第十話:シグラー・ロエシェット
真夏の日差しが一気に差し込んでくる。
その天気に合わせるよう、周りの人はみんな薄着だ。観光客らしき人に限っては下着のような姿になっている。男はともかく女はやめてほしい。欲望が増してしまう。
入り口の日陰から飛び出し、繁華街の方向に進んでいく。
『どこに行くんだ?』
「昼飯食いに行くの。」
『そうか。我は何でも構わんぞ。』
「聞いてねぇよ。」
ソロモンをあしらい、日差しの強い道を進んでいく。
息苦しくなってきた。ただでさえ暑くて皮膚がつらいのに、肺にも負担がかかってくる。
町中にそびえたつ建物の日陰に入ろうとするが、同じ思考のやつらが集まってもう空き枠がない。そこでスマホを眺めているのを見ると、腹が立ってくる。
見慣れた景色になってきた。この先を進んでいけば、いつもの牛丼屋が見えてくる。
人と人の間をすり抜けるようにして、町中を進んでいく。
接触した際に汗が飛んできてつらい。タオルかハンカチを持ってくるべきだった。
牛丼屋にたどり着き、急いで入り口を開ける。
「いらっしゃいませ。現在大変混雑しておりまして、こちらに名前を書いてお待ちください。」
自分の目の前に店員がやってきて言った。
自分より少し若めの女性。名札には「研修中」と書かれていた。
店員に渡されたものを見てみる。どうやら俺の前に2組の待ちがあるそうだ。
2組程度なら問題ない。俺は名簿表に名前を書き、それを近くにあった台座に置いて近くの壁にもたれた。本当は待ち椅子に座りたかったが、既に占拠されていたため断念した。
ポケットからスマホを取り出し、いつも見ている動画配信サイトを開く。
興味はないがどこか引き込まれる動画がおススメ欄に次々と表示される。それを無言で選別し、そして再生ボタンを押した。
動画が終盤に差し掛かった時、
「一名でお待ちのレイタ様!」
という声が聞こえた。
俺はゆっくりと手を挙げると、あの店員がこちらの方にやってきた。
「お待たせしましたレイタ様。」
「麗田です。」
「た、大変失礼いたしました麗田様。こちらへどうぞ。」
店員はそう言うと、俺を空いていたカウンター席へ連れて行った。
小さいころから名字を「レイタ」とよく間違えられていたためあまり気にしていない。だが、こっちに来てからはこの経験は初めてな気がする。
カウンター席に座り、いつものタブレットを手に取る。
特に何かが食べたいという気分ではなかったため、昨日と全く同じものを注文し、タブレットを元の位置に戻した。
ポケットからスマホを取り出し、さっき見ていた動画の続きを再生する。
動画が3本目に差し掛かった時、注文していた品が届いた。
動画を眺めながら一気にかき込んでいく。
昼食を平らげ、食器を返却口に戻して牛丼屋を後にした。
牛丼屋を出ると、人通りがまた増していた。若者たちが増え、街全体がにぎわっている。
『ウルよ、図書館に戻るぞ。』
「やだよ、面倒くさい。」
『では何をやるのだ?』
ポケットから財布を取り出し、残金を確認する。
さっきの昼代によって、札がなくなっていた。
「寝る。」
『駄目だ。』
「何で?」
『時間の無駄だからだ。』
ソロモンはキッパリ言った。
「睡眠は生物にとって大切なことだよ。」
『違う。生きるために仕方なく行うことだ。それに、まだ日は出ておるぞ。』
「だからって図書館には戻らねぇよ。本読んでて疲れるからな。」
『本当か?では試すために行こうではないか。』
ソロモンは煽り口調で言ってきた。
ちょっとムカつくが、他にやることがないので仕方がない。
「わかった。戻るよ。」
俺は図書館の方へ向かった。
若い男女が手を繋いで歩いているのが嫌でも目に入ってくる。
本当はその間を割って入ってやりたいが、冷たい視線に耐えられる気がしないので渋々横を通っていく。
『ウルよ。』
カップルを眺めていると、ソロモンが話しかけてきた。
「何?」
『ウルには妃はおらぬのか?』
「は?」
声のボリュームをミスったことで、周辺の視線がこっちに集まる。
俺は頭を低くし、軽く下げてその場をすぐに離れた。
「いるわけないだろ。何言ってんだよ。」
『ウルほどの状態になったら、嫌でも婚姻が行われて子供をつくるはずなのだが…今は違うのか?』
「いつの時代の話してんだよ…。」
俺はあきれ気味に言った。
まぁ、言動から最近の人間の価値観がないことは察しがついたが。
「ソロモンはいたの?」
わかりきったことだが、俺はソロモンに聞いてみた。
『我が地上で君臨していた時は、我の元に妃になりたいと人が押し寄せていてな。』
「ふーん。」
『それらを全て向かい入れたら、いつの間にかその数は千を超えていた。』
「あっそ。」
自慢話を聞かされている感じがしてきた。
さすが王様。俺のような平民が絶対できないこと平然とやってのける。そこにシビれたりあこがれたりしてこないけど。
『全員を愛すことはできなかったが、我の欲が渇望することは…。』
「もういい。聞きたくない。」
ソロモンは言いたげだったが、口を止めた。
耳をふさげないハーレム自慢なんて聞きたくない。
『ウルも相応しい相手がすぐにできると思うぞ。』
「黙れ、殺すぞ。」
俺は息を吐くように言った。
そんな言葉は今までにうんざりするほど聞いてきた。それを聞いて自信を持ち、上手くいっていたら苦労はしてない。
『王に向かって殺すぞとは、貴様も偉そうになったものだな。』
ソロモンは笑いながら言った。その笑いは、嘲笑とは違うようなものだと感じた。
俺は笑っているソロモンを無視し、図書館の方へ向かった。




