第十六話:シヒトゥート
「本当はもっとお前と戯れ、情報を聞き出したいところだが。」
ソロモンはゆっくりとガマルの方へ歩んでくる。
ガマルは息を整え、身体を立たせようとする。
(駄目だ…。ダメージが、凄まじい。)
ガマルはふらつき、右手でも身体を支えた。
「生憎私はそろそろ時間だ。」
そう言うとソロモンは、右手の手のひらを天井に向けた。そのまま、右手の全指の第二関節をゆっくり曲げる。
すると、ソロモンの手のひらから原油のような漆黒の液体が溢れ出した。
漆黒の液体は地に零れていき、ゲーセンの床に沁み込んでいく。
「最後に、この技を試させてもらう。」
液体が溢れなくなった。右手に残った液体が全て地に沁み込んだ。
ソロモンは天井に向けている右手を地に向けた。
「堕落。」
ガマルの足元から漆黒の液体が溢れだす。
液体は空気中を登っていき、ガマルの身体を下から包んでいく。
(駄目だ…。何も抵抗できねぇ。)
ガマルはゆっくりと目を閉じた。そのまま、黒く染まった地に倒れ込んだ。
「さぁ、見せてもらおうか。出力大幅制限中の堕落の強さを。」
ガマルを黒い液体が包み込んだ。
それを確認したソロモンは、右手を一気に閉じた。
「さようならクソ神。」
ソロモンは目を細めた。
ゴキッ!!
ソロモンの右手に呼応するように黒い液体が一気に圧縮された。
黒い液体は米粒程度の大きさとなり、しばらくして塵となって消えてしまった。
「悪くないな。実戦でも十分に使えそうだ。」
◇◇◇
気が付くと、周囲がとんでもない状況になっていた。
押し倒されていたり、破壊されたりしているゲーム台。ひび割れまくっている壁。赤黒くなっている床。
この前の襲撃を彷彿とさせるような跡だった。
しかし、肝心の化け物の肉塊がない。
「ソロモン。あの化け物は?」
『あの蟷螂か?堕落で消滅させた。』
「シヒトゥート?」
『我の呪文の一つだ。封印が緩んで簡単な呪文が使えるようになったから、試しに使ってみた。』
「なるほど。ああ、そうだ。」
『何だ?』
「ありがとう。」
ソロモンは少し間をおいて言った。
『感謝されることをした覚えはない。』
◇◇◇
天界「ラファエルの宮殿」
ラファエルは机に座り、山積みにされている書類を一枚一枚捌いていた。
あの出来事から20年。天界の状況は依然として変わっていない。
天界の紛争の勢いは留まるどころか勢いを増してきており、増援依頼が次々と舞い込んでくる。一方の冥界は、ソロモンが一部の凶悪な冥界の化け物を倒したため神員にわずかな余裕があった。
ラファエルはそれを天界の紛争平定に回そうとしたが、天界部隊の猛反発に合い渋々やめた。
そのため、今はそれをソロモン捜索に当てている。
「ったく、別に同じ神で同じ組織なんだからいいだろ。何で駄目なんだよ。」
ラファエルはぶつぶつ文句を言いながら仕事をこなしていた。
そんな時、部屋の扉の向かい側から何度も扉を叩く音が聞こえた。
「いるよ。入ってどうぞ。」
ラファエルがそう言うと、扉が勢いよく開き、純白の羽を生やし、銀色の鎧をまとった男神が入ってきた。
「失礼します。ガブリエル様からの報告です。」
ラファエルの手が止まった。
「何て?」
「地上に送った100神のうち、2神が戻ってこないとのことです。」
(地上で2神が消えた?考えられるとすれば…。)
「あれから20年か。」
ラファエルは呟いた。
「20年?20年前といえば、あの大罪神ソロモンが地上へ逃げた年。」
「そうだ。」
ラファエルは顎に手を当てた。
(想定よりも早いな…。)
ラファエルの額から汗がにじみ出す。
「伝令部隊全員に伝えろ!」
「はい!」
「これより私が出てくるまでこの宮殿内に入ることを禁ずる!」
「しかし、「わかったなら行け!」
「は、はい!」
男神は大急ぎで部屋を出ていった。
ラファエルは止まっていた筆を走らせ始めた。
次回が(一旦)最終回です。




