいと思います。
◇ ◇ ◇
部屋に戻ったら、早速作戦開始です。
「ねぇ、アサリ」
「何ですか?」
「貴女の私服を貸してちょうだい」
「はいはい、ただいま―――って、ええ!?」
「しー、声が大きい!」
ばれたら一体どうする気ですか!
「いいですけど、何に使うんですか?」
「街に行くの」
「それって今朝奥様に禁止されたじゃないですか」
「そんな事聞いていられないわ。早くこの国の現状を知りたいのよ」
「ええ……。でも、そんなの直ぐにばれますって」
「大丈夫。私にいい考えがあるの」
アサリを取り込めたようです。
「どんなのですか?」
…………案外ノリがいいですね。
2014/11/01 編集