第十三話:ハ・シグラー・シェヒシュタネター
神に襲われたあの日から1週間が経った。
ソロモンと話す前と比べてあらゆることが変わった。
まずは起きる時間。今までは昼過ぎに起きるような状態だったが、脳内であいつが起こすようになってから7時前に起床するようになった。最初の方はあまりの眠さに二度寝しようとしてソロモンに止められるといった感じだったが、今はその時間に起きても身体への負担はあまりない。
朝っぱらに起きるようになったことで、昼までの長い時間は本を読むようになった。本当は読みたくないのだが、ソロモンに色々と言われ面倒くさいので渋々読みに行く。
基本的には図書館へ行くのだが、月曜日が閉館なのでその日は大きめの本屋へ立ち寄る。
基本的に本屋や図書館に立ち寄ると神話関連の本を読まされる。
最初の方はソロモンに関する記載がある聖書やコーランといったものを読まされていたが、ここ最近はソロモンに全く関係ない神話のものまで読む羽目になった。
曰く『天界のクソ神の情報が欲しい』とのこと。
昼前まで本を読むと、お腹がすくので付近のチェーン店に立ち寄り、腹を満たす。
最近はソロモンに「また同じものか。飽きないのか?」と言われるが、俺は全然思わない。腹を満たせればそれでいいという考え方からだと思う。
午後にやることは主に3つ。
「ゲーセンに行く。」「図書館に戻る。」だ。
今までの自分は「図書館に戻る。」が「寝る。」だったが、ソロモンに「睡眠は日が沈んだ時に行うものだ!日が昇っている時に寝ることは許さん!」と怒られるので、図書館に戻る。
家に帰ってもスマホ見てだらだらするしかないし、バイトは一か月前に辞めてしまっている。
なので、財布の中の状況や時間を見てゲーセンに行くかを判断している。
ゲーセンに行くとマタタビがスピードタップをやっている。どうやら、近々そこそこ大きなオフ会があるらしく、そこで成績を残すために頑張っているのだとか。
次々とさばいていくマタタビの隣で俺は細々とプレイする。
プレイ中のソロモンはうるさく、集中力が削がれる。
『遅い!取れてないぞ!』『その指さばきでは出来ぬ、~な感じでやったらどうだ?』
やったことないくせに、上から目線でやいのやいの言ってくるのが嫌になってくる。
だが、その意見を素直に聞くと出来るようになってしまう。
やったことないのに、何で的確なアドバイスができるのか理解できない。
本人曰く『無駄な動きや無茶な動きをしているからそれを指摘している。』そうだが、何で無駄な動きをしているということがわかるのか謎すぎる。こいつ僅かな聴覚と口、文章化されている記憶を読み取ることしかできないのに。
一通り遊んだり、本を読んだりして家に帰り晩飯を作る。
ここ最近は自炊をするようになった。時間に空きがあるのと、動画サイトで動画を見ていると自分で作りたくなってくるからだ。
食材を買いにスーパーに行き、値段が一番低いものを購入する。
家に帰り、動画を見ながら作ってみる。思った通りにいかなかったりするが、ソロモンが脳内からアドバイスしてくるので最終的にうまくいく。ソロモン怖い。
腹を満たし、シャワーを浴びる。
鏡を見るたびに、腹の文字が目に入ってくる。なんて書いてるかわからないが、ソロモンもなんて書いているか把握していないとのこと。ミカエルがブツブツ言いながら書いていたことは覚えているとだけ言っていた。
食器や料理器具を洗い、服の洗濯を開始する。
洗濯中は暇なので、スマホに入れてあるゲームを何となくやる。
どのゲームもガチ勢といったほどではないが、初心者や中堅よりかはやっていると思っている。3つほど入れているが、全て入れてから毎日やっているからだ。
ソロモンはこの時間は口出ししない。
