第十一話:ラファエル・ベエイネイ・ハアダム
しばらく歩き、午前中にいた図書館に戻ってきた。
入り口を開け、中に入っていく。
「一応聞くけど、どこへ行くんだ?」
『先ほどの続きだ。』
俺はエスカレーターの方へ向かい、三階へ上がった。
三階にたどり着くと、既に勉強スペースは学生が占拠していた。
シャーペンを持って書き込んでいるやつもいれば、ノートを広げ、その上で熟睡しているやつもいる。
自分もちょっと寝たくなってきたが、二度寝の時にされたことをしてくる危険性があったので軽く身体を動かして身体を覚まさせた。
神話スペースに入り、先ほど読んでいた本が置いてある場所へ向かった。
本棚にその本はしっかりあった。まぁ、こんな本を読む奴なんてよっぽどのもの好きだから、取られることはないだろうと思っていたけど。
午前中に座っていた場所へ座り、目次のページを開ける。
「どこから読む?」
『ラファエルについてだ。』
俺はラファエルのページを開いた。
最初のページには、羽を生やしたきれいな美男子が魚を持っている絵があった。
「ラファエルってどんな神だったんだ?」
気になったので、俺はソロモンに聞いてみた。
『「癒シの神」だ。』
「癒しの神?いい神様じゃん。」
『いや…。』
ソロモンは言葉を濁した。
「『いや』ってどういうことだ?」
『…正直言って、ミカエル以外の四大天使の情報はあまり持っていない。だから少しでも知識を得ようと読んでいるのだ。』
「…そうだったな。」
俺はまたラファエルの項目を読んでいく。
既に分かっているなら、読む必要がないのは当然だ。
『だが。』
ソロモンが急に口を開けた。
『奴については知らないが、やつの姿を見たことはある。』
ソロモンは重々しく言った
『ラファエルは、こんな優しい風貌ではない。』
一通りラファエルの項目を読み終えた。
しばらく読んでいたが、疲労感があまりない。普通にのめり込んでしまった。
読んでいると、神話を面白く感じてくる。
俺たち地上の人間には想像ができないほどの大規模な戦いや、世界の創造、終焉といった厨ニ心をくすぶられる。
だが、そんな感情を抱いている俺に対しソロモンはずっと不満げな反応をしていた。
何でそんな不満げなんだ、と聞いてみると、
『ウルが思っているほど神の世界は素晴らしいものではない。』
と言ってきた。
ソロモンが勝手に根に持っているだけだろって煽っても、
『天界という楽園に住み、遊び感覚で地上に干渉しまくっているんだぞ。我々からしたら溜まったものではない。』
と言っていた。
正直実感はわかなかったが、それを感じたからソロモンは神々に挑んだのだろう。
一通り読み終えたので、俺はソロモンに聞いてみた。
「地上の人間って、天界に干渉できないのか?」
『基本無理だ。』
「基本無理?例外もあったの?」
『神を深く信仰し、全てを神にささげたものは、転生して天界に行くことができることがある。』
「なんだそれ。結構いいじゃねぇか。」
『まぁ、ほぼほぼ冥界送りだろうな。』
ソロモンはあきれ気味に言った。
ソロモンの口からしか聞いていないためよくわからないが、天界も大変なんだなって思った。
「次どこ読む?」
『そうだな…。我はもういい。』
そう言われても、自分は読みたいものないっつーの。
読んでいた本を閉じ、元あった場所へ本をしまう。
神話スペースを出たので、スマホで時間を見てみる。十五時三十四分。意外と長い間読んでいたんだなって思った。
図書館を後にしようとしたが、入り口付近にあったとある本が目に入った。
『幻獣大辞典』
表紙には、ドラゴンや青い肌の巨人、上半身が人間で下半身が蛇といった化け物がカッコよく描かれていた。
小学生向けの場所にあったが、何となく読みたくなったので手に取った。
そして、空いてある読書スペースに座り、図鑑に描かれてある化け物たちを眺めていた。
幻獣図鑑は読んでいて全く飽きなかった。
ページをめくるたびに見たことのない形状の化け物が次々と出てくる。
中には「実在したら生きていくの大変やろ。」って突っ込みたくなるようなやつもいる。だが、その異様な形状が、俺を図鑑の世界に引き込ませる。
図鑑を読んでいると、「ソロモン」という単語が出てきた。
「ソロモン、これって。」
『ん、どれどれ。』
ソロモン72柱。72を「ななじゅうふた」と読むことに若干の違和感がある。
『ほう。地上ではそう呼ばれているのか。』
「この前話していた『72の神』ってこれのことか?」
『ああ。我を支えてくれた72の神々だ。』
だが、この書物では悪魔と書かれている。ソロモンに敗北し、「ソロモンの指輪」に封印されているらしい。
『そうか…。そうなのか…。』
ソロモンは呟くように言った。
「何?」
『何でもない。気にするな。』
ソロモンがぼかすとは珍しい。何かあったのだろうか。まぁ、そう内分かることだろう。
俺は次のページをめくった。
図鑑を読み終えた時、空はオレンジ色になっていた。
スマホを取り出し、時刻を確認する。十八時。ここの閉館が十九時なので、もうそろそろ出た方がよさそうだ。
読書スペースから離れ、本を元々あった場所へ置いた。
久しぶりの図書館だったが、かなり楽しむことが出来た。ありがとう。
俺は図書館を後にした。
外へ出ると、スーツ姿の人たちがぞろぞろと歩いている。肩を組んで飲みの話をしていたり、汗を拭きながら早歩きで通り過ぎていくひとがいたりするものなど、スーツ姿でも様々な種類の人がいる。
俺はサラリーマンの波の中に入っていく。
間をすり抜けるようにして進む。身体を横にしてやっとの細さなのでかなり息苦しい。
何とか帰宅ラッシュの波を乗り切ったが、その先にはおしゃれした若者の人が集まっていた。
「やっぱり苦手だな。」
俺はその中へ飛び込んでいった。
こっちにきてから何度も経験しているが、いつまで経っても慣れない。
だから普段はこうなる前に家に帰ることにしている。家の空気は、外の空気の何千倍もいいからだ。




