異文化交流~食事編~
数分後・・・。
「いや~、それにしてもなぁ・・・」
台所からジークのニヤニヤとした、愉快気な声が聞こえてくる。
「まさか、あれが東の方では礼式の一種とはねぇ。世界は不思議でいっぱいだわな。俺はてっきりミアがノエルちゃんを折檻してるのかと思ったわ~」
「・・・」
「・・・・・・」」
その後、室内の気まずげな空気は、ジークの入室に気づき顔を上げた彼女が、そのポーズはなんなのかというジークの問いに答えることによってあっさりと払拭された。
信じられない話だが、なんと彼女がしたこちらでいうところの奴隷のようなポーズは、東の方では恭儉の意を示したり、謝罪や請願の時などに行う礼式の一種らしい。
「まぁ、こっちの文化を知らなかったんじゃしょうがないって。まぁ、あれだ。ちょっとした異文化交流だったんだよ、なぁ」
「・・・いい勉強になった」
そう答えるのが、今の私の精一杯だった。
「っし、出来たぞ!じゃ、今度はノエルちゃんに俺らの文化を知って貰おう」
ジークはそう言うと、台所から様々な料理をもってきた。
「!・・・」
テーブルの上に並べられた料理の数々に、彼女は微かではあったが初めて年相応の笑顔を見せた。
「今日来たばっかじゃ、食堂は緊張するだろ?なんで、本日はノエルちゃんのために、不肖このジークが腕を振るわせていただきました」
ジークは従者のように、冗談めかしたポーズで一礼した。
そう、ジークは学院に来たばかりの彼女に気を使って、食材を手に部屋にやってきた。
私はそこまで気が回らなかった。
普段ちゃらんぽらんなくせに、大事な時にこういう気遣いができるジークには素直に頭が下がる。
「右から、エスカルゴの香草バター焼き・馬鈴薯のポタージュがけ、タルト・フランベ(フレッシュチーズと季節の野菜と茸のピザ)、シュークルート・ガルニ(ソーセージとスペアリブ・発酵キャベツ添え)、パンは食堂から色々貰ってきたから好きなの選んでくれ」
ジークが用意したのは、この地域の伝統料理の数々だった。
悔しいが、相変わらずどれもおいしそうだ。
しかし、彼女は初めこそ笑顔だったが、困惑した様子で一向に食事に手を付けない。
どうしたんだ?
「ノエルちゃん、どうした?遠慮しないで食べてくれ」
「・・・・・」
「ひょっとして苦手なものでもあったか?なら、食べられるものだけでもいいんだぞ?」
私なんかは、味はともかくとして、エスカルゴは見た目のせいでどうも苦手だ。
しかし彼女の問題は、私が想像したものよりももっと根本的なものだった。
「・・・・ない」
なに?
私はジークに視線を送った。
彼女は一体何を言っているんだ?
ナイフもフォークも目の前にあるぞ?
「あ!悪い、忘れてた」
しかし、そんなノエルの言葉にジークはすぐさま何かを理解したのか、台所に行き何かを持ってきた。
二本の木の棒?
「ノエルちゃんはこっちだった。ほいよ」
そして、ジークはその木の棒を彼女に差し出した。
それを見た彼女の顔が微かだが安堵のものに変わった。
「・・・・(コク)」
彼女はジークから木の棒を受け取ると、なんとそれを使って器用に料理を口に運んだ。
「!」
彼女は控えめな、しかし満面の笑顔でジークの手料理に舌鼓を打った。
「美味いかっ!そいつは良かった、遠慮しないでどんどん食べてくれ。ほら、ミアも」
「あ、あぁ、そうだな」
私も彼女に倣い、ジークの料理に口をつけた。
ジークの料理は、相変わらず悔しいほどにおいしい。
しかし、今はそんな感想より彼女の、もっと言うと彼女の使うあの木の棒ついてだ。
あの木の棒はなんだ?
「(<ヤマト>にはナイフもフォークもないんだってよ。全部あの<ハシ>っていう食器で飯を食うんだってさ)」
私の視線に気づいてか、ジークがこっそり教えてくれた。
「(あぁ、それでか)」
私はその言葉に納得した。
確かに、初めてナイフとフォークを見たのなら戸惑うだろう。
仮に、私もあの<ハシ>で食事しろと言われたなら、やはり先程の彼女以上に困惑したであろうから、彼女のあの戸惑いは当然のものだ。
「(しかし、<ハシ>なんてどこにあったんだ?私の部屋にはなかっただろう?)」
「(食堂で借りた。なんかウチの料理長ソッチ方面のマニアだったらしくてな。わざわざ教えてくれて、気前よく自前の<ハシ>を貸してくれたんだ)」
「(ほぅ。そうか、それは運が良かったな。私も後でお礼を言っておく)」
しかし・・・。
私は改めて、彼女の手にした<ハシ>なるものを見た。
『あれが食器とはな』
普段食べなれた料理はずの料理も、彼女の<ハシ>捌きによって全く違った料理に見えるから不思議なものだ。
『今日は、本当に驚きの連続だな』
この時、私はまだ知らなかった。
この後に、それ以上の驚きがあることを・・・。




