彼女の衝撃の真実
翌日。
「・・・」
ノエルは感嘆の表情をもって、目の前に広がる光景を眺めている。
「どうよ。なかなか立派なもんっしょ?」
「なぜ、お前が自慢げに言うんだ」
私、ノエル、ジークの三人は学外の商業地区に来ていた。
事の発端は、昨夜の夕食後まで遡る・・・。
「ラナさんとさっき話したんだが、ノエルちゃんが正式に俺らと一緒に講義受けるのは一週間後だってよ」
食事を終えひと心地つくと、ジークがそう話を切りだした。
「一週間後か」
「あぁ、それまでの間に、俺とお前でノエルちゃんにここでの生活に必要なことを色々教えといてくれってさ」
ジークはそう言うと、懐から一枚の紙を取り出した。
「つうわけで、ノエルちゃん。まず、今後の参考のために今からこれをやって欲しい」
「・・・・・?」
彼女はジークが取り出した紙をしげしげと眺めた。
「これは、認識魔術の術式が組み込まれたもんでな。これに、血を一滴与えると、その人の大雑把な基本能力とかが浮かび上がってくるんだ。こんな風に」
ジークはそう言って、自身の指をナイフで少し切り、血を一滴垂らした。
血を飲み込んだ紙はかすかに輝き、次の瞬間には、何も書かれていなかった紙に文字が浮かび上がってきた。
それは以下の通りである。
【 ジーク・ベルンハルト:男性:身長176cm、体重75kg:属性・風
身体能力B:戦闘能力B:魔力C:適正魔術系統・付与魔術 】
「専門的なところで調べれば、もっと詳しく分かるんだけどこの紙の精度だとこんなもんかな。ノエルちゃんもやってみてくれ」
「・・・・(コク)」
彼女はジークから新しい紙とナイフを受け取ると、意外にも躊躇することなく自身の指を切り、先程ジークがしたように自身の血を紙に垂らした。
すると、先程と同様に紙が輝きを放ち、文字が浮かび上がってきた。
【 ノエル:女性:身長135cm、体重29kg:属性・全
身体能力F:戦闘能力F:魔力E:適正魔術系統・無】
私と横にいたジークは、浮かび上がってきた文字に絶句した。
「これは・・・(マジ、だったのか)」
「あぁ・・・(想像以上だ・・・)」
身体能力・戦闘能力は最低ランクのF判定。
普通に生活している一般人ですらE~Dあたりの数値を出すのを考えると、非力としか言えない。
保有魔力についてもEと一般人よりあるほうだが、しかし、それでも魔法学院に入学するには最低でもDは必要なのを考えると、こちらも・・・。
はっきり言って、彼女が提示した全ての数値は予想以上に低い数値だった。
しかし・・・。
「(けど、全属性ってのは、かなりレアだな)」
「(まぁ・・・それは、確かに)」
そう、ジークの言うように能力値は低いものの、彼女の属性はとても珍しいものだった。
属性というものは光・闇の二大属性、火・水・土・風の精霊四属性、または精霊四属性から派生した属性。
通常、人はこれらのどれか一つ、多くても二つ位までしか保持していない。
しかし、彼女の属性は違う。
全属性。
これは、文字通り彼女が全ての属性の力を有しているということを意味している。
しかし、これは魔術の探究をおこなうものからしたら、大変魅力的なことである。
属性と魔術には密接な関係がある。
基本的な魔術を除いて、大掛かりな魔術というものは、魔術師本人の力量とは関係なしにその魔術師自身の属性に付随した魔術しか行使することができない。
例を挙げるなら、風属性のジーク。
力量さえあれば、ジークには台風クラスの威力の風を操ることが出来る。
しかし、自身の属性とは無関係の火の魔術をジークがやろうと思えば、松明の灯り程度の炎を出すことは出来ても、それ以上の威力の炎を出すことは出来ないのである。
しかし、彼女の全属性というものはすべての属性の力を兼ね備えているものなので、そのような制限が発生しない。
故に、魔術の探求を行う者にとってみれば、彼女の属性はとても魅力的なものなのである。
「(・・・しかし)」
ただ、文献でしか見たことない珍しい属性とはいえ、彼女の場合、この低い魔力数値では有効活用できないだろう。
はっきり言って、宝の持ち腐れと言わざる得ない。
・・・それに。
私は紙に記されている最も気になる部分に目を向けた。
【適正魔術系統・無】
「・・・ノエル、今更な確認だが。君は今まで他の魔法学院で魔術を習っていたことはあるか?」
私は、まさかという気持ちで彼女に尋ねた。
「・・・(フルフル)」
しかし彼女から帰ってきた答えは、そんなまさかなものだった。
半ば予想通りの答えではあっても、やはり衝撃を受ける。
「・・・誰かに教わったことも?」
「・・・(フルフル)」
「・・・自分で学んだことも?」
「・・・(フルフル)」
そして、質問を重ねれば重ねるほど私の中で疑念と不安が降り積もっていく。
・・・何故入学出来たんだ、君は。
・・・いや、何故彼女の入学を許可したんだ、学院は?