話しかけると反応してくれるが、基本的にこの時間帯は黙っているので部屋が静かになっている。
洗濯が終わり、服を干してまたスマホに戻る。
しばらく時間を潰していると、二十二時前あたりでソロモンが
『もう寝ろ。』
と言ってくるのでそれに従う。
最初は深夜に寝ていたので反抗していたが、反抗すると面倒くさいので従うようになった。
生活リズムが早まったので、ソロモンが話しかけてきた時間にはしっかり眠気がやってきているためだ。
ベッドに入って就寝。こうして俺の新たな日常は終わる。
普段よりも縛られている日常。
欲求のままに過ごしていた時と比べて、メンタル面が安定していると感じる。
実際マタタビに、
「わっほいなんか雰囲気変わったよね。」
って言われた。
俺はそれを聞いたとき、変な嬉しさを感じた。
色々うるさいし、権力者ぶっていることに腹が立つソロモンだが、なんだかんだ感謝している。おかげで毎日が、楽しいとまではいかないが普通に送れるようになった。
こんな日常が、しばらく続いてほしいと思った。
◇◇◇
それは、8月が終わろうとしていた時だった。
いつものゲーセンに向かっているが、人の流れに違和感がある。
自分の進行方向とは逆の方向に人が流れている。それも、普段よりも早く。
『ウルよ。』
ソロモンが神妙な口調で言ってきた。
「どうした?」
『近くにクソ神がいる。』
俺は急いで周囲を見渡す。だが、そこに化け物らしき姿は見当たらない。
「どこにいる?」
『ウルの向かっている方角だ。』
俺は激流に逆らうように、神がいると思われる方向に向かった。
「何でわかるんだよ?」
人ごみを避けながら聞きそびれたことを聞いてみた。
『封印中の我でも感じられるほど気配がある。…この感じは、誘っているな。』
「誘う?」
『我をおびき寄せ、仕留める策だろう。』
「それってさ、逃げるべきなんじゃねぇのか?」
『駄目だ。そうすれば地上の民を根絶やしにする方向に切り替える可能性がある。我が向かって、無実の民の被害を最小限にせねばいかん。』
「なるほど。流石王様。」
『王として当然のことだ。』
「なら、急がないとな。」
俺は速度を上げて進んでいく。
今の自分は、ヒーローのような感覚だった。
「着いたぞ。」
ゲーセンの入り口からは、ダムが決壊したかのように人が溢れている。
溢れている人を必死に制御しようと警察の人が誘導しているが、流れがすさまじくあまり上手くいっていない様子だった。
『部外者が入ってきたら面倒なことになる。行くぞ。』
「ああ。」
俺は息を整え、決壊したダムに向かって飛び込んでいった。
「おいそこ、そっちはダメだ!誘導に従いなさい!」
奥から警官の声がした。
『気にするな、行け。』
俺は警官の声を無視し、神が待ち構える場所へ入っていった。
建物に入り、激流の影響が少ない壁端で状況を見る。
中央部の通路は逃げ惑う人でいっぱいだ。。建物の端では、激流からはじき出された人や、怪我をした人が入り口を眺めていた。
「入ったぞ。で、どこにいるんだ?」
『この反応…、上の階だ。』
「上の階?でもどうする?これじゃ上へ行けねぇぞ。」
改めて周囲を確認してみる。
すると、小さな扉から人が数人出てきて、激流の方に向かっているのが見えた。その扉をよく見てみると「非常口」と書かれており、お馴染みのマークも描かれている。
「あれだ。」
俺は非常口の方へ行き、扉を勢いよく開けた。
金属製の折り返し階段がかなりの高さまで続いている。階段からは金属音が聞こえてこないため、今は誰もこの階段を使っていない。
誰もいない階段を上り始める。一人だけの空間に金属音を響かせながら、ひたすら上っていく。
「反応があった階に着いたら教えて。」
『わかった。』
激流によって疲れ気味の足を鼓舞させながら、上へ進んでいく。




