25話 人生の分岐点の狭間で
第28章 人生の分岐点の狭間で
あれから、どれくらいの時間が経ったのだろうか。
私は、ずっと夢を探し続けていた。
とにかく、いろいろな仕事をしてみたかった。
多少の資格は持っていたから、
仕事に困ることはなかった。
営業もした。
クレーム対応専門の部署にもいた。
事務職にも就いたし、接客業も経験した。
弁護士や大学教授の方と知り合う機会もあった。
いろいろな「先生」と呼ばれる人たちの話を聞くのは、とても楽しかった。
自分の知らない世界を教えてくれる。
そのことが、何より魅力的に思えた。
正社員を勧められたこともあった。
でも、すべて断った。
「一生続けられる仕事に就きたい」
そう思っていたから、
私は夢を探し続けていた。
そんな日々の中で、
また一人、身内を失った。
引っ越しの準備をしている間に、その人は先に天国へ行ってしまった。
私は、父に本音を言ったことがない。
それでも、幼い頃に八カ国も連れて行ってもらったことは、大人になってから、その特別さに気づいた。
父が建てた二軒目の家。
そこから車で五十分ほどの場所へ、私は引っ越すことを決めた。
地元で築いてきた人間関係も、すべて手放す。
「移住」と呼ぶほど大げさなものではなかったけれど、それでも、私にとっては大きな決断だった。
これは、私の人生の物語だから。
両親にとって、私はいつまでも子どもなのだろう。
でも、私にとっての引っ越しは、まだお試し期間に過ぎなかった。
「ここに引っ越して人生が変わらなかったら、私は地元に帰る。
地元に人脈もすべて置いてきたんだから」
そういうと両親は、静かに頷いた。
この地元で、やり残したことはないか。
そう考えながら、私は一年かけて、いろいろな人にお礼を伝えて回った。
そんなある日、親友に言われた。
「ごめん、一つ言ってなかったことがある」
「え? なに?」
胸騒ぎがした。
「三年前にね、いっちゃんの写真を送ったの。いっちゃんの元カレに。会いたい、謝りたいって言ってたらしいよ。ずっと黙ってて、ごめん」
「あ、そうなんだ。別にいいよ」
親友の先輩がDVの元彼と仲が良い。
私は、SNSが苦手だ。
だからアカウントはすべて鍵をかけ、偽名を使っていた。
本当に心を許せる人にしか、教えていなかった。
元カレは、私と別れてから一度も彼女を作っていなかったらしい。
何年も時間が経っているのに、
私はまだ、どこかで想われていたらしい。
未練なんて、何もなかった。
正直、元彼の心を理解することさえもできなかった。
でももしかしたら、変わっているのかもしれない。
そんな考えが、頭をよぎった。
自分でもおかしいと思いながら、私は親友伝えで電話番号を聞いた。
普通の人間なら、
こんな危うい行動は取らないのかもしれない。
でも、私はたぶん普通じゃない。
本当の意味で、過去と決別したかった。
そんなことを、どこかで思っていた。
そして、過去に私を支配していた元カレに、電話をかけていた。
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ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
本作は、第14回ネット小説大賞「事故物件」部門に応募しています。
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「笑う事を許されなかった部屋」を書いたあと、
さまざまな記憶がフラッシュバックし、
当時の出来事を改めて言葉に残したいと思い、本作を書きました。
自信のある作品とは言えませんが、
悩みを抱えている誰か一人にでも、
この物語が届いてくれたらという気持ちで綴っています。
あと2話で完結予定です。
拙い文章ではありますが、読んで頂きありがとうございます。
巳ノ星 壱果
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