「(・・・ジーク。今までの話、それに適正魔術系統がないということは、やはり・・・)」
「(・・・あぁ、だろうな)」
ジークも、どうやら私と同じ考えらしい。
私は信じられない思いで、目の前の彼女を見た。
「(彼女は、何の魔術も使えない・・・ただの女の子、だな)」
魔術の行使には魔力が必要だ。
しかし、魔力があれば誰でも魔術が使えるということではない。
精霊の存在を認識すること、自身の魔力の流れを把握すること、周囲の魔力を体内に取り込むこと・・・などなど。
魔術の行使とは、《予科》での講義やそれに類する書物などによって専門的な知識を身に着けない限り出来るものではない。
まぁ、稀に、それらを全て天性の感覚で行い、魔術を行使することが出来る天才もいるにはいる。
しかし、適正魔術系統がないと表示されていることから、彼女はそうした存在ではないことは分かる。
適正魔術系統とは、文字通りその人物が今現在使うことが出来る魔術の中から最も適正がある魔術系統を選び出したものである。
魔術系統は全部で四系統。
火・水・土・風、そしてそこから派生した属性の魔術は精霊魔術。
浄化や降霊術といった光の属性の魔術は神聖魔術。
呪いなどの闇の属性の魔術は暗黒魔術。
物質に自己の魔術を付与する付与魔術。
ただ、この適正魔術系統の判定は、認識魔術によって表示された他の情報と違い、非常に大雑把なもので、その人物が使える魔術が一つだけで他に比較できる魔術が使えない状態であったとしても、何らかの魔術が使えたのなら、本当の意味で適正があるかどうかにかかわらず、その魔術が属する魔術系統が表示されてしまう欠点がある。
けれど、にもかかわらず、適性魔術系統が無しと表示されるいうことは・・・。
彼女は何の魔術も使えないということを意味する。
つまり、目の前の少女は珍しい属性に生まれただけで、普通の子供と大差ないということである。
「(・・・・・・・・・・・ジーク、どうする。いや、どうしたらいいんだ)」
「(ん、なにが?)」
「(「なにが?」じゃない!今後についてだ。私達は彼女の監督役。私達には彼女が学院で上手くやっていくのを助ける義務があるんだぞ!)」
「(義務って・・・お堅いなぁ、もっと気楽に考えろよ)」
「(お前はもっと真剣に考えろ!《本科》は《予科》と違って“実戦”があるんだぞ)」
《予科》と《本科》。
この二つの違いは“実戦”の有無である。
《予科》での魔術を使用した戦闘演習は、教師の立会いの下で行われる生徒同士の対戦試合だけである。
しかし《本科》ではそれに加えて、学院側が生徒に普段の課題とは別に用意した〈クエスト〉と呼ばれる学外演習がある。
この学外演習は、街の人々への奉仕活動といったものから、街の近隣に出没した魔物の討伐といった危険なものもある。
そして・・・。
「(まぁ・・・《予科》の頃と違って《本科》の演習には学院の教師は立ち会わないしな)」
「(そうだ。なら、分かるだろ?魔術を使ったことのない人間・・・そんな人間が、ここでの生活を送るというのがどんなに危険なことなのか)」
「(・・・だよなぁ)」
すると、ジークは何を思ったかジッと考え込んだ。
そして、しばらくして呟いた。
「・・・なら、やっぱ・・・しゃあないわな・・・」
「ジーク?」
「よし!」
ジークが突然明るい声を上げた。
「明日は、買い物に行くぞ!」




